富士山世界遺産センター、建物の外観の特徴は何?
三上 美絵
(写真:平井 広行)
「静岡県富士山世界遺産センター」がオープンしたのは、2017年です。13年に世界文化遺産に登録された富士山の情報を発信する拠点になっています。設計者である坂茂建築設計(東京・世田谷)代表の坂茂氏は、次のように話します。
「富士山は日本で最もメッセージ性の強いモニュメント。それが目の前にそびえる場所に立つ建築は、象徴性が重要だと考えた」
その言葉通り、坂氏は富士山世界遺産センターの展示室を設計するに当たり、外観にユニークな特徴を持たせました。それは次の3つのうち、どれでしょうか。
- 「赤富士」を思わせる紅色に建物全体を染めた
- 「逆さ富士」をイメージした逆円すい台の形にした
- 「ダイヤモンド富士」の輝く姿をモチーフにした
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2.「逆さ富士」をイメージした逆円すい台の形にした
(写真:平井 広行)
13年に富士山が「信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録されたのを受け、静岡県は国内外に情報発信する施設を計画しました。建設地に選んだのは、富士山本宮浅間(ほんぐうせんげん)大社に近接する土地です。
14年の公募型設計プロポーザルで坂氏が出した案は「逆さ富士形」の建築です。富士山の湧き水を利用した水盤に逆さ富士の建築が映ることで、鏡像として富士山形が完成します。
「中学・高校のころにラグビー部の合宿で山中湖に行った。そのときに見た、水面に映る逆さ富士の印象が強烈だった」と坂氏は語ります。
大社内の湧玉池(わくたまいけ)を水源とする神田川から引いた水は、1年を通して約15度と安定しています。そこで水盤に張る前に、冷暖房の熱源として利用します。これにより、年間空調エネルギーの約20%を削減できる試算です。
「『富士の水の循環と反映』がプロポーザルのときからのテーマの1つだった」と、坂氏は説明しています。
(写真:平井 広行)
建物に入ると、スロープで逆さ富士の内部の展示室に導かれます。全長193mのスロープに沿って、海から富士山頂までの風景が壁面に映し出され、登山を疑似体験できます。
映像同士の間では、投影された登山者の動く影に自分の影が重なります。投影機の位置の関係で風景を映し出しにくい場所を、逆転の発想で登山を印象付けるインスタレーションに生かしました。
「建築と展示空間が一体になることが重要だ」と考えた坂氏は、展示コンテンツの総合監修に竹村眞一氏(京都芸術大学教授)、展示デザイン監修にエドウィン・シュロスバーグ氏(米ESI Design代表)を招へい。展示設計の丹青社が取りまとめ役となり、県職員と5人の学芸員を交えた5者で、展示デザインの方向性をまとめました。
丹青社デザインセンターの高橋久弥プリンシパルクリエイティブディレクターは「空間に情報が露出するのは最小限に抑えて、情報過多による来館者のストレスを避けることができた」と言います。
「市民が喜び、誇りに思う公共建築をつくりたい」と話す坂氏の狙い通り、開館直後の1カ月で6万3000人が入場しました。清水港に入る客船からの来館者もあり、富士山世界遺産センターは静岡観光の新たなシンボルになっています
写真で見る「静岡県富士山世界遺産センター」、その1
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行
写真で見る「静岡県富士山世界遺産センター」、その2
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行)
(写真:平井 広行
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