毎日の問答で若手に考える習慣、「怒らない」「否定しない」も徹底
第2回:鹿島 東京土木支店土木部土木工事部長 金﨑伸夫氏
谷川 博
日経クロステック/日経コンストラクション
建設会社の実力を如実に物語るのは建設現場だ。現場運営の巧拙が企業の競争力を左右する。自社の「現場力」をいかに次代へと引き継ぐか。各社共通の課題だといえる。
鹿島東京土木支店土木部土木工事部長の金﨑伸夫氏は、若手との毎日の直接対話を通じて、施工方法や安全・品質対策など現場管理のノウハウを伝えてきた。現場で作業を終える夕刻、若手に翌日の「作業のやり方」を質問。理解が足りなければ、別の手法を例示して若手の気づきを促す。
鹿島東京土木支店土木部土木工事部長の金﨑伸夫氏。1966年生まれ。他の建設会社に17年間勤務し、2006年7月に鹿島に入社。東京ガスの中央幹線建設工事の現場に配属。11年4月に東日本高速道路会社の東京外環自動車道国分工事の現場に配属、16年6月に同現場所長。19年4月に千葉市の中央浄化センター水処理施設建設工事の現場所長、20年4月に国土交通省の東京外環中央JCT(ジャンクション)北側ランプ工事の現場所長。21年4月から現職(写真:日経クロステック)
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土木工事は日ごとに作業内容が異なる。毎日変化する現場の状況を見ながら、自分の頭で作業方法を考える必要がある。「コンクリートを打つ」「型枠を組む」といっても、それぞれやり方は1つではない。現場の状況に応じて、臨機応変に対応しなければならない。
金﨑氏は、若手が自らの目で作業箇所を確かめたうえで、協力会社の職長や作業員らと話し合い、最適な作業方法を考えるよう指示。夕刻の対話では若手からその説明を聞き、作業に対する理解度を確認する。
金﨑氏が作業のやり方にこだわるのは、建設会社の技術者が「造る過程」を知らなければ、現場管理に必要な「SEQDC(安全、環境、品質、工期、コスト)」を守る取り組みが画餅に帰す恐れがあるからだ。重大な事故が起こった後で、「なぜそんなことに気づかなかったのか」と後悔しても遅いのだ。
「最近の若手は真面目で優秀なので、様々な資料を読んで勉強している。安全や工程などの対策を尋ねると、模範解答が返ってくる。ところが、その対策をどうやって実施するのかと問うと、途端に答えに窮する場面が目立つ。“生の現場”は資料とは違う。若手には、その時々の現場の状況を見て考える習慣を身に付けてほしい」(金﨑氏)
金﨑氏はこれまで東京外環自動車道国分工事など大規模な現場の所長を歴任してきた。当初は大現場の慣例に従って、グループ長らに若手の指導を任せていた。しかし、若手が作業内容を十分に把握していないと感じるケースがあった。若手に造る過程を理解させるため、作業に関する直接対話に踏み切った。
「所長から『その作業をどうやるのか』と毎日聞かれれば、若手は作業のやり方を常に意識するようになる。日々の問答を通じて、若手にそうした思考方法を刷り込んでいくのが狙いだ」(金﨑氏)
金﨑氏が現場所長を務めた東京外環自動車道国分工事の朝礼の様子。写真は2018年6月撮影(写真:鹿島