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【地球コラム】「汚いパリ」運動拡大
写真続々投稿、抗議デモ
パリにある無料の公衆トイレ=2021年7月26日、パリ[筆者撮影]【時事通信社】
街路樹の根元に捨てられた大量のタバコの吸い殻、歩道をふさぐように積まれたゴミの山―。「花の都」のイメージとはおよそかけ離れたフランス・パリの写真が今春以来、インターネット交流サイト(SNS)上に次々と投稿されている。
パリ市当局は当初、左派のイダルゴ市長に対する右派勢力からの「中傷キャンペーン」だと主張し、火消しに努めたものの、市庁舎前で抗議デモが行われるなど、美化を求める住民の運動が広がっている。仏メディアは、新型コロナウイルスの感染拡大が一因とも指摘する。
(時事通信社パリ特派員 櫻田玲子
汚いのは昔から?「パリ症候群」も
パリの現金自動預払機(ATM)を利用する男性=2021年7月26日、パリ[筆者撮影]【時事通信社】
パリの汚さが指摘されるのは、今回が初めてではない。1990年代には、映画や高級ブランドのイメージからパリに憧れを抱いて訪れた日本人の旅行者や移住者が、実際の街の不潔さに落胆して精神を病む「パリ症候群」という言葉も生まれた。
実際にパリの街を歩くと、色や形が統一された建物の美しさに目を見張る。ごちゃごちゃとした電線や広告、高い建物もない。しかし足元を見ると、目に入るのはタバコの吸い殻や空のペットボトルなどのゴミ。建物に見とれて犬のフンを踏みつけることもある。物乞いやスリも多い。
近年は市民団体がゴミ拾いを行うなど、美化を呼び掛ける運動も広まりつつあるが、なかなか浸透していない。真偽は不明だが、「ゴミをポイ捨てすることで清掃業者の雇用を創出している」と開き直る市民もいる。
さらに、日本に比べて公衆トイレが圧倒的に少なく、運よく見つけても故障中だったり、使えないほどに汚れたりしている場合が多い。コンビニもなく、スーパーなどの店舗では客にトイレを貸し出していない。カフェやバーでコーヒー1杯の注文と引き換えにトイレを借りるしかないが、やむを得ず路上で用を足す人もいる
コロナも一因か
パリで歩道をふさぐように積み上げられたゴミの山=2021年7月26日、パリ[筆者撮影]【時事通信社】
では、なぜ今になって「汚いパリ」運動はここまで広まったのか。仏メディアは、新型コロナウイルスの感染拡大を一因に挙げる。
フィガロ紙によると、市民から最も苦情が多いのが、飲食店の外に設置されたテラス席だという。新型コロナの感染防止策として飲食店の店内営業が禁止されたため、当局は特例としてテラス席の拡大を容認。その結果、本来は歩道だった場所に食べ物が落ちてネズミが発生したり、タバコがポイ捨てされたりする被害が増加した。
今年5月まで続いた新型コロナ対策で美術館や飲食店が閉鎖された上、長距離の移動が禁止となり、近所の散歩程度しか娯楽がなかったことも、市民がパリの汚さに目を向け始めた背景にあるようだ
緑化政策あだに?
パリの路上に置かれたごみ=2021年4月27日、パリ【時事通信社】
環境保護に力を入れるイダルゴ市長は2014年の就任以来、パリの緑化に努めてきた。市内の空き地や建物の壁面に草花を植えた当初は称賛されたが、一部で手入れが行き届かず雑草が伸び放題となり、ゴミ捨て場と化している。
また、イダルゴ市長は道路の車線を減らして自転車道に転換したが、車道と自転車道との間に設置した黄色のポールやコンクリートブロックが「周囲の景観にそぐわない」と批判を受けている。
パリ市は当初、「新型コロナにより清掃人員が1割減少している」と弁明してきた。しかし、強まる批判を受けてイダルゴ市長は4月、「清掃事業に関する区の権限を夏前までに強化する」と表明。グレゴワール副市長は7月5日にツイッターに投稿した動画で八つの対策を発表し、花壇の管理を強化し、ポールやブロックを周辺の景色に合うものに変更する方針を明らかにした
市民の不満収まらず
パリのイダルゴ市長=2021年7月12日、ビルールバンヌ【AFP時事】
それでも市民の不満は収まっていない。グレゴワール副市長の発表翌日の6日、パリ市庁舎前には約300人が「汚いパリ」と書かれたプラカードを持って集まり、抗議デモを行った。主催者は「夏休み明けに抗議行動を再開する」としている。
現在はバカンス期間のためパリを離れる市民が多く、例年に比べ観光客も少ないことから、一部の場所では春に比べて清潔さは改善したように見える。しかし市の美化が進まなければ、市民がバカンスから戻る9月以降、「汚いパリ」運動が激化する可能性もある。(2021年7月28日