中年太りの原因は「代謝の衰え」ではなかった! 「サイエンス」に掲載、本当の原因は?

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思えば遠くへ来たもんだ

 

 

 

 

 中年太りの原因は代謝の衰えではなかった――従来の先入観を覆す論文が昨年8月「サイエンス」に発表された。調査に関わった「国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所」の山田陽介氏が明かす「不都合な真実」とは。

 

 

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 年末年始を迎え、会食などの機会が増えるこの時期、太ってしまうことを気にしている方も多いのではないでしょうか。  自らの出っ張ったお腹を見て、「仕方がない。若い頃と違って代謝が落ちているんだから、多少太るのは当然のこと」――そうやって自分を慰める中年の方もいらっしゃるでしょう。  そんな方々にとって、今回、私が関わった調査の結果は耳の痛い話かもしれません。調査によって明らかになった事実、それは次のようなものでした。  20代の若者も、40代、50代の中高年も実は代謝に大差はない――。  つまり、「中年太り」は代謝のせいにはできないのです。 〈と、衝撃的な「不都合な真実」を語るのは、「国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所」の山田陽介特別研究員だ。  若い頃はどんなに暴飲暴食しても太らなかったのに、年を取ったらちょっとしたことですぐに太ってしまい、しかも痩せにくい。多くの中年が抱いている「実感」であろう。  これまでは、年を重ねるごとに代謝が衰えてエネルギー消費量が減り、体内に余剰エネルギーが蓄積されていくために中年太りが起こるとされてきた。事実、ネット上にはそうした言説が溢れ、半ば「常識」と化している。年齢による代謝の衰えに伴う中年太りは自然の摂理であり、不可抗力なのだと。  ところが今年8月、山田氏をはじめ、筑波大学や京都先端科学大学の研究者など、国際的な科学者チームが米国の科学誌「サイエンス」に発表した論文で明らかにしたのは、中年太りの原因は代謝量の変化ではないという事実だった。常識が覆されたのである。〉  今回、私を含む80人以上の共同研究者は、5年間かけて29カ国6600人超の人に調査を行いました。対象者は先進国のみならず、低所得国や狩猟・採集生活を続けている人、高地に住んでいる人などで、全世界のあらゆる環境に住む人々のデータを集めたと言っても過言ではないでしょう。  

 

その結果、身体活動レベルが「ふつう」の男性の、1日あたりの「代謝量=総エネルギー消費量」は次の通りでした。

 

 ・6~7歳 1550キロカロリー ・18~29歳 2650キロカロリー ・30~49歳 2700キロカロリー ・50~64歳 2600キロカロリー  

 

また、女性は以下の通りです。 

 

・6~7歳 1450キロカロリー ・18~29歳 2000キロカロリー ・30~49歳 2050キロカロリー ・50~64歳 1950キロカロリー  18歳から64歳までを見ると、代謝量にほとんど差がないことが分かります。それどころか、「18~29歳」より「30~49歳」のほうが代謝量は若干増えています。これでは、代謝の低下を中年太りの言い訳にすることはできませんよね。  ここで、改めて「代謝」について考えてみたいと思います

 

 

 

基礎代謝は20代から50代でほとんど変化せず

 人間は摂取したエネルギーを消費することで生きています。エネルギー消費には3種類あり、「基礎代謝」、「食物の消化吸収」、そして「身体活動」です。基礎代謝は、生きていく上で臓器などが自然にエネルギーを消費することを意味し、食物の消化吸収は食べる時に使うエネルギー消費、身体活動は家事やスポーツなど身体を動かすことに伴うエネルギーの消費です。これら三つを合わせたものが代謝、すなわち総エネルギー消費です。  これまで主に注目されてきたのは基礎代謝でしたが、基礎代謝が総エネルギー消費に占める割合は50~70%に過ぎません。そこで今回、その他二つの食物の消化吸収と身体活動を合わせた総エネルギー消費量に着目したところ、20代の若者も中高年も、1日に消費するエネルギーはほとんど変わらないことが浮き彫りとなったわけです。なお今回の調査では、基礎代謝に関しても実は20代から50代までほとんど変化がないことが分かりました。  しかしながら、肥満度合いを表すBMI(体格指数)の値は、20代よりも30~50代のほうが明確に大きい。つまり、中年太りという「現象」は間違いなく存在しているのです。では、代謝が理由でないとすると、なぜ中年太りは起きるのでしょうか。  世代別の総エネルギー消費量が変わらない以上、原因は他にあると考えられます。アウトプットである総エネルギー消費量に変化がないのであればインプットに問題があるのではないか、つまりカロリー摂取量の増加が中年太りの直接的な原因ではないかと仮定することができます。若い時と同じように中年になってからもエネルギーを消費したところで、若い頃よりも多量のカロリーを摂取すれば、当然、余剰カロリーが体内に溜まり、太ってしまいます。

