フェイスブックが、ビジネスとして生き残る
最高の手段/活用法は、
利用者たちが相互の”出会い系”
として、使ってくれることです。
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リアルな出会いはフェイスブックに限る」と主張する男性たちの言い分
かつて男性は女性ほど「婚期」というものを意識する必要はないといわれてきた。そのためか、男性でさえあれば40代、50代になっても若くて美しい女性と出会い、交際し、場合によっては結婚が可能だと期待している人が今も少なくない。だが、現実はシビアで、特別な金持ちだったり、有名芸能人だったりなどの特殊な条件でもなければ、思い描くような出会いはない。だが、フェイスブックなら可能性はあると信じている男性たちがいる。ライターの森鷹久氏が、いわゆる出会い系アプリとフェイスブックは違うと主張する彼らの思いを聞いた。
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日本中のあらゆる場所に住む老若男女がスマホを持ち、気軽に様々なネットのサービスを利用できるようになった。生活が便利になったり、知りたい情報をすぐに調べることができたり、そして、出会いの形も変わった。
「世の中悪い人しかいません、基本的には性悪説ですよ。リテラシーは重要です」
達観したような面持ちでスマホの画面に目を落とすのは、都内在住の出版社勤務・加藤一志さん(仮名・50代)。スマホの画面には、25億人以上のユーザー数を誇る世界ナンバーワンのSNS「フェイスブック」が表示されていて、加藤さんは慣れた手つきで新規メッセージが来ていないか、通知が来ていないかをチェックする。筆者が話を聞いた1時間ほどの間にも、およそ5分に一度はアクセスしている。スマホを持つと、条件反射的にフェイスブックアプリをタップしているというレベルだ。
加藤さんがこの2年ほど日課にしているのが、フェイスブック上の「出会いコミュニティ」に参加し、自己紹介を書き込んだり、気になる女性にメッセージを送るなどの「婚活」である。様々な出会い系アプリ、サービスがある中でフェイスブックを使いつつづける理由について、次のように力説する。
「Tinder(ティンダー)やOmiai(お見合い)などのアプリ、サービスでは、やりとりは原則として一対一で行われますよね。登録したら、基本的にはお互いの合意がないとやりとりさえ始められないし、一方的にダイレクトメールを送りつけてくるアカウントもほとんどは詐欺のアカウントなんですよ。私も馬鹿じゃいし、それは知っていますから。その点、フェイスブックのコミュニティであれば、オープンな場所でまず、挨拶などのコミュニケーションを取ることが慣例になっている。だから、生身の相手と必ずやりとりができる。コメントの返事がなくとも、いいねなどのアクションが返ってくるだけでもいい。これは私の『発見』ですよ」(加藤さん)
何よりも、女性のアカウントとコミュニケーションを取ることの重要性を説く加藤さん。もっとも、そのアカウントが、プロフィール写真通りの美しい女性本人なのかは不明だ。そもそも、女性になりすました、詐欺目的でカモを探している中年男性の可能性もあると思うのだが、加藤さんは、確かなコミュニケーションはフェイスブックが一番取りやすいのだと胸を張る
加藤さんがコミュニティ上でやりとりしているアカウントを見ると、いずれも若くて美しい日本人女性らしき写真があるプロフィールになっていた。しかし、彼女たちの勤務先は「AKB48」や有名アニメのタイトルになっていたりと明らかに不自然で、とあるアカウントなどはプロフィール写真にかつてネット系闇金サイトで多用されていたフリー素材の女性写真を使っていた。少し考えれば、すこしでも調べようと思えば、割と簡単に「実在しない人」とわかりそうなものばかりがズラリと並んでいるのである。
だが、加藤さんはこうしたアカウントの書き込みに「可愛いですね」とか「素敵です」、そして時には「ぜひお会いしてみたいです」と大胆な返信をしてまわっていた。いいね、などの反応や返信があれば、即座にレスポンスだ。
「いきなりLINEでお話ししましょう、は詐欺ですね。有料の出会い系サイトに誘導されたり、詐欺サイトのリンクが送られてきたりして危険。私はどれが危ないか、経験からわかります」(加藤さん)
会話の端々に自信あふれる一言を挟む加藤さん。ではこの二年間の間で実際に「出会う」ことができたのかと聞くと、人様に誇れるような「戦果」をあげられていないのだと自虐的な笑みを浮かべる。
「一度お会いした女性は実在する日本人の方で40代だと言っていましたが、会ってみるとどうみても私より年上。人気占い師だということで占ってもらったら、人助けをすると一生安泰に暮らせると言われたんです。お食事のあと部屋に誘われて、さらに借金の相談までされて『人助けしてほしい』って……。まあ、それでも、今はコロナでリアルでの出会いは期待できない。今後、ネットを使った出会いが主流になるし、今後も続けますよ」(加藤さん)
加藤さん自身、誰かに明らかに騙され、金品を巻き上げられている、ということではないし、本人にある程度の知識もある。ただし、可能性があると思いつつやりとりをしているSNS上の女性アカウントは、ほぼ100パーセントが偽アカウントであり、情報収集をされた挙句、詐欺のカモリストに名前を載せられ、危険な目に遭う可能性だってないとはいえない。
