Vol.8 なぜ田舎の水族館に人が集まるのか?高知県・むろと廃校水族館に行ってみた・前編

 
取材・
 
文:滝口勇也(PANTS) 
 
 
写真:市門大我(高橋宗正)
 
 
 
 

廃校水族館はかなりの田舎にあった

取材当日はあいにくの台風接近の前日。室戸市は昭和の三大台風の一つ「室戸台風」で有名なあの室戸。もしかして、予報より早く台風が来て帰れなくなるんじゃないか、と少し心配。

波がやたらと高い。

室戸市は高知空港から車で約2時間。やはりだいぶ田舎です。

original image: sakura / stock.adobe.com

むろと廃校水族館に向かう国道55号線の様子。かなりの山奥。

やっとむろと廃校水族館に到着。それにしても途中、特に観光スポットもなく、あらためて「わざわざこんな辺鄙(へんぴ)なところに水族館目当てに来る人はいるのだろうか?」と疑問が湧く。

ここは元・椎名小学校。

中に入ると、ここは元小学校だったんだ、とわかるものがそこかしこに。

とび箱がチラシ置き場になってます。

視力検査のアレがなぜか置かれている。

愛媛県から来た、こちらのカップル。

なぜ、台風の日に水族館で木琴を弾いているのだろうか。聞くと「そこにあったから、なんとなく懐かしくて」とのこと。台風接近中なのに、けっこう人がいる。

廊下を見ると、完全に小学校。

元はこんな廃校だったそう。

(写真提供:むろと廃校水族館

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと水族館の要素が出てきた

手洗い場はカニやヒトデに触れられるタッチプールに。

ある世代以上には懐かしいOHP(オーバーヘッドプロジェクター)。

よく見たら、OHPの中はテナガエビの水槽になっていた。

イカの墨で書かれた習字。

なぜ「暴風」なのか…。さすが台風で有名な室戸市。今日の天気を暗示しているようでもあります。

教室に座ってみるとどこか懐かしい気持ちに。外は台風ですが。

いちばんの目玉のプールに行ってみると…いました。ウミガメやサメが学校のプールで泳いでる。プールという人間の日常に突如ウミガメやサメたちが入ってきた違和感。

今回は台風が近づいているのでプールの見た目がちょっとアレですが、ふだんはこんなにキレイなプールです。

(写真提供:むろと廃校水族館)

それにしても、ウミガメって大きい。自分の想像よりひと回り大きい。

間を遮るガラスもチェーンもない。これだけ近づくと、ウミガメの呼吸も感じられる。

校内にもウミガメがいる。

ジッと見ていたら寄ってきた。むしろ、自分が見られている気がする。

プールよりもさらに近いところで見つめていると、親近感がわいてきた。彼らのテリトリーに入れてもらえた気がするからか

 

 

 

 

 

興味を引きつける展示の数々

こちらはボラ。部屋が暗く、魚が見やすいので、ここが廃校だということを忘れる。

ちなみに、ボラは汚いところにすんでいる魚というイメージがあったが、解説を読むと、どうやらそうでもないらしい。

「ボラを不味くしたのは人間かもしれません。」

なんだかこの解説には力が入っている。飼育員さんの静かな憤りが感じられる。

こちらはハマフグ。

たった1行の解説なのに、どこか切ない。詩的なものを感じるのは、生き物の最期を端的に記しているからか。

こちらは味の話。食べて美味しくなかったときのガッカリした飼育員さんの姿が目に浮かぶ。

「じつは、」が効いている。言われてみれば、エビやカニの仲間には見えない。

針の本数のことなんて考えてもみなかった。

クジラの骨も無造作に置かれている。どこにも「触れないでください」の表示がないので、おずおずと触ってみた。少し温かい気がする。

インスタントコーヒーの容器に入った各地の海岸の砂。

こう見ると、いろんな砂があることがよくわかる。

ウミガメの甲羅があったので背負ってみた。

上陸するウミガメの真似をしてみたら、背中がすっぽり包まれて落ち着く。だから亀仙人はいつも甲羅を背負っていたのか。やってみて初めてわかることがある。

気がつくと、廃校水族館をすっかり楽しんでいる自分がいた。ここにあるものはすべてその辺で採れた生き物ばかり。だから、知ってる魚が多い。

けれどこの水族館は、知ってる魚をそのまま見せて終わりではない。知っていると思っていた生き物の知らない側面を見せてくれる。この水族館はそこがとっても魅力的だ。他の水族館は見たことも聞いたこともないような珍しい魚たちを展示しているけれど、ふつうのお客さんは知らない魚のことを知りたいわけじゃない。

いったいどんな人たちがこの水族館をつくってるのだろう?

「なぜ、こんなところに水族館をつくったのか?」の秘密に迫る後編に続く!