新「iPad Pro」レビュー。LiDARや2カメラ、マウス対応など大きく進化
2020年春に発売される第4世代の12.9インチ「iPad Pro」
2020年春に発売されるのは、Liquid Retinaディスプレイを搭載する、12.9インチ/11インチの新しいiPad Pro。12.9インチは第4世代、11インチは第2世代機となる。ラインナップの内訳はニュースでお伝えしている通りだが、最小ストレージサイズが64GBから128GBに増え、価格はWi-Fi+Cellularモデル、Wi-Fi専用モデルともに従来より安価になることに注目したい。カラーバリエーションはシルバーとスペースグレイの2色が揃う。
画面の4つのコーナーを面取りして、Touch IDボタンを省いたフルスクリーンデザインは、2018年秋に発売されたiPad Proをそのまま踏襲した。本体の厚みも5.9mmと変わらない。
左側は2018年に発売された12.9インチのiPad Pro。マルチレンズカメラユニット以外、デザインは大きく変えていない
■ディスプレイとオーディオは2018年モデルのハイスペックを継承
ディスプレイの解像度や画素密度などの基本スペックも、2018秋のiPad Proから変更されていない。他のiPadと比べた際、iPad Proならではの強みのひとつが、120Hz駆動による残像感の少ない表示を実現する「ProMotionテクノロジー」だ。倍速表示対応のモバイル用ディスプレイがゲーミングスマホの登場によって注目されているが、その先駆けともいえる。
というのも、実はiPad Proシリーズは、2017年に発売された12.9インチと10.5インチのiPad Proから、いち早くProMotionテクノロジーを搭載しているのだ。Apple Arcadeのゲームも、大きな画面にスムーズに描画される。
Apple Arcadeのゲームエンターテインメントの操作感も向上している
タッチセンサーにカバーガラスと液晶パネルを一体にした「フルラミネーションディスプレイ」を搭載したiPad Proは、Apple Pencilによる書き味がとても滑らかだ。画面の反射率を低く抑えているので、野外など明るい場所での視認性も高い。
新モデルも第2世代のApple Pencilによる手書きペン入力に対応する
11インチと12.9インチで迷う方が多いだろうが、Apple TV+やNetflixの映像コンテンツを快適に楽しみたいなら、画面の大きな12.9インチのiPad Proを筆者はおすすめしたい。12.9インチ、11インチのモデルともにDCI-P3の広色域表示ができて、600nitsの輝度を備える。HDR10とDolby Visionで制作された映像コンテンツの再生には対応しているが、ネイティブHDR表示には非対応となる。周辺環境に応じて画面のホワイトバランスを自動調整する「True Toneテクノロジー」の採用にも抜かりはない。
本体の側面フレームに合計4つのスピーカーを内蔵した。iPhone 11シリーズから採用されているアップル独自の「空間オーディオ」は搭載していないが、パワフルで臨場感も鮮やかなサウンドは特筆したい。Dolby Atmos対応コンテンツの再生時には、iPad Pro内蔵スピーカーだけでリアルな立体サラウンドが楽しめる。
これらのフィーチャーは、繰り返しになるが2018年に発売されたiPad Proから引き継いだものだ。画質・音質については、筆者が所有する第3世代の12.9インチiPad Proと比べて視聴してみても大きな違いは感じられなかった。
■AR体験を向上させるダブルレンズカメラとLiDARスキャナ
では、どこが変更されたのか。2020年のiPad Proは、本体背面のメインカメラが大きく進化している。
iPadとして初めてダブルレンズカメラを搭載。ふたつのレンズの隣、中央に配置されているのがLiDARスキャナだ
LiDARスキャナは、カメラを向けた方向に目に見えない光の粒子を照射し、跳ね返ってくる光の到達時間を計算して距離を測るためのセンサーだ。iPadのような薄型のモバイルデバイスに組み込むため、アップルはLiDARスキャナの小型化に腐心した。このスキャナは、屋内外で最大5メートルまでの被写体の距離を、素速く正確に測距できるという。
本体を側面から見ると、カメラレンズユニットが高く盛り上がっているのがわかる。iPhone 11シリーズは強化ガラスのケースだが、iPad Proはアルミニウムのケースに囲われている
このiPad Proの新しいLiDARスキャナは、ARコンテンツの再現性を高めるために搭載されている。ほかの2基のRGBカメラによる暗所での静止画・動画撮影に連動して、測距精度を高めるといった用途は想定されていないようだ。
そしてiOS 13.4/iPadOS 13.4と同じタイミングで、アップルは独自のARフレームワークであるARKitの最新APIを公開する。これからLiDARスキャナを活用するARアプリが続々と増えそうだ。