詐欺師に騙される可能性について言及すると、やはり「それはわかっている」と筆者を静止する加藤さん。今まで「出会ってきた」女性たちについて、完全に信用しているわけでもない様子だが、そうは認めたくない気配が加藤さんからは漂ってくる。詐欺師でもいいから、女性とされるアカウントとコミュニケーションを取りたい、という欲求がそうさせているとしたら、なんともいえない悲しみを感じてしまう。だが、本当に出会いを求める人にとって、このやり方はあまりに非生産的という他ない。
なぜ、加藤さんはほとんど騙されている状態にも関わらず、SNS上での出会いを求め、信じ続けているのか。似たような過去の事件と、それに関わってしまった男性たちのことを思い出した
とある詐欺事件の取材中、後に逮捕される女性被告にSNS上で勧誘を受けていた、関西地方在住の自営業・盛田守さん(60代・仮名)のアカウントを見つけた。女性被告とフェイスブック上の出会いコミュニティで接点をもっていた盛田さん自身は、これといった「被害」に遭うことはなかった。だが、少なくない数の男性がフェイスブック経由で女性被告に呼び出され、結婚の予定どころかガールフレンドさえいないのに、『未来のために』などと囁かれて結婚指輪を買わされていた。誘惑され、一夜を共にした男もいるとされているが、詳細は定かではない。
被害には遭わなかったものの、いわくつきの女性と接点を持っていたことに臆することなく、盛田さんは今もフェイスブック上で熱心に「婚活」を続けている。怖くないのかというこちらの驚きを察したのか、「非生産的って簡単にいうけどさ」と前置きした上で、自身の置かれた状況から、もうフェイスブックを使う以外に方法が残されていないのだと訴える。
「若い時に家業が傾きかけ、必死で立て直して気がついたら40代後半でした。慌ててお見合いをしたり、結婚相談所にも行きましたがいい人と巡り会えなくてね。当時は怪しいなと思いながらテレクラにも行ったし、パカパカ携帯(ガラケー)で出会い系サイトもやりましたよ。何年か前までは、出会い系アプリにも課金したり、有料お見合いパーティーにも参加して、とにかくやれることはやったんです」(盛田さん)
家業を継いでいるため、盛田さんは中小企業の社長でもあるがさほど裕福ではなく、加齢と共に髪の生え際も後退しつつある。鏡を見るたびに「もうすぐ完全な老人になる」という危機感に苛まれ、もはや一般的な男女が出会いを求め合う現場は、自分にはそぐわないと感じ始めた。そんな時に知ったのがフェイスブック上の出会いコミュニティだった。
アプリなどであれば、いくらこちらから積極的にアプローチしても返信は来ず、寄せられるのはセクシーな外国人アカウントから送られてくる怪しげな詐欺サイトへの誘導ばかりだが、フェイスブック上の出会いコミュニティであれば、オープンな空間でやりとりができる。少なくとも無視される機会は減り、コミュニケーションが取れる可能性が高まる。当然、盛田さんに反応をよこすアカウントのほぼ全ては詐欺アカウント、スパムアカウントに違いないのだが、盛田さんはそれでも「可能性は残っている」と、少ない期待に胸を膨らませる。
「私って面食いなんです。女性とのやりとりも結構できますし、まず容姿が第一条件ですね。もちろん、私の年齢的な問題はありますが、それでも年上が好き、という方がいらっしゃるかもしれない」(盛田さん)
盛田さんの誇る女性遍歴を振り返ると、やはり偏っていると言わざるを得ない。一般的な「お付き合い」をした経験がなく、やりとりをした女性は全て、出会い系サイト上のアカウントか、もしくは婚活パーティーなどにきていた人たちである。こうしたサイト上や場所における、目的がはっきりしている女性たちの行動は、一般的な「出会い」とは大きく意味合いが異なるはずなのだが、盛田さんはそうした女性たちの振る舞いを「普通」と思っているようだ。例えば、どう考えてもお世辞な「素敵ですね」という返信を、盛田さんはすぐに「脈あり」と判断する。そういう具合だから、いくらフラれようと、妙な自信が揺らぐことはなく、今もなお容姿端麗で若い女性の投稿にのみ返信し続けている。
そして、盛田さんが目を止める美女たちのアカウントの中に、本気で出会いを求めている「本物の」女性のアカウントが存在するはずだと吟味を続ける。その品定めのテクニックを教えてもらった。
「これは、女性の顔が東南アジアの人ですので、日本人になりすましている。こっちのアカウントは、ラインに誘われて、ウェブで使えるギフトカードを買わされる……私くらいになるとわかっちゃうんです」(盛田さん)
得意げに、フェイスブック上の怪しいアカウントについて説明を始める盛田さん。非生産的だと知りながらも続ける理由は「反応がもらえるから」と小声で漏らす。
「こんな初老の男に声をかけてくれる人って、もうほとんどいないじゃないですか。相手が詐欺師の可能性があろうと、こちらに反応してくれているっていうだけで、ちょっとホッとするところはあると思いますよ」(盛田さん)
騙されたふりをしながら、数少ない「かまってくれる人」との交流を楽しんでいる、というのが本音だろうか。自分自身が若いときならともかく、高齢になっても若くて美しい女性を現実のパートナーに迎えたいという願いを持つだけなら自由だろう。それを、加齢と共に、自分には縁がないことと受け入れられない葛藤を、詐欺師に利用されることだけは避けて欲しいものだ