綾小路きみまろ/誌上独演会「コロナと毒舌」〈東京五輪で芸能生活に一区切りつけようと思っていたが…〉――文藝春秋特選記事【全文公開】

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綾小路きみまろ(漫談家)

 

 

「文藝春秋」11月号の特選記事を公開します。文/綾小路きみまろ(漫談家) 

 

 

◆ ◆ ◆ 「お父さん、お父さん」 「なんだ?」 「世の中、横文字が多くてね、さっぱり分からないんだけど。パンデミックってなに?」 「パンデミック、パンデミックス、パンでミックス……ミックスサンドのことじゃないか」  私のレパートリーの一つに「夫婦の会話」というネタがありますが、なかでもこうした横文字シリーズが好評です。近頃の奥様方はテレビばかり見ていますから。朝から晩まで同じニュースをずっと見ているの。時々、分からない言葉が出てくると、ご主人に聞くしかないでしょう。  最近になってコロナバージョンが加わりました。 「お父さん、ロックダウン、ロックダウンって言ってるけど、どういう意味なの?」 「ロックダウンはおまえ、69(歳)でダウンすることじゃないか」  コロナの話題は避けられないし、どうしても暗くなりがちだから会話漫談で笑いに変えようと工夫しています。それに「きみまろはコロナになっても何も変わっていない、勉強していない」って思われるのも癪でしょ。だから1時間の漫談ライブの中に以前から時事ネタもちょっと入れるようにしていました。 「お父さん、デジカメってどんなカメ?」 「デジカメ?  デジカメはおまえ、外来種だろ」 「TPPってなに?」 「トイレでピーピー言ってんだろう。70になった夫婦に、お前、TPPなんて関係ないよ。政府のトップの先生方がピーピー言ってるんだ。だからTPPなんだろ」  くだらない夫婦の会話を立て続けにやっていくんですが、ぜひ生のライブで味わってみてください。 客席が遠くに感じた 「中高年のアイドル」と呼ばれて幾星霜、昨年、私は70歳、古希を迎えました。古希というと、歩くだけで膝が「コキコキ」と鳴りますし、寄る年波には勝てません。  実を申しますと、東京五輪の年に芸能活動に一区切りをつけることも考えていました。古希と東京五輪のセットがいい節目になるなと思いましてね。しばらくハワイなんかで悠々自適に暮らすのもいいな、なんて思っていました。ところが状況も予定もすっかり変わってしまった。  今でこそ笑いにしていますが、コロナが感染拡大し始めた当初、精神的に参ってしまいました。  2020年2月に宮古島で2日間にわたりライブを行いましたが、それを最後に、ほとんどのライブが延期・中止となりました。それまで年間約100本以上のライブに全国各地で出演してきましたが、半年以上ライブができなくなったのです。チケットを買っていただいたお客様はお待たせするし、ライブを手伝ってくれる音響や照明などの制作スタッフの仕事もなくなる。私だけの問題ではないので、本当に苦しかった。  9月頃からライブを再開しても、感染防止のため、お客様は一席おきにしか座れません。1000人キャパのホールに500人といった具合です。  さらに、チケットを買って会場に行こうとしたら、お子さんから「行くな」と止められるお客様もいるんですね。「会場で感染でもして孫にうつったらどうするの」って怒られているわけです。  再開後のライブはある種、異様な雰囲気ですよ。お客様全員がマスクはもちろん、最前列にはフェイスシールドを付けて着席しています。会場中がワ~ッと爆笑する代わりに、最前列の年配の女性がマスクをして私をジっと見つめてくる。「大声を出さないで」と言われているから、皆さん本当に大人しい。マスク越しで遠慮がちに笑うから、笑い声が聞こえず、客席が遠く感じられるんですよね。  それまで3分あればお客さんを掴めましたが、どうしても10分以上かかってしまいます。どうやって笑いを取るか、すごく悩みましたね。  そこで、それまでの2倍くらいの力を出すように心がけています。今までもがむしゃらにやってきましたが、さらに必死にです。毎回汗だくになりながら、大きな声でガンガンと。一生懸命やれば必ず伝わると思って頑張っています