「朝から黒人をテレビに出すな」―日本に暮らす黒人ミックスが語る差別とアイデンティティ
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2020年にアメリカで大きなうねりとなったBlack Lives Matter運動は日本にも広がり、日本に暮らす黒人やテニスの大坂なおみ選手のようなバイレイシャルの人々に対する差別や偏見について議論が高まっている。そうしたなか、米紙が日本で暮らすバイレイシャルの若者4人に話を聞いた。
【画像】日本で黒人であるということ―バイレイシャルの若者4人が語る差別とアイデンティティ
「日本人は単一民族」という幻想
日本の子供は、幼い頃から同調し、周囲になじむことの重要さを学ぶ。 「出る杭は打たれる」という有名なことわざもある。 しかし、そうした考え方は、「日本人は単一民族である」という自己像にとらわれているからだとも言える。そしてこの問題は、日本で育つ多くのバイレイシャル(両親の人種が異なる)の子供たちを悩ませてきた。彼らは一般的に、「半分」を意味する「ハーフ」と呼ばれている。 それでも最近は、バスケットボールの八村塁やテニスの大坂なおみなど、バイレイシャルの日本人スポーツ選手や著名人の活躍によって、従来とは異なる、より多様な日本のあり方が示され始めている。 昨年、大坂が黒人差別に抗議する「Black Lives Matter(BLM)」運動を支持したとき、日本では彼女に反発する声も上がった。だが大坂の言動が、この日本で人種とアイデンティティをめぐる率直な会話を促したのは間違いない。 プロ野球選手のオコエ瑠偉は昨年6月、ナイジェリア人の父と日本人の母を持つ自らが直面したいじめについて、ツイッターにエッセイを投稿した。同じ月、日本で数千人もの人々が、BLM運動を支持すべくデモ行進を行なった。 日本国内で人種差別に関する議論が高まるなか、本紙ワシントン・ポストはバイレイシャルの日本人4人に話を聞き、彼らの体験に耳を傾けた。
「出すぎた杭になりなさい」
上梨ライム、23歳、IT企業社員・モデル 日本人の母とナイジェリア人の父のもとにナイジェリアで生まれた彼女は、生後間もなく日本へ移住し、岐阜県で育った。中学校時代には、陸上の短距離選手として県大会で活躍するようになっていた。
私の通っていた保育園で、父は英語を教えていました。子供たちは父のことが大好きで、その頃の私は自分のルーツを誇らしく思ったものです。 でも小学校の時に両親が離婚。そのうえ、小学校には他にバイレイシャルの子がいなかったので、周りの子たちは興味津々で私を見てきました。「どうして君の肌は黒いの?」「どうしてお母さんの肌の色と違うの?」と。 学校で奴隷制や貧困など、アフリカの問題について学んでいくうち、私は自分のルーツに対し、ネガティブな感情を抱くようになっていきました。 大きくなるにつれて、周りの子たちが私をからかう頻度が高くなっていきました。
傷つくことから自分を守るため、私は彼らの言葉をジョークだと受け取るようにしたのです。 私は母と、近所に住む祖母に育てられました。ですから、日本の文化は私のなかに深く息づいています。他の日本の子供たちと同じように育っていてもなお、人々は私を「外人」と呼びます。いかに流暢な日本語を話しても、「日本語うまいね」と言われました。 こうした経験を通して、私は心のなかで葛藤していました。日本人だと認識されるのがこんなにも難しいのは、私の外見のせいなのだろうか、と。 陸上競技のチームメイトたちは、私が勝つことにいい顔をしませんでした。彼女たちは、「あなたは外人だから勝てただけ。そんなあなたと競うのはフェアじゃない」と言いました。挨拶しても無視され、スパイクを隠され、私の名前がアナウンスされると、ブーイングを受けました。
勝ちたいと思えない時さえありましたが、チームメイトには笑顔で挨拶するよう母から言われていたので、毎朝学校に行く前、鏡の前で笑顔を練習していました。無視されることがわかっていたので怖かったけれど、笑顔で挨拶し続けるうち、私はどんどんタフになっていったのです。 母の言葉が、いつでも私の支えです。母は、「出すぎた杭になりなさい。高くそびえたっているせいで、誰にも打たれることのない杭になるの」と言ってくれました。母は、誰も私を邪魔することのできないレベルまで昇りつめろと言ってくれていたのです。 私が全国大会に出場するレベルになると、みんな私の邪魔をすることをやめ、私を応援するようになりました。 私は岐阜県でボランティア活動をしてきました。岐阜には今も、アフリカのルーツを持つ子供たちが少数ながらいるので、彼らのコミュニティを作る手助けをしています。 彼らの多くが、髪質や肌の色が理由で、自分に対してポジティブなイメージを抱けずにいます。私はそんな子供たちに向けて、「自分を強く信じて努力すれば、必ずありのままの自分を認めてもらえる」ということを示せたのではないでしょうか。
「朝から黒人をテレビに出すな」
