最年少首相の下でコロナ封じ込めに成功したオーストリア。外出制限緩和後に残る不安(オーストリア発)

5/10(日) 18:00配信

婦人公論.jp

 

 

新型コロナウィルス対策で、厳しい外出制限を設けていた国々が、ここにきて規制を緩和しはじめている。ヨーロッパで最も早く、4月14日に緩和措置を講じたオーストリアでは、どのような2か月間を過ごしてきたのだろうか。(文=パッハー眞理)

【写真】セバスチャン・クルツ首相

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◆違反者には3600ユーロ以下の罰金

オーストリアで新型コロナウィルスの感染者が最初に確認されたのは、2月25日インスブルック市に居住するイタリア・ロンバルディア州出身のイタリア人だった。その後、連邦保健省は、3月1日にコロナウィルス(以下COVID-19)の感染者が14名いることを明らかにした。その内訳は、ドイツ人観光客が2名、あとはイタリア旅行からの帰国者だと判明している。

そして3月10日、国内の感染者が180人を超えた段階で、外務省は、ヨーロッパ最大の感染者が発生していた隣国のイタリア全土を「危険レベル6」とした。感染拡大を危惧して、イタリアからの入国を禁止。空と鉄道の旅客便を停止し、国境では全ての車両がチェックを受けることになった。なお、国内で感染者が出る以前から、オーストリア航空は中国本土便の運航を停止し、イランに対して「渡航中止・非難」(危険レベル5)を出している。

さらに、イタリア滞在中のオーストリア人は即刻引き揚げ、14日間の自宅待機が義務づけられた。感染拡大国との国境を閉鎖したのは非常に早い決定だったものの、国境を接するチロル地方では、多くのスキー客が行き来し、国内では一番感染者の多い州となった。

大学は休講、ビジネスはできる限り在宅ワークに移行。3月11日から4月末まで、参加者500名超の野外のイベント、100名超の屋内の行事は中止とした。これは法的拘束力を持つ禁止措置だ。ところが、中止に対して国からの補償はない。

15日には厳しい外出制限が発表された。散歩や日用品の買い出し、病院の通院などは認められているものの、不要不急の外出は禁止に。散歩は同居者2人までと定められた。取り締まりのためにパトカーが巡回して、違反者には3600ユーロ(約42万円)以下の罰金。

カフェやレストランをはじめ、日用品以外の店舗は完全に閉鎖され、休業に応じない経営者は3万ユーロ(約351万円)以下の罰金が科された。閉鎖に対して国からの補償は、当事者でないとわからないほど、かなり複雑だ。毎月補償が出るのか、1回限りなのかは労務省や保険会社に問い合わせることになっている。

 

 

 

 

 

葬儀は近親者10人まで、結婚式5人まで

21日からは、スーパーマーケットでのマスクの着用が義務づけられた。スーパーに入る前に無料のマスクが配布されている。対応が遅いように感じられるかもしれないが、オーストリアは、「覆面禁止法」(2017年10月施行)により、公共の場で顔を認識できない程度に覆うことが禁止されている国だ。ブルカ(イスラム諸国の女性の着用するヴェール)やマスクの使用はNG。その国で、マスクが義務づけられることになったのは、いかに緊急事態であったのかが察せられる。

そして4月1日には「屋内集会禁止法」が制定され、葬儀は近親者10人まで、結婚式5人までの参加に制限された。違反者には、1450ユーロ(約16万円)の罰金もしくは最高4週間の自由刑(強制的に収容し、個人の自由を剥奪する刑罰)が科される。

上記のような厳しい措置は、34歳のセバスチャン・クルツ首相の下行われている。クルツ首相は毎日のように動画で国民に呼びかけ、「つらい現状だが、〈オーストリアチーム〉で見えない敵から身を守るのが大切だ」、「祖父母を助けるためにも、面会は当分控えることが重要」など力説している。

なお、テレワークで外出しなくなった結果、離婚率が確実に上昇しているという悲報も耳にする。配偶者やパートナーが一日中パジャマ姿で過ごし、シャワーも浴びず、どんどん汚くなるからだとか、不安な心境を相手にぶつけてしまうため摩擦が起きやすいからだとか……。

そんな過酷な生活に彩りをもたせようと、「Flashmob-Gig」というバルコニーでのコンサートが企画されている。毎週、ソーシャルメディアを通して課題曲が出され、日曜日の18時に各自が楽器を持って、バルコニーに集まり演奏する。誰でも参加でき、歌う人、電子ピアノで演奏する人、サックスを吹き鳴らす人などさまざま。

ある日の課題曲は、ベートーヴェンの交響曲第9番「歓喜の歌」、EU欧州連合賛歌だった。弾くほうにも聴くほうにもストレス発散になるとあって、毎週日曜日を楽しみにしている人がたくさんいる。

上記のような封じ込め措置の成果か、感染者の増加ペースが鈍化。クルツ首相は4月14日から、欧州では初めて、制限措置の緩和を行うと発表した。早期のうちから厳しい措置を行った成果であるとして、国民の間では誇らしい話題となっていた

 

 

 

 

 

IKEA に大勢の人が殺到したとのニュースが…

それでは、外出制限緩和後の生活はどうなったのか。

緩和は段階的に行われ、14日に小規模の商店などが営業を再開。15日には利用目的が限られていた交通機関が、無制限に使えるようになった。ただし、公共交通機関を利用中、マスクで鼻と口を覆っていない者は25ユーロの罰金、他人と1メートル以上の距離を維持しない者は50ユーロの罰金が科される。

学校は、6歳~14歳は5月19日から、15歳以上の生徒は6月3日より再開することが決められた。その際は各クラスを2つのグループに分けて日をずらして登校することに。通学しないグループは「自宅学習」。マスクの着用は校内でも義務づけられており、休憩時間でも着用することになった。

5月2日の土曜日からは、すべてのショップ、カフェ・レストランがオープンした。3月から閉じていたので、喜びはひとしお。しかし初日から、IKEA に大勢の買い物客が殺到したとのニュースが流れ、今後ふたたび感染が広がらないか不安が残る。

5月3日には、全国の新たな感染者が19名に。これで全国の感染者は1万5527名(死亡598名)治癒した者は1万3228名となる。なお、テレワーキングは6月末まで予定されている。

パッハー眞理

 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200510-00002014-fujinjp-life&p=3