ドイツ全土に迫る「ブラックアウト」の危機…!今、非常事態が実際に起こっている

現代ビジネス

クリスマス休暇中に迫る危機

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 ドイツのある自治体の危機管理部門が、大きな病院、あるいはライフラインを司る機関などに宛てた文書を入手した。 

 

脱炭素原理主義が今の「自業自得エネルギー危機」を招いている  

 

 

「本来なら、喜ばしい知らせで溢れるべきクリスマスの直前に、このような文書を送ることは避けたかった」という文で始まるそれには、14日分の水と食料などを、何が何でも確保するようにという要請が、強い口調で書かれていた。  「非常事態が起こっているように聞こえるが、実際に起こっているのだ。このようなことを知らせるのは心苦しい。杞憂であることを祈っている。しかし、心配すべきいくつかのことが同時に進行している」  文書の要点は下記だ。  1)急速なオミクロンの感染拡大 2)電気市場の混乱 3)ガス価格の異常な高騰 4)例年の平均を下回るガスの備蓄 5)深刻なITセキュリティの盲点  まず、1)では、オミクロンが病人、あるいは自宅待機者、もしくはその両方を急増させ、それによりサプライチェーンが切断され、深刻な物資不足、ライフラインの崩壊が引き起こされる可能性が指摘されている。  ただ、これらは一般ニュースでも扱われ、警察や消防で増員が図られている様子が報道されているので、国民も承知している。しかし、2)以下については、ほとんど報道はない。  2)すでに電気の市場価格は前年比で10倍になり、しかも大きく変動しており、また、価格の上昇が止まる目処はない。不安定要因として、2021年12月31日に計画されているドイツの3機の原発の停止と、フランスのいくつかの原発が技術上のトラブルによって不測の脱落をする可能性が挙げられている。  3)のガス価格の急騰については、原発の停止により、近年、発電におけるガスの需要が増えていたことも原因の一つだ。今後さらに原発が減るので、まだ価格は上昇する見込み。老朽化した石炭火力の稼働が必要になれば、技術上のトラブルの可能性も増す。  4)の備蓄に関しては、ヨーロッパ各国、特にドイツ、オーストリアでは、今、通常の量を大きく下回っている。すでに、今年の冬の電力逼迫を予想する警告が出されており、それに伴い、食料、暖房燃料など、一般物資の供給不足も危惧されている。  5)のITセキュリティでは、現在、滅多に出ることのない最高レベルの警告が出ているという。サイバーテロで真っ先に狙われるのは電気の系統だが、脆弱性はまだ除去できておらず、危険はクリスマス休暇中にさらに増す可能性がある

 

 

 

 

ガスの高騰がインフレを招き

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 12月22日現在、

私のいるライプツィヒでは、

一日中ほぼ零下の日もある

 

 

 

これから本格的な冬の到来で、気温はさらに下がる。そんな時に停電が起これば、まず水道が凍る。台所は電化されているので、調理はもちろん、ただのお湯さえ沸かせない。冷蔵庫のように冷え切った部屋では、赤ん坊や老人が凍えるだろう。  暗く寒い家の中で、携帯電話の充電もできず、外界との連絡が取れなくなった状態は、想像しただけでも恐ろしい。意を決して店に行っても、レジが動かないどころか、自動扉も開かないはずだ。信号機が作動するのかどうかもわからない。  警察や消防でコロナのために欠員が多く出れば、火事になっても、事故が起こっても、早急な対応は期待できなくなる。しかし、前述の文書によれば、私たちは、そんな背筋の凍るような事態のすぐ隣にいるらしい。  実は、現在のブラックアウトの危険は、すでに10年前、メルケル首相が脱原発の期日を大幅に早めた時点で、すでに予想されていた。  

 

当時17基あった原発は、

 

今では6基稼働するのみだが、

 

そのうちの3基が今年の12月31日で停止し、

 

最後の3基が、来年の12月で停止する予定だ。

 

