ラッキーな人は何をしている? 運を味方につける極意
2/3(月) 17:40配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200203-00010004-nikkeisty-life&p=4
『幸運学 不確実な世界を賢明に進む「今、ここ」の人生の運び方』より
このところ世界の不確実性が増しているなどとよく言われるようになりました。VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)という言葉もよく聞きます。そんな時代に気になるのが運です。このほど運に関する知見をまとめた解説書『幸運学 不確実な世界を賢明に進む「今、ここ」の人生の運び方』(日経BP)を刊行した早稲田大学ビジネススクールの杉浦正和教授に、キャリア形成に生かせる運との付き合い方について寄稿してもらいました。
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「幸運の女神には前髪しかない」のウソ
「チャンスの女神には前髪しかない」というフレーズを聞いたことがあると思います。この言葉を聞くと、多くの人は「確かにそうだ!」と膝を打ちます。「チャンスが通り過ぎたあとで慌てて追いかけても手遅れだから、その瞬間を逃さず前髪をつかむしかない」と納得するのです。けれども、このフレーズには誤りがあります。
2020年、みなさんにはどんなチャンスが訪れるでしょうか。どんな幸運が巡ってくるでしょうか。私は『幸運学』と題した本を上梓(じょうし)し、「運の正体」と「幸運への近道」について論じました。スピリチュアルな話ではありません。ビジネススクールで学ぶ戦略論やキャリア論、あるいはヒット曲の歌詞など、「運」に関する古今東西の知見をまとめた解説書です。
さて、「チャンスの女神には前髪しかない」は何が間違っているのか。
ギリシャ神話では、チャンスの神様の名前は「カイロス(Kairos)」といいます。そしてカイロスを描いた絵や像などを見ていただくとわかりますが、前髪しかありません。
しかし、実はカイロスは女神ではなく男神なのです。
カイロスが誤って「女神」とされてしまったのは、おそらく「フォルトゥナ」という名のローマ神話の女神との混乱が生じてしまったからだと考えられます。フォルトゥナは「フォーチュン(幸運)」の女神です。もしかすると「チャンスの神様は女神であってほしい」という意識も影響したのかもしれません。そして女神フォルトゥナには、ちゃんと後ろ髪があります。整理してみると次のようになります。
「カイロス」 =チャンスのギリシャ神 =男神=後ろ髪なし
「フォルトゥナ」=フォーチュンのローマ神=女神=後ろ髪あり
つまり、「チャンスの男神(カイロス)には前髪しかない」というのが、正確なのです。
ローランド式の思考法で「運」について考える
前置きが長くなりましたが、では「チャンスの男神の前髪」をつかめる「ラッキ-な人」になるためには、どうすればいいでしょうか。ここでは「現代ホスト界の帝王」と称されるローランドさんの思考法を拝借して考えてみましょう。ローランドさんには決めせりふがあります。「世の中には2種類の男しかいない。俺か、俺以外か」です。
「世の中には、2種類の人しかいない」というこのレトリックは、実はなかなか便利です。どこかに任意に区別の線を引いて「それと、それ以外」に分ければ良いだけなのですから。にもかかわらず、妙な説得力があります。
このレトリックを拝借すると、例えばこんな分類が可能です。
(1)予定をキャンセルされたときに、がっかりする人
(2)それ以外の人(=「それはそれで、よかった」と思う人)
さて、どちらの人が、運が良くなるでしょうか。私は後者だと思っています。急に予定がキャンセルになったときにできた時間を、私は「ぽっかり時間」と呼び、「ありがたい!」と喜びます。
ぽっかり時間は、偶然訪れたチャンスです。ぽっかり時間に行ったことは、思いのほかうまくいきます。なぜなら、「成果を出さなきゃ」というストレスがないし、「ダメでもともと」と気持ちに余裕があるので、創造的になることもできるからです。
でも、そんな宝物のような「ぽっかり時間」の問題点は、いつ訪れるかわからないことです。「さぁ、何をしようか」と迷っている間に、時間は過ぎてしまいます。
このような「ぽっかり時間」を生かすには、「したいことリスト」を事前に作っておくといいでしょう。「したいことリスト」は、リストが長いほど楽しくなり、ポジティブ思考のスイッチをONにします。約束が直前にキャンセルされても、「それはそれでラッキー!」と思えます。
そして何より、予定のキャンセルをせざるを得なかった方に対して怒らずに済み、むしろ感謝できるのも、人間関係上の利点です。
『LUCK is NO ACCIDENT』
自分のキャリアをうまく開発していった人は、しばしば「運が良い人」と言われます。「素晴らしいキャリアですね」と言われた人は「いやぁ、たまたま運が良かっただけです」と答えるでしょう。けれども、きっと本心ではそうは思っていません。それが証拠に、赤の他人に「あなたは単に運が良かっただけですね」と言われると、とても怒るはずです。
望ましいキャリア・ディベロップメントは、本人が意図し計画したものでしょうか。それとも「運」の要素が大きく影響しているのでしょうか。
その問いに対する1つの答えとなるのが、スタンフォード大学教授のジョン・D・クランボルツによる「プランド・ハプンスタンス・セオリー(計画的偶発性理論)」です。
「ハプンスタンス(happenstance)」という言葉は、「ハッピー」や「ハプニング」と近い言葉です。「ハップ(hap)」とは「偶然起きたできごと。その動詞が「ハプン(happen)」で「(何かが偶然)起きること」、接尾辞をつけて「ハプンスタンス」になると「偶発的な性質を持つこと(偶発性)」です。
クランボルツは、幸せなキャリアを築いた人たちを対象にした調査研究を行いました。次の2つのうち、どちらの人が多かったと思いますか?
