神奈川・川崎市で1日あたりのコロナ陽性率「95%」相当を記録? 異様な高さになった理由とは〈dot.〉

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 全国で新型コロナウイルスが爆発的に感染を広げるなか、神奈川県川崎市の陽性率が高い値で推移している。毎日その日の陽性率を1週間平均で算出した東京都の陽性率は23.3%(8月18日)、週に1度の平均を出す神奈川県では、横浜市が33.3%(8日時点)、県全体が34.82%(17日時点)なのに対し、川崎市が公表する陽性率は1週間平均で40%を上回る(17日時点)。さらに今月14日の数でみると、同市で確認した陽性者663人に対し、検査人数は696人。陽性者数を検査人数で割ると、計算上、陽性率「95%」という異様な高さになるのだ。高い数値の背景にはいったい何があるのか。

 

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*  *  *  川崎市は毎週、1週間単位でコロナの陽性率を公表している。市がウェブサイトに掲載している新型コロナウイルスのモニタリング状況には、「陽性率が実際よりも高い状況となっています」という注記が書かれている。  市健康福祉局保健所感染症対策課によると、その背景に、民間の検査機関等が独自に実施している自費検査があるという。ひとつが、陽性者数報告の「タイムラグ」だ。 「濃厚接触者などが公費負担で受けられる行政検査は、検査した翌日に市に実績が報告されます。しかし、民間のクリニックなどが独自に行う自費検査で出た結果は、必ず翌日に報告が上がってくるわけではなく、なかには1~2週間遅れて報告があるケースもあります。市が発表する陽性者数は、その日の公表時点までに集まった数字のため、誤差が生じます」(川崎市健康福祉局保健所感染症対策課)  さらに、自費検査を提供する市内の事業者のなかに、陽性率を算出するための母数となる「検査人数」を定期的に報告しないところがあることも一因だという。 「陽性者の報告のみで検査人数を報告してくださらないところがあるため、その数が考慮されていないことが大きいと予測されます。ただ、検査人数の報告は義務ではないため、市としてはご協力をお願いしている、という状況です」(同

 

 

 

陽性者については、自宅療養の判断や医療機関につなぐなど、市の保健所が経過をみる仕組みになっているため、市に報告が上がってくる。だが検査人数が報告されない場合、検査人数を「ゼロ」とみなして陽性率を計算するため、結果として実態よりも高くなる、というわけだ。  さらに、川崎市特有の事情もあるようだ。 「市内で自費検査を行うあるクリニックが、同系列のクリニックを市外にお持ちであるにもかかわらず、発生届をすべて川崎市に提出している、ということがありました。市外のクリニックで判明した陽性者は、8月に入ってから約50~160人以上います」(同)  そこで市は17日掲載分から、陽性率の算出方法を改めた。 「川崎市外での検体採取によって確認された陽性者数を除いて算出することにしました」(同)  あくまでも、陽性率を算出する時だけ市外の人数を除き、陽性者数としては発生届を受けた自治体として川崎市の人数にカウントするという。だが新しい算出方法で計算しても、川崎市の直近1週間の陽性率は42.9%と依然として高い。それは先に述べた「タイムラグ」と「検査人数未報告」の影響が大きいというのが市の説明だ。ちなみに、市外の人を含めた従来の計算方法での陽性率は54.9%だった。  行政検査以外の検査人数の把握が困難なのはなぜなのか。検査を担う「臨床検査技師」が所属する日本臨床衛生検査技師会の横地常広副会長が説明する。 「民間の検査には、医療機関で行う保険点数がつくものと、検査を専門で行う保険適用外の自由診療による自費検査があります。自由診療であっても都道府県の承認を得る必要があるのですが、新型コロナのPCR検査に関しては、検査数を増やしていくことがしきりに言われてきたこともあり、承認審査が少し簡易化され、許可を得やすい状態になっています。仕事の都合や帰省する時に陰性証明書が欲しいという人向けに、自費検査ができる検査センターが全国的に増えていきました

 

 

 

厚生労働省の検査班に聞くと、検査センターなど医療機関以外で行った自費検査の結果は、「陽性者数も検査数も行政に報告する義務はない」という。 「検査を提供する前、受検希望者に対して、検査結果が陽性だった場合には提携する医療機関などを受診することを誓約させることになっています。なので、あらかじめ検査センターなどには、提携医療機関を紹介できる体制を整えるようにしてもらっています」(厚労省)  陽性者は医療機関を受診し、医師が新型コロナの診断をした時に発生届を保健所に提出することが義務になっている。それにより、陽性者の数がすくい上げられる、という仕組みなのだ。  横地さんはこう指摘する。 「検査人数を報告しなくてもいいため、自由診療から上がってくる陽性率は計算上100%にもなりえます。そこに行政検査(民間の検査機関や医療機関など)の陽性者数を足し合わせるため、数字が跳ね上がることがあるのです。行政がどう考えるかにもよりますが、今後は、行政検査と自由診療とを分けていくことも検討した方がいいかもしれません」  自費検査を受ける人は、「陰性証明書」の発行を目的とする人が多く、発熱などの症状がないケースが大半だ。そのため、検査人数に対する陽性率は総じて低いと推測されるという。  ただ、第5波の爆発的な感染拡大により、保健所や医療機関が逼迫しているなか、ちょっと熱がある人も自由診療に流れている可能性がある。その場での感染のリスクも拭いきれない。  陽性率は、地域にどの程度感染が広がっているかを知る手掛かりとなり、警戒基準のステージを判断する重要な指標の一つでもある。実態を反映した数値を計測する仕組みが求められる。

 

 

 (AERA dot.編集部・岩下明日香