新型コロナ、いまの日本は「2週間前のニューヨーク」かもしれない
3/28(土) 7:01配信
東京の3月25日の感染者数は212。この数は、偶然にも、3月11日時点のニューヨーク州の感染者数と全く同じ。ニューヨーク州はそれからわずか2週間で、その数が3万2000を超えた。アメリカ在住の著者の目に映る日本の現在の状況とは。
新型コロナ「世界的危機」が、日本人の想像以上に深刻である理由
えっ、花見?
3月第4週の3連休(3月20~22日)、SNSでは日本の花見の写真がよく目についた。
私は
アメリカに住んでいるが、それを見て、とてつもない違和感を覚えた。えっ、今、花見? 大丈夫なの?
人々は変わらず、街にも、普通に出歩いている
ときく。
こんな状況をアメリカ公衆衛生局長官ジェローム・アダムス氏が見たら、一喝するところだろう。
「君たち、死にたいのか!」
そして当然、思うに違いない。
「いったい、安倍政権は何をしているんだ。アメリカなら、取り締まるところだ」
それだけ、日本とアメリカの危機意識には、大きな隔たりがある。現在アメリカでは連邦政府から、感染拡大防止のため「10人以上の集まりを禁止せよ」というガイドラインが出されている。
そのアダムス氏、3月23日、テレビに登場して、アメリカで「外出禁止令」が出された後もビーチに押しかけた人々を戒めたのだが、その時の発言には並々ならぬ説得力があった。それはこの一言だった。
「みな、自分が感染していると思って、行動してほしい」
私たちはもうすでに感染している。あなたも私も感染者なのだ。この意識を持つことはとても重要だ。全ての人々が感染者だと考えて行動しなければならない状況まで、今、世界は追い詰められている――。
しかし日本では、花見やいつもと変わらぬ街の様子からわかるように、(少なくとも3連休の段階では)この意識は、国民に行きわたっていないようだ。
それはおそらく政府の姿勢が大きく関係しているだろう。
少なくとも私が目にした限り、日本政府からは、アメリカのように危機意識を持った“注意喚起”、あるいは誠意と真摯さに満ちた“お叱り”、経済的な裏付けのある“実効的な政策的手当て”はない。
政府がまず危機意識を持って対策を講じ、国民を叱らない限り、お上まかせの他力本願な傾向が強い日本の人々に危機意識は芽生えないのは当然と言えるだろう。
その結果、どうなるか? いま世界で懸念されているのは、日本自体が「ウイルス培養列島」と化してしまうことだ。
安倍政権の「五輪への固執」の問題
安倍政権は、ダイヤモンド・プリンセス号を「ウイルス培養皿」にして世界のメディアからその危機管理能力が問われたが、いまだその体験から教訓を得ることなく、危機管理能力の欠如は白日の下に晒されている。
やっと延期が決まった東京五輪がその象徴的な例と言えるだろう。早い段階から、世界中で中止や延期を求める声があがっていたのは周知の通りだ。
オレゴン州のパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏もそんな声をあげた1人だ。ボイコフ氏は「オリンピック秘史 120年の覇権と利権」の著者であり、アメリカの様々なメディアで、精力的にオリンピック問題を斬っている。
ボイコフ氏は3月18日、米紙ニューヨーク・タイムズに「東京五輪を中止せよ」と題する論説文を寄稿して、東京五輪を開催すると頑なに主張し続けた安倍政権とIOCを批判した。
「東京五輪で、巨大で、危険なウイルス培養皿が生まれるかもしれない。世界の公衆衛生のために、東京五輪は中止すべきだ」
東京五輪は、ダイヤモンド・プリンセス号同様、“ウイルス培養皿”となってしまう危険性があると指摘したのだ。
感染症の専門家も懸念していた
実際、感染症の専門家たちも深刻な懸念を表明していた。
「世界中から選手や観客が東京に集まり、そして、世界へと戻って行く。ウイルスを世界中に拡散させるのにこれほどいい方法はありません」(スタンフォード大学教授イヴォンヌ・マルドナード氏)
「スポーツのような多くの人が集まるイベントでは、ハシカからジカ熱に至るまで、疾病はとても簡単に広がるのです。海外からは感染している選手や観客が日本に入って来るかもしれないし、日本人の中にもすでに感染者がいますからね」(ネブラスカ大学公衆衛生学部部長のアリ・カーン博士)
こうした感染症の専門家と同じく、ボイコフ氏は五輪開催により、新型コロナ感染がいっそう拡大し、人命や健康が損なわれることに危機感を覚えていたのだ。
そもそも、「アスリート・ファースト」の姿勢を重視してきたボイコフ氏は、熱中症患者が多く出る7~8月に東京オリンピックが開催されること自体も疑問視していた。氏は私の取材にこう語った。
