オランダに迫る海面上昇のタイムリミット

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ニューズウィーク日本版

<海水面が今より3メートル以上、上昇すると、国土の一部を放棄して大都市を移転させることが必要になる可能性も>

首都アムステルダムのある北ホラント州の多くは平坦な低地で、泥炭地に多くの用水路が走っている

 

 

 

1953年に発生した高潮による北海大洪水は、オランダ南西部の広い地域を冠水させ1900人近い死者を出した。国土の4分の1が海面より低いこの国にとって、堤防などの治水対策は不可欠の存在だ。その後、南西部を堤防や水門などで高潮から守るデルタ計画が進行。

 

 

53年のような高潮被害は理論上、1万年に1回しか起こらなくなった。 

 

 

 

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だが、その状況が変わろうとしている。気候変動により、今世紀末には海水面が1~3メートル上昇する可能性があるからだ。これまで以上の排水施設と堤防のかさ上げは不可欠だが、それでも対応が可能なのは3メートルの上昇までだという。 

 

それ以上になれば国土の一部を放棄し、アムステルダムやロッテルダムなどの大都市の移転が必要との指摘もある。

 

海面上昇はもはや時間の問題であり、いずれ治水対策の費用と都市移転の費用をてんびんに掛けることになる。 

 

デルタ計画の完成には40年を要した。

だが、今のオランダに残された時間はそれほど長くはないかもしれない。 

 

 

Photographs by Kadir van Lohuizen-Noor 

 

 

 

撮影】カディル・ファン・ロホイゼン 1963年オランダ生まれ。1988年からフォトジャーナリストとして世界の第一線で活躍し続け、紛争や気候変動、環境問題をグローバルな視点から解き明かす作品で知られる。著作に欧米、アフリカのダイヤモンド産業の光と闇を記録した『Diamond Matters, the diamond industry』、アメリカ大陸15カ国の移民を追った写真集『Via PanAm』など <本誌2020年9月29日号掲載>

Photographs by KADIR VAN LOHUIZEN