五輪日本代表SNSフォロワー数ランキング…変わるスポーツ勢力図

毎日新聞

 日本代表のメダルラッシュに連日胸が熱くなった東京オリンピック。総合系コンサルティング会社・新規事業コンサルタントとして、スポーツ関連のクライアント支援をしている田邊真以子さんが、東京五輪日本代表のSNSフォロワー数ランキングをヒントに、アスリートとSNSの可能性を考えます。【毎日新聞経済プレミア】  今回のオリンピックはほとんどの会場が無観客となったものの、「大会を開催していただけたことに、本当に感謝します」と口々に述べる選手を見て、「こちらこそ、こんな状況の中でも最高のパフォーマンスを見せていただき、尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです」と伝えたい。  小学校の卒業文集に「私は将来オリンピック選手になりたい」と書いた。陸上競技での出場を思い描いたが、中学生で早くも夢破れ、「アスリートを支える側の人になろう」と決心。大学時代は、大学スポーツ新聞の記者、プロチーム・競技団体でのインターンシップ、スタジアムでのアルバイト、被災したスポーツ施設でのボランティア活動など、アスリートを支えるためなら何でもした。  社会人になっても、スポーツイベントやスポーツベンチャーとの協業を提案し、スポーツと関わる機会を作り続けた。そして現在は、コンサルタントとしてスポーツ関連のクライアントの支援をしている。  ◇聖火リレー最終走者「大坂なおみ選手で大正解」  東京オリンピック日本代表選手のインスタグラムのフォロワー数をランキングにした。  テニスの大坂なおみ選手が断トツで280万人。世界の人が注目する開会式で、世界中にファンを持つ大坂なおみ選手が聖火リレーの最終走者を務めたことは大正解だったと私は思う。  ランキング全体を見ると、海外を拠点に活動しており、日本語だけでなく英語などの外国語でも投稿をする選手が上位に入る傾向にあることが分かる。  2位のスケートボード金メダリストの堀米雄斗選手もその一人だ。日本ではまだスケートボードがマイナースポーツだったため、オリンピックで一気に知名度を上げたが、金メダルを取る前から既にフォロワーは100万人を超えていた。メダル獲得後の1週間で25万人以上増えた。  ◇「サッカー選手×スペインクラブ」は最強の組み合わせ  3位はスペインのクラブに在籍しているサッカーの久保建英選手。普段からスペイン語と日本語で投稿しており、20歳にしてフォロワーは117万人。  一方、世界のアスリートでインスタグラムのフォロワー数が最も多いのが、クリスティアーノ・ロナウド選手で3・2億人、続いてリオネル・メッシ選手が2・4億人と共にスペインのサッカークラブで実績を残している選手だ。久保建英選手も含め、「サッカー選手×スペインクラブ在籍経験」の組み合わせはSNSの必勝パターンと言えそうだ。中でもバルセロナとレアル・マドリードの在籍経験者は別格だ。  4位以下もバレーボール、野球などメジャースポーツの選手の名前が並ぶ中、サーフィン銀メダリストの五十嵐カノア選手が7位にランクイン。メダル獲得後にフォロワー数は約20万人増え、54・7万人となった。  5カ国語を操る秀才で、伝えたいファン層に合わせて言語を変えて投稿できるのは、SNSにおいて大きな強みだと思う。気になる選手村の様子や一般客に公開されなかったサーフィン会場の様子を頻繁に投稿しており、ファンの気持ちに応えてくれる私も一押しの選手だ。  ◇SNSはアスリートの商売道具であり強い味方  SNSのフォロワー数は一つの指標に過ぎないが、選手自身のより良い練習環境やセカンドキャリアを見据えると、今後ますますアスリートにとって重要な商売道具となるだろう。  マイナースポーツであっても、海外に照準を合わせることで、国内のメジャースポーツの選手と肩を並べる ことが可能だ。デジタルネーティブ世代の選手たちには、競技やクラブの知名度に頼ることなく、自力でファンを獲得し、スポーツの可能性を広げてくれることに期待したい。  だだし、SNSは時に選手を傷付ける凶器にもなる。悪質な中傷コメントは許し難いものだが、選手たちにはいつ何時も忘れないでいてほしい。大多数のフォロワーはあなたのことが大好きで、どんな時も味方だ。  フォロワーの数が増えるほど、選手を守るファンの存在も増え、like(いいね!)やコメントが選手の支えになってくれることだろう。  ◇SNSと相性抜群のエクストリームスポーツ  スポーツ界でSNSの重要度が高まるほど、東京オリンピック新種目のスケートボードやサーフィン、スポーツクライミングなどの「エクストリームスポーツ」が存在感を増してくるだろう。  「エクストリームスポーツ」とは、過激や極限を意味するextremeが語源で、アクロバティックな技を見せるスポーツを指す。自転車のBMXやバンジージャンプも同ジャンルに属しており、必ずしも競技に勝つことが目的ではない種目もある。米国のテレビ番組「XGAMES」がブームをけん引するが、マスメディアでの露出が少ない中でもこれだけの市場が形成できたのは、SNSを味方につけてきたからだと考える。  スケートボードやサーフィン、スポーツクライミングは数秒間であっと言わせるパフォーマンスを見せることができるため、TikTokやインスタグラムに適している。また、撮影範囲が狭いため、スマホで撮影した映像をそのままアップすることができ、投稿数も増えやすい。  そして何より、人々を引きつける「絵力(えぢから)」がある。ファッションや音楽とのシナジー効果を活用し、発展してきたこともあり、選手たちはウエアの着こなしやヘアスタイルで自身を表現するのが上手で、ファッションの流行を作り出す「ファッショニスタ」が多い傾向にある。  スポーツクライミングの野中生萌選手のインスタグラムを見ていると、ポニーテールにヘアバンドを着けたくなるし、サーフィンの五十嵐カノア選手のインスタグラムは写真集のように美しい。  ◇スポーツ界に新しい風…市場の拡大に寄与  選手へのスポンサー支援を検討する企業にとっても、投稿内容の質や影響力は重要なポイントである。  私が化粧品メーカーのマーケティング担当なら、野中選手とヘアカラー剤を開発し、プロモーションイベントには野中選手と同じ髪色に染めたモデルによるファッションショーを企画したい。  カメラメーカーなら、五十嵐カノア選手モデルのカメラを開発し、ビーチで撮影するイベントをやりたい。その他、エクストリームスポーツの競技者やファンをターゲットにした美容室や音楽配信サービスもビジネスチャンスがありそうだ。  SNSの主戦場がテキストから写真、さらには映像にシフトしている今、「超やべー」「ハンパねー」テクニックを持った選手×ファッション×音楽とくれば、鬼に金棒ではないだろうか。  2024年、パリでオリンピックが開催されるとき、「エクストリームスポーツ」の選手たちのSNSフォロワー数がどこまで伸びているか、とても楽しみである。彼ら彼女らのSNSはスポーツ界に新しい風を吹かせ、今後のスポーツ市場の拡大に寄与してくれることだろう。  ◇田邊真以子  総合系コンサルティング会社・新規事業コンサルタント  1990年生まれ。青山学院大学卒業後、毎日新聞社に入社。広告部門で自治体・大学・不動産会社等の広報マーケティング支援を担当した後、経営企画室にてベンチャー企業投資や新規事業に従事。「全国高校eスポーツ選手権」を立ち上げ、国内におけるeスポーツブームを牽引した。2019年から現職で、クライアントの新規事業を支援