iPad ProではARアプリがサクサクと遊べる。次期ARKitの最新バージョンからLiDARを活かしたアプリの開発が進みそうだ
新しいiPad ProでいくつかのARアプリを試してみた。速度や精度については今のところ、筆者が所有するiPad Proのパフォーマンスも十分に高いため、あまり大きな差は出なかった。ただ、ARオブジェクトの中に人物が入り込んだときは違いが出た。新しいiPad Proはそれぞれの前後位置関係を計算しながら、境界線を正確に描き分けた。
■スムーズな画像編集を実感。Wi-Fi 6対応にも期待
最新のA12Z Bionicチップは4Kビデオの編集や3Dグラフィックスによるクリエイティブワークを強力にサポートできるパフォーマンスを備えた。
8コアのCPUとGPUを統合する最新のSoCには、アップルが独自に設計したパフォーマンスコントローラーと、CPU/GPUの熱を効率よく逃がすための放熱レイアウトを採用する。2017年に発売された第2世代のiPad Proが搭載していたA10X Fusionチップと比べると約2.6倍、2018年発売の第3世代モデルが搭載するA12X Bionicチップとの比較でも、より優れたグラフィック処理性能を発揮できるという。
デジタルカメラで撮影した静止画のデータをiPad Proに読み込み、画像編集アプリの「Pixelmator Photo」でレタッチ作業を行ってみた。筆者がふだん使っている第3世代の12.9インチiPad Proよりも修正処理のスピードが明らかに速い。作業の効率アップが期待できそうだ。
A12Z Bionicチップを搭載するiPad ProはPixelmator Photoアプリによる写真のレタッチ作業がスムーズに行える
ワイヤレス通信は新しいiPad Proから初めてWi-Fi 6(11ax)にも対応する。同じWi-Fi 6対応のルーター機器などを導入すれば映像・音楽配信コンテンツがよりスムーズに視聴できるだけでなく、テレワーク系ツールの安定感も高まりそうだ。なおiPad Proには、メインカメラによるビデオ撮影時の音声や、ビデオ通話の音声もクリアになる、スタジオグレードのマイクが計5基内蔵されている。
新しいiPad ProのWi-Fi+Cellularモデルについては、ギガビット級LTEの対応バンドが29から30に増えた。データ通信のみだがnanoSIMとeSIMによる通信が使えるので、移動の多いビジネスパーソンにとっては、常時オンライン接続が可能なiPad Proが、ノートPCより心強いデバイスになることもありそうだ。
eSIM機能を上手に使いこなせば、iPad Proは出張の多いビジネスパーソンの強力な武器になる
■ダブルレンズカメラはiPad Proのため独自に設計
アップルのデバイスには、iPhone 11シリーズから超広角レンズが搭載されたあ。筆者もiPhone 11 Proで、展示会場の全景を撮りたい場面などに超広角レンズを活用している。超広角レンズが搭載されたことで、今後iPad Proで写真を撮る機会も増えそうだ。なお広角・超広角レンズの両方で最大4K/60pの動画撮影も楽しめる。
広角と超広角を組み合わせたマルチレンズカメラというユニット構成はiPhone 11と同じだが、新しいiPad Proの超広角側カメラユニットはセンサーの解像度が10メガピクセルで、視野角はiPhone 11よりも少し広い125度となる。それぞれに仕様が少し違っているのだ。
iPad ProとiPhone 11 Proのマルチレンズカメラを比べるとルックスはけっこう違う
カメラアプリでポートレートカメラを選択すると、フロント側のTrueDepthカメラに切り替わる仕様もiPad Proならではのもの。iPhone 11シリーズとは異なっている。センサー解像度が12メガピクセル、明るさがF1.8という広角レンズの仕様は、2018年秋に発売されたiPad Proと同じものとなる。
True Depthカメラのスペックには変更なし。Face IDによる顔認証機能を備える。ポートレート撮影はTrue Depthカメラのみで行えるのがiPad Proならではの仕様だ
夕暮れ時の風景をiPhone 11 Proと新しいiPad Proの超広角レンズで撮り比べてみた。解像感はやはりiPhone 11 Proの方がやや勝るものの、夕焼け空のきめ細かなグラデーションの階調感、雲の陰影の立体感などはiPad Proもしっかり丁寧に描けている。
iPad Proの超広角レンズ(10MP)と、広角レンズで夕焼けの空を撮影。自然な色合いとグラデーションのきめ細かさはiPhone 11 Proに引けを取っていない
iPhone 11 Proで同じ風景を撮影した。超広角側の解像度や色味の深さはやはりiPhoneの方が一枚上手な手応えがある
キーボード入力が安定したiPadOS 13.4を試す
