一軒わずか200万円…「空き家」が売れない団塊ジュニアの末路
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新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。
2020年以降に起きる「空き家問題」
首都圏でも郊外を中心に大量の空き家問題が勃発する危険性がきわめて高い。(※写真はイメージです/PIXTA)
1995年からの四半世紀に関して不動産は「金融」とつながり、市場はかなり荒っぽい展開を見せるようになったと言いました。 さて1995年からの四半世紀といえば2020年までです。まさに東京五輪開催の年にあたります。世間ではなんとなく、このアベノミクスに端を発した好況は2020年頃までは持つのではないかといった楽観的な観測が目立ちます。たしかに、今のところ不動産市場が大きく崩れる兆候はまだそれほど顕著ではありません。 ところが、話を2020年以降に持っていくと、途端に関係者たちの口は重たくなります。なぜなら現在の好況が、日本の希望に満ちた明るい将来が明確に裏打ちされたものではないからです。 みせかけの好景気。つまり、株式と同じように国が支援にまわり、歴史上稀に見る金融緩和の結果、市場に流れ出たマネーが不動産に投じられ、たまさか海外投資家などのマネーがこの動きに便乗して市場を席巻している構図がいつまでも続くとは、誰も考えてはいないからです。 そこで本稿では、とりわけ2020年の東京五輪以降に生じると思われる現実の問題をとりあげ、その結果として日本の不動産にどんなことが起こるのか、今の状況が不動産バブルであるのならば、バブルはどんな軌跡を描きながら「弾ける」のかを、考えてみることにしましょう。 最初の視点が空き家問題です。この問題については2014年に拙著『空き家問題』(祥伝社新書)で詳しく取り上げ、大変多くの反響をいただきました。ここで私が強調したのは、空き家といえば多くの人が地方の親の実家などが親の死後に放置されてぼろぼろになった状態を思い浮かべるが、今後は首都圏でも郊外を中心に大量の空き家問題が勃発する危険性がきわめて高い、というものでした
自分がすんでいた家や地域に愛着なし
現在首都圏に暮らす団塊世代と呼ばれる1947年から1949年にかけて生まれた世代は、200万人を超えるといわれます。この人たち全員が後期高齢者となる満75歳に到達するのが2024年です。団塊世代は昔から人数が多いことから競争社会にもまれ、その中でも元気に生き抜き、常に日本をリードしてきた世代です。しかし、さすがに後期高齢者になってくると、病院や高齢者施設のお世話になる人も増えてきますし、相続も発生してきます。 彼らの子供たちを世間では団塊ジュニアといいます。年齢にして30歳後半から40歳前半が該当します。彼らは現在では社会人として中核世代を占めつつありますが、彼らの両親の多くが専業主婦世帯であったのとは対照的に、ほとんどが共働き世帯です。 団塊ジュニアの多くが、父親が住宅ローンを組んで買った郊外ニュータウンの住宅地で育ちました。幼いころから潤沢に教育費をかけられ、小学生から塾に通い、私立中学に合格し、毎日途方もないほど時間をかけて学校に通い、都内の大学を出て就職をしました。 そんな育ち方をした彼らに家の話を聞くと、みな口をそろえて言うのは、 「自分の住んでいた家や地域には特に愛着は感じない」 という述懐です。 あたりまえです。彼らの親が育ったような地方の家と異なり、整然と区画されたニュータウンで幼いころから野原で遊ぶ機会は少なく、物心ついてからは塾やお稽古事の連続で育ち、毎朝早起きして都内の私立中学、高校に通った身からすると、ニュータウンが「故郷」にはなりえないのです。 しかも夫婦共働き世帯があたりまえの時代になると、子供を抱えて郊外から通勤するライフスタイルはまったく通用しなくなっています。 そんな中で親に相続が発生すると、どうなるのでしょうか。 まず子供が親の家に「跡取り」として住むことはちょっと考えられません。彼らの多くは都心居住をすでに実践しているからです
実家は「放置」するか「賃貸」か
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
そこで彼らが目を向ける選択肢が2つです。「放置」するか「賃貸」して運用するか、です。「放置」する最大の理由は面倒くさいからです。人生80年時代にもなると、親はなかなか死にません。ということは、時間の経過とともに家財道具は増え続けます。 団塊ジュニアが目にするのは、実家に残された膨大な量の家財道具です。片付ける時間も気力もないのでとりあえずは放置して、たまに家の空気を入れ替えたりする程度の現状維持作戦という名の「問題先送り」を試みます。 しかし、戸建て住宅は意外と維持費がかかります。庭の草木は伸び放題となり、小動物が棲みついたりすれば近所から苦情の嵐となります。年に数回の芝刈りや草木の剪定だけでもその費用は馬鹿になりません。マンションであれば、住んでいようとなかろうと毎月管理費、修繕維持積立金の支払いを求められます。 そしてとどめを刺すのが5月に届けられる固定資産税、都市計画税の納税通知書です。不動産は主がいなくなって使われていないものであっても、相続人に対して容赦なく請求されます。 こうした思わぬ費用負担に驚いて次に考えるのが「貸せばいいじゃん」ということでしょう。ところが、これも甘い考えであることがすぐにわかります。 自分たちですら、不便で愛着もないので都心居住を選んでいるのに、自分たちが捨てた家を今さらありがたがって借りてくれる人は、ほとんど存在しないのです。せっかく家財道具を片付けて、リニューアルなどを施しても、ニーズのないところには借り手は現われてはくれません。 彼らが最終的に行きつくのが「とにかく売ろう」ということです。首都圏ではさすがに「まったく売れない」という住宅地はまだそれほど目立ってはいませんが、一部エリアでは、売却しようにもそもそも買い手がいない、あるいは一軒が150万円から200万円といった「車並み」の値段でしか買い手がつかないようなエリアも出現し始めています。 ということは、売るならば早いもの勝ちです。へたをすると永遠に税金を払い続けなければならない親の家を、ジュニアたちは持て余し、これらの家が大量に市場に出回り出すのは近い将来必定なのです。 牧野 知弘 オラガ総研 代表取締役
牧野 知弘
https://news.yahoo.co.jp/articles/ea0ca16d679dae748645eac27ccf6b1819bf200e?page=3