「7~8月の開催は、選手や観客の健康を配慮したものとはいえません。選手の健康は、東京の暑さの中で、危険に晒されてしまうでしょう。実際、私は、7月に2週間、東京に滞在したことがありますが、信じられない暑さでした。熱中症で亡くなる人もいた。そんな暑さにもかかわらず、7~8月に開催される理由は、結局、莫大なカネが絡んでいるからです」
最終的に延期には至ったものの、ボイコフ氏はそんな莫大なカネが絡んだ五輪を、新型コロナという公衆衛生危機より優先させる判断をしてきた安倍政権の危機管理能力に疑問を感じている。
ボイコフ氏は、福島の危機管理がいまだ行われていないことにも懸念の色を示している。聖火リレーが予定されていたコースで、放射線値の高いホット・スポットが発見されたからだ。
「2013年に、東京がオリンピック候補地に名乗りを上げた時、安倍首相は言ったんです。“福島第一の状況はコントロールされている”と。しかし実際はそうではなかった。彼は嘘をついていたのです」
新型コロナ対策においても、安倍政権が十分な危機管理を行なえていないと見られている。もちろん、人々の行動の自由は最大限に尊重されるべきだし、後述するようなアメリカのやり方がすべてというわけではない。しかし、多くの国で危機意識が高まるなか、
諸外国のメディアや政治家、市民の目に、日本の姿が悠長に映っているのも確かだろう。
付け加えれば、その背後に東京五輪開催への固執があったのではないか、という見方も当然ある。
アメリカの急激な変化
日本政府はマスクや手洗いを徹底化させていることには成功しているようだが、今、世界で広がっている「社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンシング)」(人と人との物理的距離を低減させることで感染拡大を防ぐ戦略。アメリカでは6フィート(約1.8m)あけることが推奨されている)については徹底化していないことを、花見やK-1、いまだ普通に人が歩いている街の様子が証明している。
一方、アメリカでは、3月13日に「国家非常事態宣言」が出されてから「社会的距離戦略」が一気に進んだ。驚くほど猛スピードで。
この宣言が出される前の3月8日の日曜日、筆者が住むロサンゼルスでは、毎年恒例のロサンゼルス・マラソンが開催されたのだが、東京マラソンと違い、一般人も参加、沿道には大勢の観客が訪れ、声援を送っていた。マスクをしている人は皆無と言ってよかった。その光景を目にしてアメリカの状況に危機感を覚えていただけに、筆者は、その後のアメリカの豹変ぶりに圧倒されてしまった。
3月15日、ロサンゼルス市では、市長がレストランやカフェ、ジム、映画館などの営業を一時停止するよう市長命令を出し、他州もこれに続いた。カリフォルニア州知事は、65歳以上の高齢者は自宅隔離するよう要請した。CDC(米疾病対策センター)は、50人以上が集まるイベントを今後8週間にわたり中止・延期するよう勧告。
3月16日には、米政府は、今後少なくとも15日間、10人以上で集まることを避けるよう勧告。バーやレストラン、フードコートでの飲食や旅行も控えるよう推奨。サンフランシスコでは、不要不急の場合を除いて外出を自粛する行政命令も出た。
3月19日、米政府は国民に海外渡航禁止を勧告。東部の5州は、全企業に、従業員を在宅勤務させるよう要請。
そしてその夜には、カリフォルニア州で、食料など生活必需品の買い出しや医療機関への訪問など生活に不可欠な行動を除いて外出を禁止する「外出禁止令」が発令され、他州もすぐにこれに続いた。
3月25日には、首都ワシントン(コロンビア特別区)が、生活に不可欠な業種を除く企業活動を停止し、10人以上の集まりを禁止する措置を発動した。
連日のように、連邦政府や自治体から、国民に社会的距離を取らせるべく、様々な発令が出され、その内容はどんどん厳格化して行ったのである。
民間の機関も検査をしている
現在、「外出禁止令」はアメリカの約3分の1にあたる22の州で出されており、アメリカ人の3人に1人が自宅待機している状況だ。
そして今、感染が急速に拡大している状況から、市民やメディアからは「全米封鎖すべきだ」という声もあがっている。
「国家非常事態宣言」後、検査数も飛躍的に増加した。官民連携で新型コロナ対策に取り組み始めた米政府は、CDCが行なっていた新型コロナの検査を、民間の検査機関の協力も得て行うようになったからだ。ドライブスルー検査も各地で実施されている。
トランプ氏はある記者会見の際、こう言って自負した。
「韓国が8週間かかって達した検査件数に、アメリカは8日間で達した」
検査数増加に伴い、感染者数も23日以降は、連日1万人以上増加、26日にはイタリア、中国の感染者数を抜き、世界最多となってしまった。
市民生活は大きく変わった。