本体と同時に発表された専用アクセサリーの「Magic Keyboard」は、新しいiPad Proと同じぐらい注目を浴びている。その出来映えやタイピング感が気になる方も多いだろうが、発売が少し先の5月に予定されているため、残念ながら今回は試用できなかった。またあらためて詳細をレポートしたい。
Magic Keyboardについては、筆者は取材先でiPad Proを使って原稿を書く機会が多いので、発売されたら真っ先に購入したいと思っている。新しいMacBook Airに搭載されたキーストローク1mmのMagic Keyboardと同じキータッチを実現しているのなら、長文タイピングのストレスが大幅に軽減されるはずだ。
昨年秋にiPadOS 13がリリースされてから、日本語入力の文字変換がやや不安定に感じられることがあった。今回iPadOS 13.4がインストールされている新しいiPad ProとSmart Keyboard Folioの組み合わせで、アップル純正の「メモ」アプリやサードパーティーのテキストエディタアプリで日本語入力を試してみたが、日本語入力の安定感が戻っていた。これで心置きなくMagic Keyboardの購入に踏み切れそうだ。
新しいiPad ProとSmart Keyboard Folioでキーボード入力を試した
ちなみにMagic Keyboardには、iPad ProからSmart Connector経由で給電される。Magic Keyboardにはバックライトキーが搭載されているので、Smart Keyboard Folioを装着した場合に比べてバッテリーの減りが変わるかどうかも気になっている。だがUSB-C充電器とケーブルで、Magic KeyboardからiPad Proへのパススルー充電もできるので、電源を確保できる場所で作業する分には心配無用だろう。
Smart Keyboard Folioは独自のSmart Connectorを介してiPad Proから給電される
そのほかMagic Keyboardを間に介し、Smart Connetor経由でデータ同期が行えるのかも気になっている。またその際、iPad Pro本体のUSB-Cコネクタも併用し、Macとデータを同期しながらiPad ProにUSBマスストレージを接続し、データを読み込むといった使い方ができるのかなど、本アクセサリーについては試してみたいことが山積みだ。
■マウスが簡単にペアリングできる
iPadOS 13.4から、すべてのiPadでマウスやトラックパッドが快適に使えるようになる。対象はアップル純正のポインティングデバイスである「Magic Mouse 2」や「Magic Trackpad 2」のほか、サードパーティ製のBluetooth、またはUSB接続の有線マウスまで幅広い。
iPadOS 13.4からアップル純正やサードパーティーのポインティングデバイスのペアリングが簡単にできるようになる
接続方法も、設定の「アクセシビリティ」からアクセスしていたiPadOS 13の初期段階から更新され、Bluetooth接続メニューにマウスやトラックパッドが表示されるようになり、ここからダイレクトに選択するだけでペアリングが完了する。
Bluetoothマウスを起動するとiPadOSのBluetooth設定に機器が表示されるので、タップして選択するだけでペアリング完了だ
室内を歩きながらスマート家電をアプリで操作したり、ゲームを楽しむ際には従来通りタッチパネルの操作が手早いが、キーボードのほかにマウスやトラックパッドまで使えるようになると、WordやExcelなどビジネス系アプリを使うファイルの作成がますますはかどる実感がある。
マウスカーソルも驚くほど洗練され、テキストにカーソルを合わせると、自動的に最適な見やすい形状に変化する。第2世代のApple Pencilを併用すれば、iPad Proの画面に指で触れる機会も減るので、画面をきれいな状態に保てるのも嬉しい。
iPadOS 13初期のマウスカーソル。アクセシビリティ機能のひとつとして提供されていた
これまで、iPadでマウスが使えなかったことを理由にノートPCからの買い換え・買い増しをためらっていた方にもぜひ試してみてもらいたい。
新しいiPadOS 13.4のマウスカーソル。通常はグレーの小さな丸形だが、テキストをポインティングすると自動的に縦長のバーに形状を変える
■iPadの新たな進化は、この新しいiPad Proから始まる
新しいiPad Proは、最新のA12Z Bionicチップを搭載したことで底力が上がった。LiDARスキャナを搭載するマルチレンズカメラによって、これからARやXRのテクノロジーを盛り込んだアプリやゲーム、その他のサービスなどが充実してくることを大いに期待したい。
またMagic Keyboardの登場により、Smart Connectorに多様な拡張性のポテンシャルがあることもわかった。
新しいiPad Proから始まる「iPadの新たな進化」の道筋が見えてきた。
(山本 敦