ミラーレス、デジタル一眼の2部門を制覇!
デジタルカメラグランプリ「総合金賞」2冠の快挙。ニコン「Z 50」「D780」特別レビュー
山田久美夫
https://www.phileweb.com/review/article/202006/26/3880.html
デジタルイメージングの総合アワード「デジタルカメラグランプリ2020 SUMMER」(以下、DGP2020 SUMMER)において、ニコンの「Z 50」および「D780」が、総合金賞に選ばれた。具体的に言うと「Z 50」はミラーレス部門、「D780」はデジタル一眼部門の総合金賞となり、両部門の2冠は、アワード史上初の快挙である。
しかも「Z 50」は、前期に続き、2期連続となる総合金賞である。本アワードは半年毎の開催となるが、総合金賞の対象となるのは「部門金賞に選出されており、かつ発売1年以内のモデル」という規定がある。つまり、同一モデルは最大でも2度までしか総合金賞に選ばれない。「Z 50」はその点においても “2冠” を達成しているのである。
この両モデルはいうまでもなく、2017年に創立100周年を迎えたニコンの新製品である。ニコンは長年、カメラメーカーとして第一線のプロに酷使され、また、多くの写真家や写真愛好者に愛されてきたメーカーだ。両モデルは、その長年にわたる写真、そしてカメラへのノウハウをベースに開発されており、それをそれぞれ異なるベクトルで結実させた意欲的なモデルといえる。
正直にいって、この両モデルには、画期的な世界初の新機能が搭載されているわけではないし、スペック的にみても、飛び抜けたものを備えているわけではない。しかし、実際に使ってみると、実に心地よく写真を楽しめる、ハイレベルなバランスを備えたモデルに仕上がっている。それこそが、DGP2020 SUMMERでの “総合金賞2冠” に繋がっているわけだ
肩肘張らず、等身大で写真を楽しめる「Z 50」
今や主戦場になったミラーレス。とはいえ、注目を浴びているのはフルサイズセンサー搭載モデルである。しかし、ごく普通のユーザーが写真を気軽に楽しむためのモデルとしては、正直いって高価でヘビーである。そのような中、昨年登場したのが、このAPS-Cミラーレス「Z 50」だ。
「Z 50」の最大の魅力は、バランスのよさだ。小型軽量ボディで、キットレンズの標準ズームも薄型コンパクト。そのため、とても携帯性がよく、普段使っているバッグにも気軽に収納できるし、一日中、首から提げて歩いても苦になることがない。外装は金属ではないものの、十分な高級感があり、安っぽさを感じることもない。
カメラとしてのグリップ感もよく、手の大きな人も小さな人も、安定してホールディングできる。また、ミラーレスの命ともいえるEVF(電子ビューファインダー)の見え味も秀逸。高価なフルサイズ機には及ばないものの、このクラスの中ではトップレベルの、クリアで歪みのない見え味に仕上がっている。
シャッターの感触も適度にソフトで、ショックもよく抑えられているため、シャッターチャンスが掴みやすく、ブレも少ない。ボディ内手ブレ補正は非搭載だが、キットレンズは標準ズーム、望遠ズーム共に、手ブレ補正効果を発揮する光学式VR機構を備えているので安心だ。
画質面も十分過ぎるほど高画質。画素数は有効2088万画素とやや控えめだが、A3プリントでもビクともしない解像度を備えている。画素数を抑えた分、APS-C機ながらも高感度時のノイズがよく抑えられている。特に超高感度時のノイズの少なさは驚くほど少ない。そのため、暗いシーンでも安心して手持ち撮影できる点も大きな魅力だ。
性能や画質が突出したモデルではないものの、その実力とバランスのよさは、きわめて大きな魅力。肩肘張らず、等身大で写真を楽しめるモデルに仕上がっている。発売から時間が経つにつれ、価格面でも値頃感が高まっており、より気軽かつ本格的に写真を楽しめるモデルとしての存在感を増している
撮影の醍醐味をリアルタイムに感じさせる「D780」
一方、フルサイズデジタル一眼のロングセラーモデル「D750」の後継機として、満を持して登場したのが「D780」。先代機から実に5年振りのフルモデルチェンジだけあり、ミラーレス時代における “一眼レフ” の在り方をきちんと見据えたモデルだ。
仕様の詳細については、こちらの記事を確認してほしいが、新規設計されたミラー駆動系の搭載や、「D5」から受け継いだAFアルゴリズム、「Zシリーズ」譲りのハイブリッドAFシステムの初採用など、ハード面、ソフト面ともに大きな進化を遂げている。
被写体の光をタイムラグなしに見ながら撮影できる、明るくクリアな光学ファインダー。「D5」から継承した、作者の意図を先読みするかのような的確なエリア選択や、動きに強い快適なAF測距。ライブビュー撮影も実に快適だし、AFもシャッターレスポンスも第一級。そしてなにより、超高速で緻密なメカニカルな撮影感覚を備えている。
実際に使ってみると、そのアナログ部分の緻密な作り込みに裏打ちされた、快適な撮影感覚が実感として伝わってくる。これは、なかなかの快感だ。これぞ一眼レフというべき、撮影の醍醐味をリアルタイムに感じさせるモデルである。
画質は、有効2450万画素のフルサイズセンサーによる余裕のある描写だ。十分過ぎるほどの解像感に加え、驚くほどの超高感度画質を備えており、フルサイズ機ならではのポテンシャルの高さを堪能できる。
ボディ単体で実売価格27万円前後と高価ではあるものの、中堅機でありながら、一眼レフとしての緻密で高精度なメカと光学系を、この価格帯で楽しめると思うと、むしろお手頃に感じられるほどである。
また、ニコンFマウント用交換レンズであれば、初期のボディ内モーター駆動レンズでも、きちんとAF撮影できる点も見逃せない魅力。長年、ニコンFシステムを愛用し、豊富なレンズ資産を持っているユーザーにとっても、きわめて魅力的なモデルといえるだろう
撮影時の心地よさ、それこそ両機に通底した魅力
「Z 50」は、誰もが気軽に写真の楽しさを享受できる、小型軽量なコストパフォーマンスの高いモデルとして、「D780」は、超本格的な写りによる作品作りはもちろん、熟成されたメカと光学、そしてデジタルの融合を楽しめるモデルとして、いずれも極めて高い完成度を誇るモデルである。
いずれもクラス中堅機であり、飛び道具的に秀でた機能やスペックを備えているわけではない。むしろオーソドックスな成り立ちに見えるが、実際に使ってみると、スペックシートを見ただけでは知ることが難しいカメラとしてのこだわり、感触からくる満足感を得ることができる。
正直にいって、写りという結果だけを重視するのであれば、ほかに選択肢はあるだろう。だが、中堅機でありながら、手にした時、撮っている時の満足感を感じさせてくれるモデルは、とても希有な存在だ。
「いい写真は、心地いいカメラから生まれる」。これは私の持論だが、「Z 50」、「D780」はそれを体感させてくれるカメラである。大袈裟な言い方になってしまうが、両モデルとも、実際に使ってみればみるほど、ニコンでしか作り得なかったモデルに思えてくる。
カメラ作りを熟知したカメラ好きが、こだわりながら愛情を込めて作ったからこそ感じられる撮影時の心地よさ。それこそ両機に通底した魅力であり、DGP2020 SUMMERで総合金賞 “2冠” を達成した、最も根本的なポイントといえるだろう