生活を支えるインフラに携わる職業に従事する人々以外は在宅勤務が求められ、学生にはオンライン授業が行われている。
店はテイクアウトやデリバリーのサービスを行うレストラン以外は閉鎖されている。しかし、そんなレストランもテイクアウトやデリバリーだけではビジネスが成り立たず、閉鎖に追い込まれている状況だ。店の中には泥棒よけのためか、窓ガラスに板を貼り付けている店もある。
経済対策の規模がすごい
しかし一方で、そうした店の経営者を最大限救済するための政策も同時に打たれている。米中小企業庁は、中小企業を救済するために、500億ドル(約5.4兆円)の予算を新型コロナ災害ローンに当てた。ロサンゼルス市の場合は、市内の中小企業に、0~3%の金利で貸し付けるために1100万ドルを用意している。
市民の救済も始まった。約244兆円という米市場最大の経済救済策法案が上院で可決、下院で可決されて通過する可能性も高く、これにより、大人一人あたり1200ドル、子供一人あたり500ドルが支給されることになる。100万人が失業申請をしたカリフォルニア州では、主要銀行が、市民が最低3ヶ月、月々の住宅ローンの返済を遅延できる救済策に同意した。
街からは人影もすっかり消えた。車を走らせると、目にするのは、犬の散歩をしている人やインフラの整備をしている人くらいだ。一方、パトカーが街のあちこちで目につくようになった。
スーパーに食品の買い出しに行くことはできるが、すぐには入店できなくなった。多くのスーパーが入店者数に制限を設けているので、まず、店頭で、列に並ばなくてはならなくなったのだ。並んでいる客は前の客との間に6フィートの距離をとることも求められている。
入り口では、従業員が、客が1人出て行くたびに、列の先頭にいる客1人に手招きをして中に入るよう誘導を行なっている。入店前に、客の手に消毒液をスプレーしているスーパーもある。入店制限により、店内はガラガラとなり、買い物は以前よりしやすくなった。店内でも、レジに並ぶ時は、前の客との間に6フィート開けることが促されている。東京では「買い溜め」が起き、スーパーがごった返している映像も報道されているが、それとは大きな差がある。
ニュースキャスターも距離をとって…
テレビをつけると、2人のニュースキャスターは、距離をあけてニュースを報じ始めた。
お天気姉さんやスポーツ担当のキャスターは「ソーシャル・ディスタンシングです」と言って、自宅からテレビに登場している。
外出禁止とはいっても、長時間でないなら、散歩やジョギング、エキササイズなどの活動をすることは許されているため、人々の足は今、海や公園、山などに向かっている。
先週末は海や山に多数の人が押しかけ、人と人の間の社会的距離が取られなくなったことから、ロサンゼルス市はビーチの駐車場やトレイルすぐに閉鎖した。このあたりの危機対応も迅速だ。
それだけ、アメリカは、厳格に社会的距離を守らせようとしているのである。
また、連日、米政府の新型コロナタスクフォースは、感染症の専門家を交えて記者会見を開き、その様子をライヴ中継して、国民に日々の状況を知らせている。
一方、日本に目を向けると、政府はやっと「新型コロナウイルス感染症対策推進室」を立ち上げ、東京の小池都知事がようやく、仕事はできるだけ自宅で行い、夜間外出を控え、週末の外出も自粛するよう呼びかけ始めたところだ。繰り返しになるが、海外の迅速な危機対応と比べると、悠長に構えているようにしか見えない。
東京では感染者数が増え始めており、今後、検査数が増えれば感染のホット・スポットとなり、医療崩壊の瀬戸際に立つニューヨークのような状況になる可能性も否定できない。
筆者が調べた時点での、東京の3月25日の感染者数は212だが、この数は、偶然にも、3月11日時点のニューヨーク州の感染者数と全く同じ。ニューヨーク州はそれからわずか2週間で、その数が3万2000を超えた。
小池都知事は「現状の対策のままでは来月8日までに東京都の感染者が530人程度増える可能性がある」と試算しているが、本当に、そんな数で留まるのだろうか、という疑問が強く残る。アメリカ並みに検査数を増加すれば、そんな数で留まることはありえないだろう。
東京が2週間後、今のニューヨークにならぬよう、小池都知事は先手先手のドラスティックな対策を打つ必要がある。
米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ氏は新型コロナ対策においては「やり過ぎで批判された方がいい」と言い切ったが、この言葉をそのまま安倍政権に送りたい。
飯塚 真紀子(在米ジャーナリスト)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200328-00071422-gendaibiz-n_ame&p=5