海底資源の宝庫? 新しい島を産んだ小笠原諸島の可能性

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ITmedia ビジネスオンライン

新しい島が生まれた(海上保安庁資料より)

 

 

 8月13日に、小笠原諸島南硫黄島近くにある海底火山福徳岡ノ場」で直径1キロの新しい島が確認された。

 

 

  【画像】新たに島が生まれた「福徳岡ノ場」と、太平洋に位置する日本の島々 

 

 

 日本は世界でも有数の島国で、地震を引き起こすプレートの境界に位置する小笠原諸島では度々新たな島が顔をのぞかせ、時には噴火が落ち着いてしばらくすると海中に沈むこともあった。  2019年行われた国土審議会の資料によれば、日本は北海道・本州・四国・九州・沖縄本島のいわゆる「本土」5つの島に加えて、大小6847の「離島」があるという。  今回の噴火が落ち着いて水没するなどしなければ、この新島も晴れて正式な「島」としてカウントされ、経済的な恩恵をも私たちにもたらし得る存在となるだろう。

島をとりまく3つの海域

 新たな「島」が誕生すると、基本的に3つの海域が島の周りに設定されることになる。それは、領海・接続水域・排他的経済水域だ。  領海は干潮の際に露出する海岸線(低潮線)から12海里、約22.2キロメートルの範囲で定義される領域である。ここで他国の船が漁などを行った場合は、主権国として乗組員を拿捕(だほ)ないしは逮捕できる。  接続水域とは、領海の外側に設定される水域のことで、領海の外側から12海里、つまり低潮線からは24海里、約44.4キロメートルの範囲で定義される。近年、中国からの漁船が尖閣諸島付近で操業する事象があるが、このとき、漁船が領海に入ってこないように予防的措置として接続水域上で海上保安庁が警告を行うケースが増えている。  そして、低潮線から200海里、約370.4キロメートルまでの領域が「排他的経済水域」として定義される海域だ。この海域では他国の航行や飛行を制限することはない。しかし、そこに属する天然資源を採取したり管理したりするという主権的な権利は、その島の属する国が持つことになる。  日本は島国で狭小な国土といわれることもある。確かに日本の国土面積は約38万平方キロと世界で62位であり、1億人以上の国としては狭小な立ち位置に属する。しかし、領海および排他的経済水域の広さは世界で第6位、約447万平方キロと国土の10倍以上にものぼるのだ。447万平方キロは、インド全体の国土面積よりも、1.35倍広い規模である。  日本の排他的経済水域が広いのは、日本における太平洋側の島々が陸に囲まれていない「外海」であり、それぞれの島が点在していることが要因である。日本の国土面積の98%が北海道や本州、四国、九州、沖縄本島といった「本土」で占められているが、残りの2%を占める6847の「離島」のうち、太平洋の辺境にある小さな島々が多くの排他的経済水域を確保するにあたり、大きく貢献しているのだ。  今回発見された新島は、南硫黄島の北北東約5キロに位置していることから、新島における排他的経済水域の大部分は南硫黄島の排他的経済水域と重複してしまう。そのため、日本の持つ排他的経済水域が劇的に拡大するまでは至らないが、それでもこのエリアの資源確保という観点で重要な役割を持つ地域であるため、少しでも領土が広がるのに越したことはないだろう

 

 

 

豊富な海底金属資源、生かし切れるか

 日本は以前から鉱物資源に乏しい国であり、電気自動車の需要が高まっているレアメタルはもとより、銅や鉛といったベースメタルの大部分も海外の鉱山に頼っている状況である。  今回発見された新島は小笠原諸島近辺の海域に出現したものであるが、ここは海底から噴出する熱水にベースメタルが豊富に含まれており、それが凝固した「海底熱水鉱床」とよばれる海底資源が多く分布するエリアでもある。  18年10月には独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が、海底熱水鉱床から採取した鉱石から亜鉛地金の製錬に成功した。しかし、やはり陸上における採取と比較して、費用対効果に乏しく、商業化に乗り切れていないのが現状だ。仮に大規模な資源が海底に眠っていたとしても、他国から購入する方が安ければわざわざコストをかけて採取する必要もない。  その一方で、近年は資源の生産を主に担ってきた資源国が、高次産業である製錬・加工にも乗り出し、天然資源の恩恵をより自国に還元しようとする資源ナショナリズムも台頭しつつある。資源エネルギー庁は、これらの資源における自給率を高めるため、第3期海洋基本計画に基づき、技術検証に乗り出している。その結果は来年度に明らかとなるというが、そこから27年度までに民間企業主導の商業化に向けたプロジェクトが始まる。  ちなみに、日本最東端の南鳥島の排他的経済水域にはレアアースを含む粘土状の堆積物が海底に広く分布している。開発対象となる水深は5000〜6000メートルと、海底熱水鉱床よりも最大で10倍以上も深い場所まで採取の設備を届けなければならない。それだけでなく、レアアースのように供給が限られており、景気動向によっても需要が大きく変わるものは、その双方のバランスが少し崩れただけでも大幅な価格変動が発生する可能性があり、事業化する上では不確実性が高い点で課題がある。  この点について、今回発見された新島の海域に多く分布する海底熱水鉱床は、海底鉱物資源の中でも水深500〜2000メートルと比較的浅いエリアに多く分布しており、含有する金属も銅や鉛のような、需要面・供給面共に安定している金属がメインだ。海洋から有効にベースメタルを採取するノウハウが蓄積されていけば、日本近海に眠るレアアースや石油、天然ガスといった資源にも技術を転用させ、日本の資源自給率向上の見通しも立ってくるだろう。 (古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)

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