夜の京都・鴨川で2次会流行 飲食店時短「飲み足りない」、市は「感染の危険高い」
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鴨川沿いに集まる人々。酒類の缶を手にする姿もあった(10日午後8時31分、京都市中京区・四条大橋から北を望む)
新型コロナウイルス特別措置法に基づく京都府への緊急事態宣言の再発令以降、夜の鴨川沿いで酒席の2次会を開く人が現れている。飲食店への営業時間短縮要請に伴い、午後8時以降は多くの店が閉店しているためとみられる。訪れた人は「時間を気にせず飲める」と話すが、感染防止の徹底を呼び掛ける京都市は「感染の危険が高い行為で、速やかに帰宅してほしい」とする。
2月8日午後9時。冷たい風が吹きすさぶ鴨川右岸。四条大橋北側の川べり約150メートルには7組のグループがいた。それぞれ十数メートルの間隔があり、カップルらが間を空けて座る「鴨川等間隔の法則」も健在だった。うち3組は酒類の缶を手にしていた。 「飲み足りなかったのでここに来た」。缶ビールを手にそう話したのは、友人4人で訪れていた西京区の会社員女性(25)。午後6時半から飲み始めた木屋町通の居酒屋では、8時が近づくと退店を促された。外に出ると通りは真っ暗で、営業している店はなかったという。「自然と鴨川で飲む流れになった」。対岸の南座(東山区)を見上げながら、「寒いけどみんなと話せて楽しい。景色もいい」と語った。 いずれも3年生の女子大学生(21)と男子大学生(21)はコンビニで買った缶チューハイで2次会を開いた。「ここならみんなが等間隔で距離を空けて座ってくれる。開放感もある」。不要不急の外出自粛が呼び掛けられる中、女子大学生は「1杯飲んだらすぐ帰ります」と苦笑した。 府は宣言発令時の感染対策として1月14日~3月7日まで、飲食店やバーなどに営業時間を午後8時までに短縮するよう要請している。京都市は、発令から2週間たった1月28日夜、時短営業に応じた市内の店の割合を調査した。木屋町・河原町エリアなどの繁華街3カ所計約780店のうち、93%にあたる約730店が協力していた。 市は宣言期間中、家族以外との会食や日中も含めた不要不急の外出の自粛を呼び掛けている。市の担当者は、マスクを外す機会が多い飲食時の会話について「鴨川のような屋外でも飛沫(ひまつ)感染するリスクが高い。アルコールで判断能力が低下し、大きな声になる恐れもある」とした上で、「コロナをできるだけ早く収束させるためにも自粛への協力をお願いしたい」と話す
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居酒屋の社長「罰則導入でも…」 抗議の意味こめて営業
居酒屋など16店舗を経営する棟久裕文さん。事務所のパソコンで政府の方針や対策をチェックするのが日課だ=2021年2月3日、北九州市小倉北区、加治隼人撮影
「法改正で罰則が導入されても、営業は続ける覚悟です」 時短などの命令を拒めば過料を科されるようになる中、複数の店舗が深夜営業をつづける居酒屋運営会社の社長は、そう話す。
【写真】「自分で守る」一時は通常営業を続けた居酒屋大手の社長
新型コロナウイルスの感染拡大に対応する改正特別措置法が13日に施行されるのを前に、社長を訪ねた。 今月2日夜、緊急事態宣言がつづく福岡県。飲食店などが密集する北九州市・小倉駅前の繁華街にならぶ「大衆酒場 ホームラン食堂」は、周囲の店が閉まった後も店を開けていた。 店先の貼り紙にこう書かれている。 《飲食業界は振り回され、追い詰められ続けています》 《一律の協力金が支払われるとされてますが、売上や店舗規模に応じた金額ではないため、固定費の大きい店舗では事業、雇用の維持は困難です》 末尾には「代表取締役・棟久裕文」と社長の実名が添えられていた。 社長の棟久裕文さん(43)は、この店を含め北九州市や福岡市で居酒屋や焼き鳥屋、焼き肉店など計16店舗を経営する。 今回の緊急事態宣言と福岡県知事からの午後8時までの営業短縮要請を受けても、7店舗は従来通り深夜・未明まで店を開け続けてきた。 その理由はシンプルだった。 「1日6万円の協力金では、とても経営が成り立たない」 この会社が抱える従業員は約400人。人件費については雇用調整助成金を充てられるが、それでも家賃などの固定費だけで毎月合計4千万円近くになる。 一方、協力金は、全店分をもらったとしても月3千万円に満たない。 従来、店の売り上げの9割がおおむね午後7時以降の客によるもので、閉店を早めれば売り上げはほぼ見込めなくなる。 「うちみたいな中小企業にしたら、毎月1千万円の赤字は死活問題です」 もちろん、営業を続ける店舗では、入店時の検温をはじめ、アルコール消毒や換気の徹底、席の間隔を空けるといった感染予防策に取り組んでいる。 改正法の国会の審議では、野党から「1日6万円では足らない」などの意見が出たが、政府はあいまいな答弁だった。 棟久さんが時短や休業に応じない理由はもう一つ。 応じた場合、従業員が辞めるリスクもあるということだ。 昨春の緊急事態宣言の時には休業要請に応じたが、仕事を求めて辞めていく従業員も少なくなかった。 宣言解除までの約1カ月で3千万円以上の赤字が出たうえ、通常営業の再開に向けた求人活動や人材育成にもコストがかかった。 棟久さんは協力金自体を批判しているわけではない。 ただ、「事業規模に関わらず一律6万円」という現在の制度に納得できないと繰り返した。 「散々批判が出ているのに、なぜそれを続けるのか。午後8時までという時間設定の根拠は何なのか。休業できるだけの十分な補償や説明もないまま、なぜ店が罰則を科されなければならないのか」 今回の改正法が13日に施行された後は、知事が時短営業の「命令」を出してそれを拒否した場合、最大で30万円の過料を科される可能性がある。 それでも棟久さんは、命令を受けない限り抗議の意味も込めて深夜営業を続けるつもりだ。 「改正法には『国や地方公共団体は、事業者に対する支援に必要な財政上の措置を講ずる』ことが盛り込まれていますが、一律6万円は、大きな店にとって『必要な措置』というには不適切です。行政が義務を果たしていないのに罰則なんて、法的にもおかしいんじゃないでしょうか」 創業して約20年。 「いろんな人が集まって、飲み食いしながら笑顔を交わす場を提供できることに喜びとやりがいを感じてきた」 いまもほぼ毎日各店舗に足を運び、営業状況を自分の目で確かめて回っている。せめて売上額の3割程度の補償があれば、時短や休業に応じても赤字は避けられるのに、と棟久さんは言う。 事務所に出勤してパソコンに向かい、政府の方針や支援策をチェックするのが日課になった。目につくのは「罰則の中身をどうするか」の議論ばかりだった気がする。 「罰則じゃなく、支援の中身をどうするかを国や自治体は真剣に考えるべきだと思います。必要なところに必要な分だけ手当てをしてほしいんです」(加治隼人)
朝日新聞社