異業種の電子部品流用で明暗 H3ロケットとテスラのEV
中山 力
日経クロステック/日経ものづくり
異業種の電子部品の流用に関する対照的な事例があった。1つは「H3ロケット」。2021年度の初号機打ち上げを目標に開発が進む日本の次期基幹ロケットだが、低コスト化を目的に自動車用部品を多数採用している。もう1つは、米Tesla(テスラ)の電気自動車(EV)のリコール。同社が米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)からリコール実施を求められた不具合の原因がタブレット端末などの民生機器向け部品を流用したせいだと分かった。
宇宙での放射線耐性に強い部品を選択
H3ロケットではアビオニクス(電子機器)で使用する電子部品は個数の9割を自動車用部品から採用した。従来は宇宙用に開発・製造され、認定も受けた信頼性が高い部品を使っていたが、どうしても高コストになる。同等性能の他の民生部品と比較して、2桁以上、場合によってはそれ以上の価格になる。さらに、電子部品そのものへの新技術の適用も遅れがちという課題があった。
クルマ技術で低コスト化 H3ロケットの電子部品9割は車載流用
低コストと高い信頼性、そして柔軟性という3つの柱を高いレベルで実現するため、H3ロケットではさまざまな新技術を導入している。それは、機体の各所に見て取れる。組み込まれた機器だけでなく、その製造方法、...
2021/02/10
そこで目を付けたのが、大量生産によって低コスト化している自動車用部品の採用だ。単に価格が低いだけでなく、近年は振動や温度といった環境に対する耐久性も高まってきている背景がある。ただし、宇宙機で使うには自動車では求められない特性も必要だ。それが、耐放射線特性である。強い放射線環境下でも故障せずに正常に動作しなくてはいけない。
JAXAらはH3への自動車用電子部品の採用にあたり、部品メーカーが大量生産している部品のラインアップから宇宙でも使える放射線に強い部品を選ぶという対応をした。日本では20年以上前から、自動車用部品を宇宙用に転用する研究を始めており、基礎的なデータを蓄積してきた。経済産業省が2003年と2010年に打ち上げた、宇宙空間で自動車用電子部品の動作試験を行う衛星「SERVIS」もその一環である。
自動車用電子部品の動作試験を行う衛星「SERVIS」
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こうして、基本的に自動車で使われる部品と全く同じ部品がH3ロケットに搭載される。その部品(型番)が耐放射線特性に優れているかどうかという選択はしているが、宇宙機向けに開発するというプロセスは経ていない。納入部品の受け入れ時に検査して取捨選択することもほとんどないという。
タブレット用の部品を流用して寿命不足に
一方、テスラがNHTSAからリコールの実施を求められたのは、同社が18年初頭までに製造した、高級セダン「Model S」の12~18年モデルと高級SUV(多目的スポーツ車)「Model X」の16~18年モデルである。合計で約15万8000万台のリコールだ。電子部品の寿命が原因で、ADAS(先進運転支援システム)のほか、バックモニター用カメラや空調システム(HVAC)などの不具合につながるとしている。
テスラへのリコール要請 原因半導体はこれだ、独自分解で特定
半導体部品の寿命が原因で、米運輸省高速道路交通安全局が米Tesla(テスラ)に対し、リコールを実施するように求めた。対象は、テスラが18年初頭までに製造した、電気自動車(EV)の高級セダン「Mode..
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テスラへのリコール要請 原因半導体はこれだ、独自分解で特定
根津 禎シリコンバレー支局
半導体部品の寿命が原因で、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が米Tesla(テスラ)に対し、リコールを実施するように求めた。対象は、テスラが18年初頭までに製造した、電気自動車(EV)の高級セダン「Model S(モデルS)」の12~18年モデルと、高級SUV(多目的スポーツ車)「Model X(モデルX)」の16~18年モデルである。その実態を探るべく、日経BPが2019年12月~2020年3月に発刊した「テスラ『モデル3/モデルS』徹底分解」シリーズ(以下、テスラ徹底分解)で、対象となる半導体部品を特定した。その結果、当時テスラがタブレット端末やパソコン(PC)などの民生機器で使われた部品を集めて車載情報通信システム(IVI)を構成したことが、今回のようなリコール要請につながったのではないかと推測できた。
テスラに米当局からリコール要請、半導体が原因で約16万台
米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が米Tesla(テスラ)に対し、電気自動車(EV)の高級セダン「Model S」と高級SUV(多目的スポーツ車)「Model X」において、合計で約15万80...
2021/01/15
NHTSAの組織「Office of Defects Investigation(ODI)」がテスラ幹部に対して送付した書簡において、問題の原因として指摘されているのは、モデルSおよびモデルXのIVIに相当する「MCU(Media Control Unit)」内にあるeMMC対応のNANDフラッシュメモリーである。「P/Eサイクル(書き換え回数)」が3000回で、データの書き換えを繰り返すうちに、5~6年ほどで寿命(書き換えサイクルの上限)を迎えて、MCUの不具合につながると指摘している。
不具合があったとされるMCU
運転席横の巨大なディスプレーがMCUである。ハッチバック、エアコン、ライトなど様々な操作がこのタッチパネルを通して可能である。(写真:テスラ)
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MCUの不具合でどんな危険が生じるか
MCUはIVIであるため、自動車の「走る・曲がる・止まる」に直接影響するものではない。ただし、ここに不具合がでると安全性に支障がでるとする。例えば、後方確認用(リアビュー)カメラの映像を運転手が確認できなくなることを指摘している。
MCUの外観
(図:「テスラ『モデル3/モデルS』徹底分解【全体編】」(日経BP総研 クリーンテック ラボ/日経クロステック監修)より抜粋)
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テスラは車両のボディーの制御のほぼすべてをMCUが持つタッチパネル式ディスプレーを通じて行える。例えば、空調は専用の物理ボタンがなく、ディスプレーを通じて操作する。このため、MCUが動かなくなると空調システム(HVAC)を操作できなくなる。これにより、フロントガラスの曇り止め・霜取り機能を起動できずに前方の見通しが悪くなり、事故の危険性が高まると指摘している。
さらにMCUの不具合によって、ADAS(先進運転支援システム)や方向転換(ターン)時におけるアラートなどに悪影響を与えて、事故の危険性が高まるとしている。例えば、ウインカー音(blinker sounds)やドライバーに対する警告音が鳴らなくなる