あと数日で停止する3基の原発は、それだけでオーストリアの電力の半分を賄えるだけの出力だという。それだけの電気があと数日で、一気にドイツの系統から失われるのである。  しかも、いまだにそれを代替する確かな電源がない。代替電源を確保しないまま原発を停止するのは、無謀以外の何物でもない。当初より、そう警告していた電力事業関係者は少なくなかったが、その声は政治家や環境NGOの圧力にかき消された。  それどころか、当時のドイツ国民は脱原発に沸いていた。原発の代わりに太陽と風を使えば良い。再エネは安全で、無尽蔵で、しかもタダだと、皆が考えた。  しかし、実際には太陽や風は原発の代わりにはならず、現在、より多くのガスが必要になった。そして、そのガスが、コロナの流行、あるいは過激な石炭火力の削減など、当時予想されなかった様々な事情で極度の品薄になり、高騰しているのだ。  当然のことながら、ガスの高騰は電気のみならず、ガソリンや食料品や公共の交通機関などすべての物価に影響を与え、ドイツ人のトラウマとも言えるインフレが進んでいる。インフレ率は11月、前年同月比ですでに5%を超えた。ガスの高騰で始まったインフレなので、ガスフレとも呼ばれている

 

 

トップニュースはコロナ関連ばかり

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 インフレにしろ、ガスフレにしろ、景気の悪い時の物価上昇は国家経済にとっては毒である。しかし、政府は国民の不満を抑えるためか、いまだにその影響を過小評価し、これは一時的な現象だと思わせようとしているように見える。  EUもなぜか効果的なインフレ対策には踏み込まない。また、ガス不足の原因は、ロシアのプーチン大統領の陰謀であるかのような論調も多い。  いずれにせよ、ドイツのメインニュースでは、インフレについてはさらっと触れるだけだ。ましてや、迫り来るブラックアウトの危険など、まるで存在しないかのよう。その代わり、毎日トップニュースはコロナ関連。  感染の状況、医療の実態、政治家や専門家のコメント、ワクチン接種の進み具合などが、微に入り細を穿って解説される。そして、目に飛び込む映像は、まさに連日、判で押したように、誰かの腕にブスリと注射針が刺さるシーン。  ドイツではオミクロンの感染拡大はまだ始まっていないが、政府はまもなく始まることを前提に、さまざまな規制を強化し始めた。現在、ワクチン接種を済ませたか、あるいは、コロナに罹って快癒した証明がなければ、買い物も許されない(スーパーとドラッグストアと薬局は例外)。  だから、ワクチン接種は強制ではないという建前でも、未接種のままでは普通の社会生活が送れず、実際には強制のようなものだ。それどころか、本当にワクチン接種が義務になる日も近いという。  そして、そんな一部始終を、メディアが深刻な顔つきで追っていく。おかげで、コロナをめぐる危機感だけは否応なしに醸成されていく。それに比べれば、ブラックアウトなど、国民の頭の中では映画のストーリーに等しい。  24日はクリスマス・イブ。ドイツでは25日と26日が祝日で、クリスマスの本番だ(今年は土・日と重なってしまったが)。普段なら、そこから大晦日にかけての日々は、家族や友人が集い、老いも若きも、皆が楽しみにしているイベントが続く。  去年はコロナのせいで、それらが大きく規制されたため、今年こそはと皆が楽しみにしていたが、政府は再び急ブレーキをかけた。クリスマス・マーケットも中止となった州が多く、人々の落胆は大きい。今、本当なら一年で一番楽しい時期のはずなのに、コロナが人々の心を圧迫し、国中に重苦しさが垂れ込めている

 

 

 

政府とメディアの共同作戦なのか

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 では、ブラックアウトは?   真冬のブラックアウトが数日も続けば、コロナより大勢の犠牲者を出すことは間違いない。こちらの方がおそらくオミクロンよりも深刻だ。私たちは、本当はとても危うい綱を渡っているのではないか。  しかし、たとえブラックアウトの危険が深刻でも、冒頭のような警告が一般市民に向かって発表されることは、今のところないという。そんなことをしたら、必ずパニックが巻き起こり、社会が混乱するからだそうだ。  こうしてみると、結局、私たちは、自分たちがどんな状況にいるのか、たいして知らされていないのかもしれない。それは、過去の数多の戦時においてもそうだったし、今も同じなのだろう。  ニュース番組の半分をコロナが占めるのは、ひょっとすると、もっと危急で、もっと深刻な危険から、私たちの目を逸らすための、政府とメディアの共同作戦ではないかという思いが、ふと脳裏をよぎることがある。

 

 

川口 マーン 惠美(作家

 

 

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