大阪府“医療崩壊”で吉村知事は身動き取れず 西浦・京大教授の分析が示す東京との格差〈dot.〉
吉村洋文知事が「医療緊急事態宣言」を発出し、危機的な状況にある大阪府。 「大阪は政府に緊急事態宣言を要請する基準としていた重症病床使用率 40%(府基準)にまもなく達する見込みです。大阪では自宅療養者5万人、調整中の待機者9万人がいる。緊急事態宣言を要請すべきか吉村知事が判断する予定ですが、医療崩壊が間近に迫る一方、世論の動向を気にするあまり、判断できないようです」(官邸関係者)
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全国の死者数162人(2月9日)のうち大阪府は31人と最多で、東京都の11人と比較し、3倍近くに及ぶ。 吉村知事は早ければ、2月14にも緊急事態宣言を国に要請する可能性に言及し、京都、兵庫の両知事と調整しているという。 新型コロナウイルス、オミクロン株の急激な感染拡大で、大阪府内の新規感染者数を厚生労働省の新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム「HER-SYS(ハーシス)」に入力できず、大幅な遅れが生じ、数を明確に把握できていないことが大阪で大きな問題になっている。 入力の遅れは1月26日からはじまり、現在も混乱している。 「人員は増強しているが、遅れた分を入力していくと、新しい分もすべて入力ができず、積み残しになってしまう」(大阪市保健所感染症対策課) 9日に厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの会合で西浦博・京都大学大学院医学研究科教授が<HER-SYS入力遅れの分析>をこう報告した。 「感染者数が相当、増えたので、HER-SYSの入力に関して都道府県で相当に厳しいところが出始めた。特に大都市圏でHER-SYS入力の遅れが顕著」 「大阪はより深刻」 西浦教授は各自治体ごとのHER-SYS入力の遅れをまとめ、「保健所の崩壊度合い」を「見える化」(定量分析)した。 資料には「診断と同日中のHER-SYS入力の割合」 というグラフがあり、それが1に近ければ近いほど、 診断と同じ日中に入力されたことを示している
これが1から乖離して推移すればするほど、HER-SYSの未処理が多くなっており、「保健所が機能不全」に陥っていることを意味する。 西浦教授の報告によると、大阪府、千葉県、神奈川県、兵庫県などは1からの乖離が顕著で、大阪は1月下旬以降、診断から入力までに「9日」もかかっているケースもあるという。大阪は入力遅れの公表を余儀なくされるほど大幅な遅れとなってしまったのだ。 「この9日間、 陽性患者は保健所からの連絡もなく自宅にいることしかできない。これでは陽性患者を放置と言われても仕方がない」(厚労省関係者) 大阪市役所は公式HPのコロナ発生状況を2月4日以降、更新すらできていない状態だ。 「2月1日以降、大阪府内でクラスターが170件発生しているのに、大阪市内では0件になっており、把握すらできていない混乱状況です。新規陽性者の多い大阪市内では患者数を確認するための番号だけしか入力できていない。今は感染者個人のケア、詳細入力は止め、発番のみを登録する方向で、新規陽性者数の発表だけはしっかり行いたい」(大阪府関係者) しかし、大阪府の大混乱をよそに東京都のグラフを見ると、<報告日付>と<報告のうち、同日中のHER-SYS入力割合>の誤差はあるが、1を少し下回るものの、ほぼ横ばいとなっている。 「大阪は医師が保健所にファックスで新規感染者の報告を送信し、それを保健所のスタッフが手で打ってHER-SYSに入力するというアナログ方式が6割とのことです。東京は保健所ではなく、医師が直接、HER-SYSに登録する対応を徹底しているので遅れがあまり生じていないのだと思います」(東京都内の開業医) 愛知県名古屋市(人口約230万人)は、HER-SYSへの入力など保健所の事務作業をバックアップする「ハーシス(HER-SYS)センター」を1月17日にオープンさせた。河村たかし市長はこう話す
「コロナの第5波で感染者数が増えたとき、名古屋市でもHER-SYSへの入力が数日ほど遅れるということがあった。名古屋市は保健所、各区に保健センターがある。事務方や保健師などと話し合ってHER-SYSの入力が負担になり、遅れるとファーストタッチに影響を及ぼし、命にかかわる事態にもなるので、予算をつけて、センターを設置した」 河村市長によると、医師から届く発生届のファックスを第5波までは、保健所で集約して入力していたため、遅れが生じていたという。 そこで保健センターが発生届のファックスを受信し、データ化。センターのスタッフと共有して、入力するというシステムに替えた。市職員10人、外部スタッフ20~30人の体制だという。 名古屋市の新型コロナウイルス感染症対策室はこう話す。 「PCR検査を受けて、結果が出て新型コロナウイルスに感染が確認となるまで、発症から2~3日かかります。療養期間が10日間ですから、HER-SYSへの入力遅れとなると初期対応が遅れます。またHER-SYSに感染者が直接、アクセスできるマイHER-SYSという機能もありますが、データ入力が遅れるとそれもアクセスできません。また、新規陽性者数をきちんと把握して、前週と比較することはまん延防止等重点措置の対策にとても大事です」 名古屋市の新規感染者数はHER-SYSへの入力遅れは、ほとんどないという。 「数字から名古屋市においては緩やかにピークアウトに向かっていると類推できます」(前出・新型コロナウイルス感染症対策室) 大阪府は新型コロナウイルス感染による死者数は2月10日現在で3302人と東京都の3282人をも上回り、全国最多となっている。大阪府幹部は悲痛な表情で話した。 「吉村知事は昨年9月末、インテックス大阪に84億円をかけて大規模療養センターを作り、第6波が押し寄せた1月末から開設していますが、準備が進まず、患者受け入れは数人にとどまり、今は看護師が電話で健康相談をやっているだけです。15日に中等症用(200床)を開設すると準備をしていますが、間に合うか微妙です。東京都よりも先に、大阪府だけが緊急事態宣言という最悪のシナリオが現実味を帯びて語られている」 (今西憲之 AERAdot.取材
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