札幌・大通公園が競技場に、仮設会場の「残さないレガシー」を考える
山嵜 一也建築家・山嵜一也一級建築士事務所代表
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01389/081100001/?n_cid=nbpnxt_mled_km
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1年延期が決まった東京五輪。第2波、第3波の懸念が続き、中止の可能性も取り沙汰されるなか、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は東京五輪の「簡素化」の方針を打ち出している。2012年ロンドン五輪計画に携わった建築家の山嵜一也氏が、30年冬季五輪の招致を目指す札幌市の取り組みと、12年ロンドン五輪の取り組みから、簡素化に向けたヒントを探る。(日経クロステック/日経アーキテクチュア)
新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、今ごろは東京五輪が閉幕し、パラリンピックが開幕していたはずだった。
東京五輪の1年延期が決まったのは2020年3月下旬。新型コロナにおびえる生活のなか、延期を淡々と伝える首相をテレビで眺めながら「五輪開催? それどころじゃない」というのが開催地・日本だけでなく、世界中の声だったのではないだろうか。自粛生活を余儀なくされた政府の緊急事態宣言が解除された6月上旬、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は五輪簡素化を打ち出した。
本リポートでは、21年の東京が目指す「簡素化五輪」について、30年冬季五輪の招致を目指す札幌市の取り組みと、12年に開催されたロンドン五輪から検証したい。
雪まつり跡地がスキー競技会場に
東京五輪延期決定の2カ月前の20年1月末、日本オリンピック委員会(JOC)は札幌市を30年冬季五輪の国内候補地として正式に決定した。東京五輪の酷暑を避けるためにマラソンコースの1年前の移転の受け入れた札幌市はスペインのバルセロナ、米国のソルトレークシティーという他の立候補2都市に比べて最有力と見られていた。
そんな折、札幌市の街中でクロスカントリースキー大会が行われるという情報を得た。同大会のキャッチコピーは「冬の大通公園が競技場になる!」である。筆者は12年ロンドン五輪において「都市を舞台にした競技会場」の建築設計に携わった。日本でも同じような考えの競技会場がつくれるのか? 新しい競技会場の可能性を見つけに雪まつりを終えた札幌市に飛んだ。
20年2月16日の日曜日。札幌中心部にある大通公園で、クロスカントリースキー大会が開催された。これは30年冬季五輪招致を見据えた機運醸成イベント「さっぽろスノースポーツフェスタ」の一環であり、都市型競技会場の可能性を探る実証実験でもある。ウインタースポーツ体験コーナーも併設して多くの子どもたちにその魅力も伝えるとともに、30年大会に向けての選手発掘も目指していた。
スタート地点。さっぽろテレビ塔を背景に選手たちはスタートしていく。観戦者の近くに選手が躍動する姿が見られるのも都市型競技会場の魅力だ(写真:山嵜 一也)
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大会後のスタート地点の様子。道路に設置された雪を押し固めてつくったコースは大会後に撤去され、日常の風景が戻っていた(写真:山嵜 一也)
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札幌市の大通公園と言えば、冬の風物詩「さっぽろ雪まつり」の会場として、世界中から多くの観光客を呼び寄せている。実際、クロスカントリースキー大会が行われる直前の2月11日までが雪まつりの開催期間だった。
このスポーツ大会に筆者が注目したのは、街の中心部を会場とした点だけでなく、その競技コースに雪まつりの残雪を利用するとしていたからだ。近年、五輪会場のサステナビリティーなどが叫ばれているが、その多くは“大会後”の資源の再利用、すなわちレガシーの議論である。その点、“大会前”としての雪まつりの資源である雪を再利用する都市型競技会場は新しい発想だった