【社説検証】高校教科書検定 産経「自虐史観を拭えず」

領土や拉致問題を扱った新科目「公共」の教科書
領土や拉致問題を扱った新科目「公共」の教科書

■朝日は領土「修正」に疑義

 来春から使われる高校教科書の検定結果が公表された。学習指導要領改訂に伴う初めての検定である。近現代の日本史と世界史を統合した「歴史総合」や主権者教育を行う「公共」、プログラミングやネットワークを学ぶ「情報I」など、対象の多くが新科目の教科書となった。

■高校教科書検定を めぐる主な社説

【産経】

 ・「従軍慰安婦」削除必要だ (3月31日付)

【朝日】

 ・多様な視点育む検定に (3月31日付)

【毎日】

 ・探究支える体制づくりを (4月1日付)

【読売】

 ・主体的に学ぶ授業への転換を (3月31日付)

【日経】

 ・主権者教育に新教科書生かせ (4月5日付)

 産経は「歴史総合」で大半が「慰安婦」を取り上げるなど、自虐的な傾向が強まったと指摘した。軍や官憲による強制連行というはっきりした誤りはなかったが、「従軍慰安婦」や「慰安婦として従軍させられ-」といった強制性を想起させる文言が検定を通った。産経は「自虐史観が拭えぬ教科書で、視野広く歴史を学ぶ授業が進められるだろうか。憂慮する」とし、「国際的な情報発信の上でも、教科書に不適切な記述が放置されぬよう是正が急がれる」と主張した。

 「従軍慰安婦」は戦後の造語であり、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話でも使われ、9年度から使用の中学教科書に一斉に登場した。批判が高まり、いったんは消えたが、今春から使用される中学教科書で復活した。産経は「是正を阻む背景には中韓などに配慮する教科書検定の『近隣諸国条項』がいまだに残り、検定を縛っていることがある。河野談話とともに改めて見直しを求めたい」と訴えた。

 領土をめぐっては、新しい学習指導要領に沿って、すべての教科書が北方領土や竹島、尖閣諸島を「固有の領土」と明記した。「新必修科目『地理総合』『公共』などで記述充実が図られたことを歓迎する。歴史的経緯など指導する教師も十分理解しておきたい」と論じた産経のほか、読売も「北方領土や竹島、尖閣諸島については、『固有の領土』と明確にする記述が充実した」と評価した。

 

 

これに対し朝日は、領土に関連して、「今回の検定では、北方領土の現状をロシアが『実効支配』『事実上統治』しているとした元の記述に、『生徒が誤解するおそれがある』と意見がつき、『不法占拠』に書き直された。だが、ロシアがどう主張しているかの説明は、そこにはない」と疑義を呈した。ロシアに与(くみ)するような言いようだが、要は「検定意見は政府見解を教科書に載せることに躍起で、書かれさえすればそれで良しとする」態度を問題視したようだ。

 毎日は「領土問題に関する記述に多くの意見がつき、政府見解に基づく表現に修正された。探究型の学習を重視するのなら、多様な意見を知ったうえで、議論を交わし、問題の本質を理解する過程を大事にすべきだろう」とし、日経も「尖閣について『日本が実効支配している』との記述に検定意見がつき、『領有権の問題はないとされる』の一文が加わった。日本と近隣諸国との歴史問題も含め、政府見解を教科書で学ぶことに異論はない。しかし、『問題なし』で素通りするのではなく、背景を知ることも大切だ」と説いた。

 朝日はまた、「戦後補償関連では、旧植民地出身者の扱いや慰安婦の存在に触れ『未解決の問題が多い』と書いたのが不適切とされ、『政府は解決済みとしているが、問題は多い』になった」と指摘し、「現場の教員には、残った『問題は多い』の5文字を手がかりに、丁寧な授業を期待したい」と呼びかけた。これでは、史実をゆがめ、日本を貶(おとし)める「慰安婦」がまた、独り歩きしかねない。

 「情報I」などの新設に加え、これまでの「国語総合」が「現代の国語」「言語文化」に分かれるなど、高校の授業は来春から教科や科目構成が大きく変わる。現場の教師や生徒が混乱なく対応し、存分に活用できるよう、態勢を整えてもらいたい。(内畠嗣雅