「余計な一言」を言う人が好かれるはずもない訳

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東洋経済オンライン

思ったことをストレートに言ったらダメな場面があります(写真:mits/PIXTA)

 

 

 

3坪のたこ焼きの行商から、口コミだけで県外から毎年1万人を集める大繁盛店を作り、ユニークな人材育成法をこれまで延べ45万人に伝えてきた永松茂久氏。その永松氏がコミュニケーションの秘訣を明かし、2020年いちばん売れた会話の本『人は話し方が9割』より、「人に嫌われないための話し方」と「感情にフォーカスした会話」についてそれぞれ秘訣を解説します。  周りの人の話を聞いていると時折、  「なぜ今この人、こんなことを言うんだろう」

 と思わせる人がいます。  「だからこの人は嫌われるんだよな」という言葉を使う人です。  例えば、話し手が、  「私ね、すごく大事にしているワンちゃんがいるの」  と楽しそうに話しているにもかかわらず、  「俺、犬嫌いなんだよね」  と、すぐに言ってしまうような人です。  相手の気持ちを考えず、余計なひと言を言ってしまう人です。  意外にも、世の中には余計なひと言を言ってしまう人がとても多いのです。  仮に自分が犬を苦手としていたとしても、

 「そんなに可愛いんだね。いいね」  とだけ言えばいいのです。  なにも相手は「犬を好きになってくれ」と強要しているわけではないのですから。

 

 

 

 

 

 ■なんでも正直に言えばいいというものではない  うまくいく人は、例えば相手が、  「私、犬が大好きなんだけど」  と言えば、  「そうなんだね。好きなんだね」  と答えます。  そこで、  「あなたはどうですか?」  と聞かれたとしても、  「私は犬を飼っていないからよくわからないけど、あなたがそう言うんだから可愛いんだろうね」

 と答えます。  つまり自分が嫌いだとしても、相手の感情に寄り添う言葉を発するのです。  また、ある人が、  「社長をすごく尊敬してるんだ」  と言ったとします。  であれば「いいことね」と返せばいいだけです。  たとえ、その社長の評判が良くなかったとしても、  「あなたのところの社長、評判悪いよ」  とわざわざ言わなくていいのです。  人間は関係性の中で生きています。  思ったことをストレートに言っていい場合と、絶対に言ってはいけない場合があります。

 

 

 

こう言うと中には、  「世の中には、口は悪いけど本当はいい人っているんだよ」  と言う人がいますが、私に言わせれば口の悪い人でいい人なんていません。  口から出るということは、その人が頭の中で考えているから出るのです。  オレンジをいくら絞ってもオレンジしか出ないように、心の中にない言葉は口からは出てこないのです。  愛ある人の口からは愛のある言葉が、意地の悪い人からは意地の悪い言葉が出てきます。  残念なことですが、否定的なことしか言えない迷惑な人は必ず存在します。

 どんなに正しくても、どんなに本当のことでも、必要のない場面でむやみに相手を傷つけることを言うのはやめましょう。  そして、相手に共感する言葉、寄り添う言葉でコミュニケーションをつなげていけば、必ずその人の魅力は上がります。

 

 

 

 

 ■「言葉だけを拾うようになりましたね」  今でこそ、こうして本を書き、たくさんの人の前で講演したり、コーチングやコンサルティングをしたりしている私ですが、完璧にコミュニケーション上手に変わったわけではありません。

 「三つ子の魂百まで」とよく言いますが、時折、コミュニケーション下手の自分が顔を覗かせます。  先日も、こんなことがありました。  相手はずっと私のところに通ってくれているコンサルティングのクライアントさんでした。そのクライアントさんとは10年来のご縁で、事業の立ち上げの頃から、私のところに来てくれています。  ある課題をクリアし、今後どのように事業展開していくかについて、私のセミナールームでセッションをしていました。

 内容は経営方針ということで、かなりロジカルに話を詰め、そのクライアントさんに必要なことを伝えていたつもりでした……。  クライアントさんが言葉少なめになっていったので、いったんセッションを中断し、テラスでお茶を飲みながら休憩していたところ、クライアントさんがあまりに浮かぬ顔をしていたので理由を聞いてみました。  すると、思わぬひと言を言われました。  「永松さん、最近、言葉だけを拾うようになりましたね」

 

 

 

一瞬、何を言われているのかわかりませんでした。クライアントさんはこう続けました。  「以前は私の感情に向き合ってくれていたように感じていました。今は言葉上の理解しかしてくれていないような気がします」  ハッとしました。経営というロジカルな部分にフォーカスしすぎるあまり、クライアントさんの「感情」というものをスルーしてしまっていたのです。  クライアントさんと書いたその人は、女性の経営者でした。  私のところに来始めた頃は、普通のOLでしたが、その後起業し、ずば抜けた経営センスで今や全国で大活躍している女性起業家。

 私も彼女から学ぶことがたくさんある方です。  「男女問わず、人というものは自分を理解してほしい生き物」  人にはいつも伝えているものの、私はこの時すっかりこのことを忘れ、昔の自分に戻っていました。  すぐに結論を出そうとしてしまい、それ以外のことはあまり重要視しない。良くなるためには、最短で結果の出る方法を考える、というドライな自分がいました。  ただ、大切なのは、「言葉の意味」ではなく「その奥にある感情」です。今風に言えば、空気を読むことの大切さをあらためて彼女の言葉が思い出させてくれました。

 

 

 

 ■「感情にフォーカスする」とは、こういうこと  言葉だけを拾わず、その奥にある相手の感情にフォーカスできるか。  夫婦、恋人、友人、職場の人間関係……。  私たちの人生は、色んな人との関係性の上で成り立っています。  例えば仕事が忙しい時に、奥さん(もしくは恋人)から、  「今は私のことなんか気にしなくていいから、仕事に集中して」

 と言われたとします。  その時に「そうか。ありがとう。じゃあ遠慮なく」と相手の言葉通りに仕事に没頭して連絡の一本もしなかったら、おそらくバトルが始まります。  ある日、突然怒りを爆発させた相手に対してあなたは、  「なんでそんなに不機嫌なんだよ!  君だって今は仕事に集中してって言ったじゃないか!」  と怒り始めます。  これが相手の「言葉だけを理解した」状態です。  奥さんや恋人からすれば、  「だからといって、あまりにも忘れすぎじゃない?  一本の連絡もできないほど忙しいの?  私の気持ちをまったく理解してくれてないじゃない!」

 となるのです。  こうして関係のズレが始まる。ここからはご想像にお任せします。  「相手がこう言ったから」という言葉だけでコミュニケーションを展開していくと、思ってもみない現実を引き寄せてしまうことがあります。  真に大切なのは「言葉」だけでなく、その奥にある「感情」にフォーカスすることです。

永松 茂久 :人財育成JAPAN代表取締役、永松塾。主宰