(1)当の本人が事前に思い描いた通りになった
(2)予期せぬ偶然をうまく生かして「機会」とした結果、成功した
クランボルツの調査では、後者のケースのほうがはるかに多いことが示されました。幸運に見える人たちは一定の行動を取ったり態度で示したりすることで、運が味方してくれるようにしていたのです。逆に言えば、「運を友とする」ように日ごろから行動し、そのような態度を取っていたということです。
クランボルツの著書の原書のタイトルは『LUCK is NO ACCIDENT』。直訳すると、「ラックはアクシデントではない」となります。アクシデントは日本では「事故」というネガティブな意味で使われることが多いのですが、英語では「予期せぬ偶然」の意味で使われます。
つまり、書名の本来の意味は「幸運とは、単なる偶然によるものではない」となります。逆に言えば、「幸運を得たのにはそれ相応の理由がある」。換言すると、「幸運は自ら機会を創っていくことで獲得できる」。つまり、「幸運は自分で創りだせる」ということです。
成功確率5%のチャンスを生かす方法
ここで質問です。成功確率が5%しかないことを何回も繰り返す意味はあるでしょうか。徒労に終わるだけでしょうか。100回トライした場合に、「少なくとも1回」は成功する確率を計算してみましょう。
・成功の確率が5%なら、失敗の確率は95%
・全敗する確率は、0.95の100乗なので、0.0059
・ということは、少なくとも1回は成功する確率は、1-0.0059=99.9941
つまり、少なくとも1回は成功する確率は99%以上です。1回あたりの成功確率が低いことでも、何度も繰り返していけば、きわめて高い確率でいつか成功するのです。
ですから、幸運を自分のものにしたいのなら、特にトライすることにコストがそれほどかからないなら、試行の回数を増やすこと、つまり何度もめげずにやってみることが、まずは基本戦略です。ビジネスでは少なくとも1回成功すれば立派なものですので、出発点としてはこの単純計算でも悪くないと思います。
パナソニックの創業者で「経営の神様」と称された松下幸之助は、「『自分は運が良い』と思っている人しか採用しない」と言っていたそうです。
ゼネラル・エレクトリック(GE)の会長だったジャック・ウェルチは、次のように言っています。「自分の運命は自分でコントロールせよ。さもなければ他の誰かがあなたの運命をコントロールするだろう(原文は“Control your destiny, or somone else will.”)」
言い方は人それぞれですが、大きな仕事を成し遂げた人は、「運をコントロールする」ということを明確に意識していたのだと思います。
杉浦正和
早稲田大学ビジネススクール教授/国立音楽大学理事(経営戦略担当)。1982年、京都大学を卒業し、日産自動車に入社。海外企画部にてマーケティングなどを担当。90年、米国スタンフォード大学ビジネススクールにて経営学修士(MBA)を取得。経営コンサルティングのベイン&カンパニー、人事コンサルティングのマーサーを経て、シティバンクにてリーダーシップ開発責任者、シュローダーにてグループ人事部長などを歴任。早稲田大学ビジネススクールでは、2005年からコア科目「人材・組織」を担当し、その後2つのゼミ「人材・組織マネジメント」「戦略的人材マネジメント」ほかを担当。人材育成学会(理事)と多数の企業研修を通して、実践と学術の橋渡しを行っている。
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