副島淳、36歳、俳優・タレント 日本人の母とアフリカ系アメリカ人の父のもとに日本で生まれ、日本で母に育てられた彼は現在、NHKの朝番組にレギュラー出演している。 まだ子供だった僕が初めて差別に気づいたのは、小学校3年生で転校した後のことでした。孤立し、髪質や肌の色をからかわれ、言葉の暴力や身体的な暴力を受けました。僕に触って「ばい菌」と言った子もいたくらいです。 最初は抵抗し、「僕は肌の色は違うけれど同じ人間だ」と言い返していました。けれど、言葉の暴力がやむことはありませんでした。そこで僕は暴力を受け入れるようになり、何も感じなくなっていきました。ひたすらサンドバッグのように耐え続けたのです。 今では、そうした露骨な差別に苦しむことはありません。しかし、ソーシャルメディア上で辛らつな言葉を投げかける人がごく一部いて、「朝から黒人をテレビに出すな」という声もあります。 BLM運動に関して、日本国内でここまで大きな反応とエネルギーを見られたことは素晴らしいことですよね。それでもこの国では、大部分の人々が差別は存在しないと思っているのではないでしょうか。 差別されている人と、差別されていない人の感じ方には大きなギャップがあります。それこそ、差別の根底にひそむ問題であると、僕は考えています。
日本人であるかどうかに外見は関係ない
ブランディ・アヤカ、24歳、アーティスト コンゴ民主共和国で日本人の母とコンゴ人の父のもとに生まれ、生後間もなく日本に移住。現在、グラフィックデザインとイラストレーションを中心にアーティスト活動を行っている。 私が自分のアイデンティティについて葛藤し始めたのは、11歳の時に転校し、海外にルーツを持つ子が一人もいないクラスに入ったことがきっかけでした。みんなになじもうと努力しましたが、自分の居場所がないような気持ちでした。 誰が何と言おうと、今の私のアイデンティティは、アフリカ系のルーツを持つ日本人です。そして私は、2つの文化の体現者でもあります。私の存在そのものが、きっと人々の視野を広げるきっかけになるでしょう。 これまで、「日本の文化に同化すべきだ」とか「問題に直面するのは、髪をブレイズにしているせいだ」とか「もっと日本人らしく生きるべきだ」いうコメントを目にしてきました。 でも日本人であるということは、自分の内面しだい、そして謙虚さや他者への思いやりといった心があるかどうかにかかってくるのではないでしょうか。 私は差別よりも、むしろ無関心を多く経験してきました。BLM運動について人々に尋ねると、彼らは「自分には関係のないことだ。自分は黒人差別なんてしない」と答えます。日本でアフリカン・ファッションに携わる仕事している人たちでさえ、BLM運動に関心を持たず、ウェブサイトでも運動に言及することはありません。 大坂なおみさんは、日本でのBLM運動に大きな影響を与えましたよね。彼女を見ていると、私も彼女のようになりたいという気持ちになります。 日本人であることの定義は、年配の世代では昔から変わらないままですが、私の世代では変化が起きています。今、ミス・ユニバースのファイナリストをはじめ、世界的に活躍するバイレイシャルの日本人を目にすることが多くなりました。 日本社会は変化しつつありますが、その変化を加速させるために、私たちは努力し続けなければならないのです
私は日本人であると同時にガーナ人
杤木愛シャ暖望(とちぎ・あいしゃ・はるみ)、24歳、2020年度ミス・ユニバース・ジャパン 日本人の母とガーナ人の父のもとに日本で生まれ、10~17歳までガーナで過ごした期間を除き、日本で暮らしている。ガーナと日本で子供や女性支援などのボランティア活動に従事してきた。 私は、どの国の出身か聞かれるたびに、シンプルに「日本です」と答えることができません。私のなかにはガーナ人の自分もいて、どちらの自分も大事に思っているからです。 私の通った高校はとてもいい環境で、みんな優しくしてくれました。私が日本語の単語を忘れてしまうことがあっても、先生たちだけでなく、友人たちも助けてくれました。 バイレイシャルであるために苦しんでいる人々がいることは、もちろん知っています。私の妹は、日本の高校でつらい経験をしました。でも、その一方で日本にはいい環境もあり、いい人たちもいます。 いま55歳の私の父は、25歳で日本にやって来ました。父がこれまでに出会った一部の日本人にとっては、父が初めて出会う外国人でした。ですから、彼らにとって父を受け入れるのが難しかったことは理解できます。 父が初めて日本に来た時、外国人だからという理由で、家を借りることも仕事を見つけることも大変だったそうです。今でさえ、父が歩いているだけで警察に「うちの家の前にアフリカ人がいる」と通報する人がいて、駆けつけた警察は、父に職務質問をするのです。 ミス・ユニバース・ジャパンに選ばれたとき、私がバイレイシャルであるため、ミス・ユニバース・ジャパンに値しないと批判するコメントも耳に入りました。でもそれと同時に、たくさんの人たちがメッセージをくれて、私がバイレイシャルであることで、人々を勇気づけているのだと言ってくれました。 これはつまり、日本が多様性にあふれた国へと変化しつつあることの表れだと思います。 ただ、多くのポジティブなコメントと一緒にネガティブなコメントもたくさん受け取ったのは事実であり、日本はもっと変わっていかなければならないと思っています。 大坂なおみさんが自分の立場をプラットフォームとして活用している姿は素晴らしいと思います。彼女のことを心から尊敬し、感銘を受けています。 ですが、ツイッターを開いて彼女に対するコメントを見るたびに、『大坂なおみは日本人じゃない』とか、『大坂なおみが日本で人種差別を語る必要なんてない、日本には人種差別なんてないのだから』と言っている人々がいます。 私が気づいたのはこの時です。日本にも人種差別があることを知らない人たちがいるのだ、と。