世代によって明らかに変化する運動量

 しかし、現時点で食べ過ぎが中年太りの原因だと断定することはできません。なぜなら、意外に思われるかもしれませんが、加齢に伴うカロリー摂取量の変化の調査は非常に難しいからです。  現状では、食べたメニューを被験者自身に毎日記録してもらう程度の調査しかできません。ところが、調査が必要な太っている人ほど、正直に申告したくないという心理が働くのか、メニューの書き洩らしがあったりして、調査の信憑性に欠けるのです。そのため、カロリー摂取量の年齢変化に関する信頼性の高い論文は見当たらないのです。とはいえ、アウトプットとインプットの関係から、中年太りの直接的な原因は食べ過ぎにあると仮定するのは妥当であろうと考えられます。  その他に中年太りの原因として考えられるのは、世代によって明らかに変化する運動量です。  厚生労働省が発表している国民健康・栄養調査(2016年)によると、20代男性の1日の歩数が8583であるのに対し、30代で8127、40代で7800、50代で7478と、年をとるごとに確実に減っていきます。  女性も20代が7418であるのに比べ、30代で6521と激減する。これは出産や育児のためと思われますが、その後の40代でも6847、50代も6854と、20代より減少しています。  運動量が減れば、消費されないカロリーが一時的に体内に多く残り、その分、体重が増えます。  一方で、体重が増えるとカロリー(エネルギー)の消費効率は上がります。あくまで例ではありますが、痩せている人が100歩あるいて消費するエネルギーを、太っている人は50歩で消費できるからです。重い身体を1歩動かすためのエネルギーは、軽い身体を1歩動かすそれに比べて大きい。そのため、太っている人の1歩は、痩せている人の1歩よりも多くのエネルギーを消費するわけです

 

 

 

 

 

 

 

更年期太り」の正体

 したがって、運動によるエネルギー消費量(1)は「運動量(2)×エネルギー消費効率(3)」なので、(2)は多いが痩せているので(3)は小さい20代と、(2)は少ないが太っているため(3)は大きい40代、50代では、結果的に運動によるエネルギー消費量はあまり変わらないことになります。  しかし、(1)がほとんど変わらないとしても、一度太って運動量が落ち、それが習慣化してしまうと、そこから運動量を元に回復するのはなかなか難しい。つまり、痩せられない。これが運動量の低下が中年太りのひとつの要因であると考えられるメカニズムです。いかに運動量の低下を防ぐかも、中年太りにならないための鍵といえるでしょう。  さらに、中年太りを考える上で注意すべきは「蓄積」です。というのも、大阪大学の学生を調査した結果によると、実家暮らしより、ひとり暮らしの学生のほうが太りやすいことが判明しました。この原因のひとつは、ひとり暮らしのほうがピザやチキンナゲットなどの高脂肪でカロリー密度の高い「UPF(超加工食品)」のような食事を多く摂る傾向にあることです。これに加え、ひとり暮らしのほうが大学に近い場所に住むことになるので、通学の手間が省かれてカロリー消費が抑えられるためではないかと考えられます。  同様の理由から、人生で最も太りやすい時期は、大学入学以外に、就職、結婚の時期だといわれています。それぞれのタイミングでひとり暮らしを始めたり、デスクワークによって運動量が減ったり、食生活が変化して太る。こうした人生のイベントを機に太った分の「蓄積」が、中年太りという結果をもたらしている可能性があるのです。

女性の「更年期太り」の原因は? 

