安藤忠雄氏が自身の公共トイレを語る、風が抜ける縦格子と雨宿りできる屋根ひさし

川又 英紀
 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

 

 

東京都渋谷区にデザイン性の高い公共トイレを設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET(ザ トウキョウ トイレット)」を推進する日本財団は2020年9月15日、建築家の安藤忠雄氏がデザインした「神宮通公園トイレ」の前で、安藤氏による説明会を開催した。9月7日から供用を開始しており、15日に安藤氏が現地を訪問してトイレ前で会見した。

 

 

「神宮通公園トイレ」の前で会見する安藤忠雄氏(写真:日経クロステック)

「神宮通公園トイレ」の前で会見する安藤忠雄氏(写真:日経クロステック)

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 このトイレは、渋谷駅前の新名所になっている「MIYASHITA PARK(宮下公園)」に沿って明治通りをまっすぐ原宿方面に歩いた道沿いにある。MIYASHITA PARKの北側の向かいにある、神宮通公園の中に立つ。

 トイレの特徴は、風通しがいい縦格子の外壁と、雨宿りができる大きな屋根ひさしだ。縦格子の間からはトイレの内部通路が見え、光が差し込み、風が抜ける。安藤氏は「公共トイレはまず、安全で清潔でなければならない」と考え、縦格子を外壁に選んだ。

神宮通公園トイレの外観(写真:日本財団)

神宮通公園トイレの外観(写真:日本財団)

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 風が抜ければ、自然に換気できるので臭いを抑えやすい。外側から中の様子が見えれば、安心でもある。安藤氏がデザインしたのはコロナ禍の前だが、結果的に空気が循環する、3密になりにくい公共トイレになった。

外壁は縦格子にした。外から中の通路が見える(写真:日経クロステック)

外壁は縦格子にした。外から中の通路が見える(写真:日経クロステック)

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 神宮通公園トイレの建物の直径は屋根ひさしを含めて、11.29mある。内部の直径は7.14m。最高高さは3.83m。延べ面積は54.47m2だ。

 公園の入り口に向けて開いた、トイレの正面口側の屋根は大きく外に突き出している。せり出す屋根は縁側空間になる。「急に雨が降ってきたら、公園のトイレの縁側に駆け込んで雨宿りできればいい」と思ったという。安藤氏はこのトイレのコンセプトを「あまやどり」としている。

建物の前方に長い屋根ひさしがせり出し、縁側をつくっている(写真:日経クロステック)

建物の前方に長い屋根ひさしがせり出し、縁側をつくっている(写真:日経クロステック)

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安藤氏が掲げたトイレのコンセプトは「あまやどり」。資料は安藤氏によるスケッチ(資料:日本財団)

安藤氏が掲げたトイレのコンセプトは「あまやどり」。資料は安藤氏によるスケッチ(資料:日本財団)

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 トイレの建物は上から見ると円形を描き、外壁に沿って中をぐるっと一周できるようになっている。裏側にも入り口がある。だから風が抜けやすい。

トイレの裏口。奥に見える高層ビルは、MIYASHITA PARKの北側にできたホテル「sequence」(写真:日経クロステック)

トイレの裏口。奥に見える高層ビルは、MIYASHITA PARKの北側にできたホテル「sequence」(写真:日経クロステック

 

 

 

 

 

 

公共トイレは「メンテナンスが大事」と安藤氏が強調

 車椅子の人などがすぐにトイレに入れるように、正面のトイレは多目的トイレとした。円形の通路を左右に分かれると、男性用と女性用のトイレがそれぞれある配置にしている。

正面のトイレは多目的トイレにした(写真:日本財団)

正面のトイレは多目的トイレにした(写真:日本財団)

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多目的トイレの内部(写真:日本財団)

多目的トイレの内部(写真:日本財団)

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 安藤氏は「安全で清潔な公共トイレで、世界に日本の良さをアピールしようという狙いに共感した」と語る。安藤氏が公共トイレをデザインするのは初めてだ。実は海外から「このトイレをそっくりそのまま販売してもらえないか」という問い合わせが、早くも日本財団に来ているという。

 しかし、話はそう簡単ではない。安藤氏は「公共トイレはメンテナンスが何より大事」であることを強調する。施設の設計・施工や便器の提供はもちろんだが、日々の掃除やメンテナンスまでセットで用意できないと、公共トイレは長持ちしない。美観や機能を維持するのは、日本でも大変なことだ。建物だけ同じものをつくっても、うまくいかない。

 安藤氏は「数年後に、今日見たトイレのようにきれいな姿を保っていたら、本当に誇らしく思う」と締めくくった。

笑顔で会見する安藤氏(写真:日経クロステック)

笑顔で会見する安藤氏(写真:日経クロステック

 

 

 

 

坂倉竹之助氏のトイレも供用開始

 日本財団が推進するTHE TOKYO TOILETは、渋谷区内に合計17カ所の新しい公共トイレを設置するものだ。20年8月5日に3カ所、同7日に2カ所で供用を開始している。

 そして、8月31日には建築家の坂倉竹之助氏による「西原一丁目公園トイレ」の供用が始まった。続いて9月7日に、今回の神宮通公園トイレがオープンしている。

白と緑の色の組み合わせで目立つ外観の「西原一丁目公園トイレ」(写真:日本財団)

白と緑の色の組み合わせで目立つ外観の「西原一丁目公園トイレ」(写真:日本財団)

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西原一丁目公園トイレの中からは、木のシルエットが見える(写真:日本財団)

西原一丁目公園トイレの中からは、木のシルエットが見える(写真:日本財団)

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夜はトイレがライトアップされ、防犯にも貢献する(写真:日本財団)

夜はトイレがライトアップされ、防犯にも貢献する(写真:日本財団)

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 THE TOKYO TOILETには安藤氏だけでなく、伊東豊雄氏や隈研吾氏ら16人の建築家やデザイナーが参画している。大阪・関西万博の会場デザインを担当する建築家の藤本壮介氏もこのプロジェクトに参加しているが、9月15日の安藤氏の会見に藤本氏がひょっこり顔を出し、周囲を驚かせるという一幕があった。

 

 

 プロジェクトの事業主は日本財団で、完成した公共トイレは渋谷区に譲渡する。

 

 

設計・施工は大和ハウス工業、トイレの提案はTOTOがそれぞれ担当している。

 

供用開始後の維持管理は、日本財団と渋谷区、渋谷区観光協会が三者協定を結んで行う。

 

 

藤本氏がデザインするトイレを含め、21年夏までに全17カ所の公共トイレの設置を完了する計画だ。

 

 

 既に供用を開始している坂茂氏や片山正通氏、槇文彦氏、田村奈穂氏の公共トイレについては、下記の記事を参照してほしい。

 

関連記事:坂茂氏のは「透け透け」、安藤・伊東・隈ら16人が共演する渋谷区の公共トイレ整備

 

 公共トイレの詳しい位置は、マップに記す通りだ。

東京都渋谷区に新設される17カ所の公共トイレのマップ(資料:日本財団)

東京都渋谷区に新設される17カ所の公共トイレのマップ(資料:日本財団

 

 

 

 

 

 

 

 

 

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00110/00198/?P=3