ドイツ「ロックダウン」12月20日まで延長で何が起こっているか
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期間延長で何が変わるか
ドイツは、11月中、部分的ロックダウンが掛けられ、飲食店やホテル、スポーツ施設、劇場、コンサートホールなどもすべて閉鎖されていた。空いているのは店舗、学校と幼稚園、保育園など。しかしその店舗も、お客の人数制限をしなければならないのでガラガラ。
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今年は、春のロックダウンの打撃で多くの業種がすでに体力を消耗している。そこで夏の間、感染者が再び増えることのないようにと、皆、必死で厳しい衛生基準を守り、売り上げも少し持ち直した。
コンサートなども、客席を減らしてではあるけれど、徐々に可能になっていた。
だから、10月終わりに陽性者の数が急に増えて、11月のロックダウンが決まった時は衝撃が走った。とはいえ、当初は4週間の予定だったので、まだギリギリどうにかなるかと、皆が12月に希望を繋いだ。
12月はクリスマス前なので、年で一番の稼ぎどきだ。
ところが11月24日、メルケル首相が各州の首相とともに、少なくとも12月20日までロックダウンを延長することを決めた。それも、12月は規制の内容がさらに厳しくなる。クリスマス商戦に期待していた飲食業、観光業は、死刑判決を下されたようなものだ。
ドイツの新規陽性者数は、現在、1日2万人前後。これは、ロックダウンをかけ始めた11月初旬とまるで変わっていない。増えなかったから、ロックダウンは効果があったとみるべきか、減らないから効果がなかったとみるべきか、そこら辺がまるで説明されず、規制だけが強化されている状況に、国民の不満が募っている。
11月と比べて、12月のロックダウンで何が変わるかというと、自宅で集まれる人数が、これまでの10人から、2世帯計5名となる(子供はその数に入らない)。そして、恒例の12月31日の花火も禁止。
学校は引き続きコロナ・モードでやるが、感染者の多い地域では、7年生以上は授業中もマスク着用が義務に。
また、クリスマス休暇は前倒しにされ、子供たちはクリスマス前の3~4日、自宅待機。休みになってすぐにクリスマスで祖父母に会ったりすると、コロナウイルスをばら撒く可能性が高いからだという。
なお、マスクも、これまでのように店内だけではなく、店外や外の駐車場まで義務となる。そして、店のお客は20㎡あたり一人まで。店の外で行列ができれば、そこでもマスク着用義務。飲食店の閉鎖もつづき、12月20日までテイクアウトのみ可。
ホテルは出張以外は宿泊禁止。
ただ、ドイツのクリスマスは日本のお正月と同じで、日頃離れている家族が集まる一大イベントなので、いくら何でも2世帯5名はありえないと、クリスマスイブから1月1日までの1週間だけは例外として、10人までOKにするという。
しかし、それについても、現在、大揉めとなっている。緩和すると決めた政府と、そんなことではまた感染が急拡大するから緩和すべきでないという人たちが、激しく対立している
国や州に対する不満が募っている
11月のロックダウンの際も、国民は必ずしも納得しているわけではなかったが、12月の方はかなりの抵抗が出てきている。
相当の投資をし、厳しい衛生基準を遵守してきた飲食店やジムや映画館などは、自分たちが感染を拡大したわけでもないのに多大な犠牲を払わされているのは不当だと思っているし、国や州が私生活に顔を突っ込み過ぎていることに不満を感じている国民も多い。
また、医師の団体は、「死者も重症者もそれほど増えていない。ロックダウンをかけ続けるような非常事態はドイツのどこにあるのか?」という疑問を呈し始めた。現在、学級閉鎖のため自宅待機している生徒は全国で30万人もいるという。
子供の運動不足はもとより、体力維持のために利用していたスポーツジムの閉鎖で、体の不調に悩んでいる高齢者は多いはずだ。高齢者の体力喪失は取り戻すことが難しいので、コロナ感染よりも、こちらの被害の方が大きいかもしれない。
FDP(自民党)は、病院や老人ホームなどでのコロナ検査を集中的、かつ、定期的に行い、他の商業施設は衛生管理を徹底しながら、すべて平常に戻すよう強く訴えているが、政府は聞く耳を持たない。
さらに左派党は、これだけ増えた国の借金をどうやって返すのか? と問う。
営業が禁止されている事業者に対しては、11月、12月と、昨年の同月の粗利の75%が補助される予定だが、その援助総額は150億ユーロで、12月分は170億ユーロになるという。
