昭和な「スナック」が再び人気、女性たちが集まる理由
2/2(日) 6:05配信
ママや常連客と酒を飲みながら雑談やカラオケを楽しむ「スナック」。ネオン看板が立ち並ぶ光景は昭和の風物詩だったが、令和の今、特に女子の間で再びスナックが人気だという。スナックビジネスの意外なニーズについて、“スナック女子”として約400店舗の扉を開けてきた五十嵐真由子氏に聞いた。(清談社 岡田光雄)
● 実はコンビニより多い!? 減少傾向を経て人気が復調
「え、何でこんな辺ぴな所にスナックがポツンと一軒だけあるの?」
一昔前までは住宅街や街灯もないような山のふもとなど、どこにでもスナックがあった。五十嵐氏は、「スナックだけに限定した数字は見当たらないが、政府統計の経済センサス-基礎調査(バー、キャバレー、ナイトクラブなどを含む従業員数1~4人規模の店舗)によれば、2009年時に約10万軒あった」という。これは現在のコンビニの数(5万5688店)よりも多い数字だ。
スナックといっても、おそらく読者によって定義もバラバラだろう。ママが1人でやっている場合もあれば、複数人の女性キャストが在籍していたり、男性マスターがやっていたり、カラオケの有無に限らず、スナックと名乗っている店はごまんとある。
「確かにスナックの定義は曖昧です。強いて説明するなら、『雑談や飲食などを楽しめる環境を、カウンターの中にいるママ(あるいは男性マスター)が提供し、そこに同じモチベーションを持ったお客たちが集まる空間』といったところでしょうか。よくキャバクラなどと比較されることもありますが、スナック(深夜0時で閉店)は飲食店なので風営法の許可が必要ありません」
15年以降、スナックの店舗数は減少傾向にあったが、最近は再び盛況の兆しがあるという。
「ここ4~5年ぐらいでスナックの数はかなり減少している印象です。理由は再開発の影響、ママの高齢化や担い手不足によって、店を閉めるところが増えたからだと思います。昭和20~30年頃のスナック開業ラッシュのときにオープンしたようなお店のママは、今はもう80~90歳ですからね。一方で、東京など局所的には、女性客を中心に再び盛況を取り戻しつつあるようです」
その主な理由を五十嵐氏は2つ挙げる。まずは、16年頃から「Hanako」(マガジンハウス)、「OZ magazine」(スターツ出版)などの女性誌がスナック特集を大々的に組み始めたこと。次に、会社内で社員同士のコミュニケーションが減少する時代となり、30~40代の女性が気軽に飲みに行けるサードプレイス的なコミュニティーの場を求めたことだ。
SNS疲れで開業する女子も登場 利点は仕入れを抑えられること
さらに女性の中には、自らスナックを開業する人まで出てきている。
「副業や1日ママなどで、スナックで働きたがる若い子が増えています。SNSでのコミュニケーションに疲れた女性たちの中には、“リアルの世界で、自分が好きな人だけを集めて、自分の部屋みたいなお店で働きたい”と強く思っている人がたくさんいるようです。近年のトレンドでいうと、従来のスナックの業態に加えて“眼鏡をかけた人限定の店”“中島みゆきしか歌わない店”“麻婆豆腐好きが集まる店”などのコンセプトを設けているところが多いです」
他にも、最近は「ママが説教をしてくれる」「結婚相手をマッチングしてくれる」などの一風変わったスナックもあるという。
では、実際にスナックを開業したとして、どのようなビジネスモデルになっているのか見ていこう。なお、ここでのモデルは東京郊外のテナントビルで10坪、家賃が15万円とする。
「一概にはいえませんが、たとえばママさん1人でお店をやっている場合、セット料金3000円の設定で1日に10人のお客が入ったとします。中にはボトルを入れていて、その日の会計が3000円以下というお客もいると思うので、1日の平均売り上げは2万~3万円としましょう。そうすると1カ月(20日間営業)の売り上げは、40万~60万円といったところでしょうか。そこから家賃15万円、お酒や乾き物などの仕入代、おしぼりやカラオケリース費などを合わせ10万~15万円とすると、手元に残るのは15万~30万円という計算になります」
スナック経営の利点の1つは、仕入代を安く済ませられることだ。
「スナックの場合、極端に言ってしまえば『焼酎』や『ブランデー』さえ置いていれば十分。実際にそれしか扱っていないというお店は多いですし、お客さんもそれを分かった上で来ていますからね。あらかじめいろいろなお酒を用意しておかなければならないバーとは違い、スナックは仕入れを安く済ませることができるんです。また多くの料理を作る必要もなく、スナック菓子や乾き物などのおつまみだけで成立する商売でもあります」
ママ1人で店を切り盛りしている場合は人件費がかからない。さらに店によってはカラオケ1曲100円、乾き物300円と、プラスアルファの収益も望める。そう考えると、確かに商売として成り立たせることも可能だ
良いスナックでは常連客が ママを助けて「スタッフ化」する
またスナックは、常連客が良い意味で“スタッフ化”してくれるという特徴もある。
「スナックでは、みんなが同じ趣味を持っていたり、ママさんが大好きだったりと一体感があるため、常連さんたちがお店を支えてくれます。良いお店では、新規客に対して常連さんが気を使って話しかけてくれたり、乱暴や粗相をする泥酔客を叱ってくれたりと、全員がママとお店を守ろうとするんです。そうしたコミュニティーになっているため、ママが無理に盛り上げずとも常連さんたちは談笑やカラオケなどで自走して楽しんでくれるのもスナックの強みです」
こうした良い常連客を捕まえられるかはママの手腕にかかってくるが、ママの資質とはどのようなものだろうか。
「ママの資質は大きく『聞き上手』『話し上手』『キャラが強い』の3つに分類できますが、全員に共通しているのは損得勘定で動くのではなく“情”があること。相談に乗ってくれたり、おせっかいを焼いてくれたり、叱ってくれたりする接客にお客は心が染みるんです。たとえば新宿にあるスナックでは、北海道から出てきて身寄りのなかった常連客が入院した際、ママが入院の手続き、入院中の身の回り品の買い物や毎日のお見舞いなど、まるで本当の母親のようにしてくれたそうです」
このママから感じる“体温”こそが、スナックに常連客がハマる最大の理由なのだ。
一方で、店を開業するにあたっては注意点もある、と五十嵐氏は語る。
「さきほどお話しした通り、スナックという業態の定義は曖昧です。中にはスナックと自称しておきながら、キャバクラなどとやっていることが全く変わらないお店もあります。このビジネスで最も大切なことは、自分が“風俗店側”ではなく“飲食店側”のスタンスでカウンターに立つという意識なのでしょう」
ここではママの事例を用いながらスナックビジネスの強みや成功例などを紹介してきたが、男性マスターの場合でも同じこと。昭和の古き良き人情は、令和の新時代にどうマッチするのだろうか。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200202-00227185-diamond-bus_all&p=3
岡田光雄