 また、女性は中年太り以外に「更年期太り」するともいわれてきましたが、体重増加という観点から考えた場合、やはり同様の理由から、更年期だから太るのではなく、実は出産や育児などによる運動量の低下等を原因とする体重増加の蓄積が、更年期太りとなって現れるに過ぎない可能性が高い。つまり、更年期だから体重が増加するのではなく、それまでの積み重ねの結果と考えられるのです。  ただし、「体重」ではなく「見た目」の更年期太りはあるといえるでしょう。  女性ホルモンは身体に皮下脂肪を蓄える役割を持ち、女性らしい柔らかな身体つきをもたらします。この女性ホルモンが更年期になると一気に減少し、皮下脂肪を蓄える能力が衰えます。その代わりに、内臓脂肪や血中の中性脂肪が身体に蓄積されやすくなる。内臓脂肪が増えると腹囲も増加するため、ぷっくりとお腹が出るという「見た目上の更年期太り」につながるのです。  ここまで中年太りや更年期太りについて説明してきましたが、そもそも近年、日本人全体が肥満化の傾向にあるといえます。日本人全体のBMI平均値は年々上昇している。要は、日本人は毎年太り続けているのです。その原因は、食生活の変化にあると考えられています。  今年、英国の「Nature Medicine」誌に発表された論文では、被験者に脂質を抑えた低脂質食(白米などを中心とした食事)と、糖質を控えめにした低糖質食(白米の量が少なく、肉などの量が増加した食事)のメニューを提示し、バイキング形式で自由に食べていいと指示した場合、後者を選んだ人のほうが多くのカロリーを摂取したことが明らかにされています。  ハンバーガーなどを食べると多く摂取される脂質は1グラムあたり9キロカロリーで、白米などに多く含まれる糖質は1グラムあたり4キロカロリー。脂質のほうが、カロリー密度が高い。同じ満腹感を得る、すなわち胃の容量を満たした場合、必然的にカロリー密度の高い脂質を多く食べることになる低糖質食のほうが摂取カロリーが多くなるのです。  このことから考えても、日本人のBMIが年々増加している背景には、低脂質食から低糖質食へという食生活の変化があると考えられるのです

 

 

 

 

ちょっと」の積み重ね

 今、「ロカボ」と言われる低糖質ダイエットが持て囃されています。たしかに、糖質(≒炭水化物)を減らせば、一時的に体重は大きく減ります。しかしこれは、本来、体内に保持されるはずの水分が保持されていないだけに過ぎません。  体内の水分の多くはグルコースが長く連なったグリコーゲンにくっつく形で存在しています。糖質=グルコースを削れば、当然、グリコーゲンが減少し、それに伴い体内の水分も減る。その結果、体重が減るわけですが、これは言ってみれば、身体が脱水症状に陥っているに等しい状態なので、必ず頭打ちになります。グリコーゲン自体、生命を維持していく上で必須なものなので、糖質制限には限界があるのです。もちろん、糖質制限をやめれば体重は元に戻ります。ロカボだけで「痩身を維持する」ことは難しく、やはり運動量の低下に気をつけるべきでしょう。  中年太り以外では、最近の研究によって「コロナ太り」も間違いなく存在するという見方が定着しつつあります。例えば、座位中心のオフィスワークをしている30代男性の1日の総エネルギー消費量が2800キロカロリーであるのに対し、テレワークになると2400キロカロリーに低下するという研究結果があります。テレワークの人には、自転車を漕ぐなど15分程度の運動を4回してもらったにも拘(かかわ)らずです。座位中心とはいえ、通勤で歩く、職場で書類を渡すためにちょっと移動する。この「ちょっと」の積み重ねが、意外とカロリー消費に役立っているのではないかと考えられます。

年末年始やゴールデンウイークに体重が増加

 さらに肥満に関係する話で言うと、「ホリデー・ウエートゲイン」という言葉を覚えておいて損はないと思います。  これは、休日が連続することで運動量が低下し、カロリー消費量が減るために体重が増えるとされる現象です。肥満大国の米国では、人は10年で10キロ増えるといわれますが、これにはホリデー・ウエートゲインが大きく影響しています。長期休暇で体重が増え、それがまた次の長期休暇に持ち越され、そしてまた次の長期休暇に……といった具合に、雪だるま式に太っていってしまうのです。ちなみに日本では、原因はまだ不明なところも多いのですが、年末年始はもちろん、ゴールデンウイークに最も体重が増えるというデータがあります。  いずれにしても、年末年始のホリデーとなる今の時期は、代謝を言い訳にできない以上、食生活や運動量など、自身の肥満要素を見つめ直すよい機会なのではないでしょうか。 

 

 

山田陽介(やまだようすけ) 

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所特別研究員。1980年生まれ、京都大学総合人間学部卒業。京都府立医科大学での日本学術振興会特別研究員などを経た後、2014年から「国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所」で研究に従事。研究テーマは、運動科学や栄養・代謝学など。 「週刊新潮」2021年12月30日・2022年1月6日号 掲載

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