ドイツのプライマリーバランス・ゼロは、すでに過去の話となった。こうなると、確かに、次に予想されるのは、増税か、緊縮財政化だろうが、どちらも国民に降りかかってくることなのに、そこらへんの説明もなされていない。
しかも、すでに政府は、ずっと潤沢な補助を支払い続けることはできないと宣言している。しかし、冬の寒さは1月から2月にかけて一層厳しくなるし、たとえ、ロックダウンが徐々に解除されても、景気はなかなか戻らないだろう。
今でも倒産は増えているが、来年になると、さらに増えると予想される。
その上、一銭も収入がなくなっても、この救済ネットにまったく引っかからない人たちがたくさんいる
国民の権利が侵害されている
もう一つ、ドイツで問題になっているのは、このロックダウンの正当性だ。職業の自由も、自宅に人を招くことも、あるいは、抗議デモをすることも、基本法(憲法に相当)で保障されている基本的人権だ。
ドイツで基本的人権の侵害が例外的に許されるのは、それが何らかの合法的な目的を達成するためにどうしても必要であり、かつ、その効果が証明されている場合に限る。しかし、現在、様々な措置、たとえばホテルの閉鎖や家で集まれるのが5人までという決まりと防疫効果の相関性は証明されていない。
しかし、それが政府の手により実施されていることで、結果的に国民の権利が広範囲に侵害されている。
しかも、11月のロックダウンは国会や州議会を通さず、10月末に首相官邸と州政府の間でほとんど談合のように決められた。
つまり、立法という、国民主権の象徴である機関が無視されており、三権分立の侵食と言える。これを問題だとする声が、国民、野党、法学者の間などのあいだで上がっていた。
春のロックダウン時はまだコロナのことがよくわからず、国民のあいだにも国会議員のあいだにも、多少の例外は止むなしとする空気があったが、今はもう違う。国民の権利を広範囲に制限するような措置は、ちゃんと議会を通して決定すべきだと、当然、多くの人が考えた。
ところが、それを見越したように、ドイツ政府は11月18日、「全国規模の感染症の流行時における国民防御法」という改正法案を提出した。
これは、「全国規模の感染症の流行時」、つまりパンデミー時に限り、国会は政府に感染防止の対策を一任することができるという法律だ。極端にいえば、国民主権の要である国会がその権利を放棄し、政府に白紙委任状を渡すとも言える法律。
当然、野党のFDP(自民党)とAfD(ドイツのための選択肢)と左派党が、嵐のように反対した。しかも、法案の内容が曖昧で、何をもって「全国規模の感染症」を定義するのか、あるいは、どのような基準で施行、あるいは解除するのかがきちんと定められていないことも指摘された。
ところが、そんな警告にもかかわらず、この法案はその日のうちに下院、上院を通過。さらに深夜、大統領の署名を得て、翌日施行という離れ業を見せた。不思議なほどのスピード感だ。
イエスマンとしてのSPD(社民党)の役割が顕著である。また、野党、緑の党も、口では法案を非難しつつも、結局は挙って賛成票を投じた。16年目に入ったメルケル政権は今、何でも通せる。
ちなみに緑の党はメルケル首相と相性がよく、次期政権でCDUとの連立で政権入りを狙っている。 そもそも、ドイツは連邦制なので州政府の力が強く、首相には仏大統領のような権限はない。
だから春の感染症拡大時には、従来の「感染症防止法」を加工して保健相に権限を持たせ、それを通じて各州首相がそれぞれ自分の州にロックダウンをかけた。
それが非効率なので、改正したというのが政府の主張だ。すべて国民の安全のためである
コロナの憂鬱
ちょうどこの法案が国会で審議されていた時、議事堂の外では政府のコロナ対策に反対する2000人の人々が警官に囲まれながら抗議デモをしていた。
しかし、デモ隊が、マスク着用の義務とソーシャル・ディスタンスを守っていないという理由で、警察が放水車と催涙弾を使ってデモを解散させた。
一時拘束者も300人を超えた。 警察によれば、放水は低い水圧だったので「雨のような感じ」だったそうだが、やはり後味の悪さは残る。
さらに12月1日には、トリア市の中心の歩行者天国を、ドイツ人男性がジープで500mも歩行者を巻き込みながら走り、5人を死亡させ、15人に重傷を負わせるという異常な事件が起こった。
これがコロナの憂鬱と直接関係しているとは言わないが、ドイツでは、警官が街角で、マスクやソーシャルディスタンスの有無を監視しており、雰囲気はギクシャクしている。
一方、日本ではコロナの憂鬱は外に爆発せず、内向し、自殺が急激に増えている。日独のドイツのコロナ事情は対照的だが、どちらも深刻で、悲しい。
川口 マーン 惠美(作家)