海がない国で「海水魚の養殖」に挑戦! 1年で得た手応えは 岡山
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岡山理科大学は2019年9月から、海がない国・モンゴルで海水魚の養殖実験に取り組んでいます。しかし、新型コロナの影響で実験は継続の危機に立たされました。そんな状況でも諦めなかった研究者たちは、この1年で確かな手応えを得ていました。
“どこでも養殖”実現へ 海がない国で海水魚の養殖に挑む
(岡山理科大学/山本俊政 准教授 2019年9月) 「最後にはどこでも行ける『どこでも養殖』というのが基本なんですね。好適環境水というのは海がなくてもどこにでも行ける。まさにそれがモンゴルであると考えていただけたら」 1年前、岡山理科大学の山本俊政准教授が記者会見を開き、モンゴルでの実験について説明しました。
山本准教授は人工の水・好適環境水を開発し、研究を続けています。 好適環境水は、真水に最低限の電解質を溶かしたもので海水魚と淡水魚を同時に飼うことができます。これまでにトラフグやウナギ、マグロなどの養殖に取り組み、結果を出してきました。
モンゴルで養殖するのは、300キロ以上にまで成長する大型のハタ「タマカイ」と、小型のハタを掛け合わせた「ハイブリッドハタ」です。海から遠く離れた国で「海水魚」の養殖に挑みます。
モンゴルでの実験中に起きた「新型コロナ感染拡大」
会見の12日後。山本准教授らはモンゴルの首都・ウランバートルにサテライトオフィスを設置。好適環境水を入れた水槽に、5グラムから7グラムほどの稚魚・500匹を放しました。 実験が始まると、山本准教授や研究室の学生らが交代でモンゴルに行き、魚の管理をしてきました。しかし…
(山本俊政 准教授) 「新型コロナの関係で、私は1月の20何日に入ってそれっきりで…。うちのスタッフで2月の何日。この時にはもう防護服を着た物々しさでしたから空港が。それから行けていないと」
スタッフが派遣できない中、頼みだったのがモンゴル人のアマルさんです。 アマルさんはモンゴルでの養殖前、岡山理科大学で10カ月ほど養殖技術を学びました。
(元岡山理科大学 研究員でモンゴル現地スタッフ/アマルさん) 「(Q.魚はちゃんと育っていますか?)まぁ大丈夫。今1キロ。今は大丈夫」
「モンゴルに行けない…」ピンチを救ったのは?
(山本俊政 准教授) 「日本人が行けないからダメかなと思っていたんですよ、ここだけの話ですけど。それでやり始めたのがですね…。モンゴルから来てるんですね。きょうの室温、pH、アンモニア、亜硝酸。いろんな日に日にのデータがライン・SNSで送られてきます」
「これ動画ですね…こうやって送られてきます。そうすると私たちも魚をずっと見てますからわかるんですよね。これは調子いいなとか」
「モンゴル人のアマル君が連絡してきて『先生ポンプがおかしい』と。LINEでその音を送ってきたんですね。私も長いことやってますから『何か詰まってるで』ということで、ポンプを開けたら案の定、中から『塩ビかす』が出てきた」 SNSを活用してトラブルに対処しながら実験を続けました。
どうする?モンゴル養殖最大の課題、“厳しい寒さ”
一方、今回の養殖実験には開始前から大きな課題がありました。 それはモンゴルの気候です。
お湯を空中に撒いてもすぐに凍る厳しい寒さになるウランバートル
(モンゴル現地スタッフ/アマルさん) 「冬はもう難しい。マイナス30度いくと難しい。めっちゃ寒い」 標高1000メートルを超えるウランバートルは冬の冷え込みが厳しく、マイナス30度を下回ることもあります。 お湯を空中に撒いても落ちるまでには凍ってしまいます。
山本准教授は水槽を温めるのではなく、部屋全体を温めることにした
山本准教授は、モンゴルのエネルギー事情を活用してこの課題を解決しました。 (山本俊政 准教授) 「あの国は石炭発電が豊富ですから、その時に得られた副産物の『蒸気』がウランバートルの各家庭にパイプラインに通っている、発電所から来た蒸気を受けて部屋全体を温める。我々は水槽を温める、日本は。そちらの方が安いんです。水温は平均して27度から28度をキープしました」
課題を乗り越え順調に成長「いい魚に出合いました」
最大の課題をクリアし、ハイブリッドハタは順調に成長しています。 (山本俊政 准教授) 「これがモンゴルのデータですね。縦軸が平均重量。7月で1000グラム。1キロ超えたんで」 開始1年の生残率は、想定の70パーセントを上回る85パーセント。成長スピードも予想を上回っていました。
関係者による試食も行いました。 (モンゴルの現地スタッフ/アマルさん) 「食べた食べた。おいしい。ほんとおいしい」 (山本俊政 准教授) 「スーパーマーケットで『これ食べてください』とあれをやりたいなと思っているんですけど、いつになるかですね」
岡山理科大学はモンゴルでの実験と並行して、岡山市の研究施設でハイブリッドハタの量産化に向けた実験を行っています。 (山本俊政 准教授) 「これは去年の12月頭から。5グラム種苗ですから。こんな生産性のいい魚というのは、マダイやヒラメを超えています。いい魚に出合いました」
僕の夢物語が「具現化」する
当初、モンゴルでの実験は2020年11月が区切りでしたが、新型コロナの影響などから期間の延長も検討しています。まだ市場に出すことはできていませんが、山本准教授は確かな手ごたえを感じています。
(山本俊政 准教授) 「今までは僕の独り言で、夢物語で、『砂漠でどうのこうの』と言ってましたけど、全く理論ではなく自分の思いを伝えていただけで。それが具現化するというのは本当にありがたいし。ちょっと言い過ぎかもしれませんけど、私はモンゴルの食生活が変わる一つのきっかけになるんじゃないかと思います
https://news.yahoo.co.jp/articles/1c3973fada2cc4ff6d3ae3920d4355b248d867c5?page=3