パナソニックが家電部門の本社を中国に移転、狙いは伏魔殿の解体【スクープ】

1/6(月) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 

 パナソニックは“賭け”に負けた。家電の次の本業候補として投資を集中させた自動車事業が失速。今度は母屋の家電事業まで低迷し、構造改革が急務な状況にある。そこで、津賀一宏・パナソニック社長は、伏魔殿化した家電部門に解体的出直しを迫る「背水の新モデル」を繰り出そうとしている。(ダイヤモンド編集部 新井美江子、浅島亮子)


● 新設されたCNA社の “裏ミッション”とは

 2019年4月に産声を上げたパナソニックの地域カンパニー、中国・北東アジア(CNA)社。次期社長の最右翼と目される本間哲朗・パナソニック専務執行役員が社長を務める、社内でもっとも勢いのあるカンパニーである。

 本間専務はCNA社設立の狙いについて、「パナソニックの中国での売上高が、中国のGDP成長率に見合った伸びを示していないという問題を解決するため」と淡々と語っている。本間専務自身は中国語が堪能で、「現地でのプレゼンテーション聞いて驚いた」(パナソニック社員)というほどの腕前だ。中国ビジネスを躍進させる立役者として登用されたのは間違いないだろう。

 だが、CNA社を中国攻略のためだけに設けられた地域統括拠点と位置付けるのは、あくまでも表向きの説明だ。

 実は、CNA社には“裏ミッション”が課されている。端的にいえば、パナソニックの保守本流であり、伏魔殿と化している家電部門(アプライアンス〈AP〉社)の“解体”だ。

 実際に、経営の中枢に身を置くある役員は「家電のライバルが中国などの海外メーカーに変わりつつある中では、強かった白物家電ですら今のビジネスモデルの延長線上では競争に勝てなくなる」と危機感を募らせる。

 そして現在、パナソニック上層部では、検討事項として家電部門の本拠地を日本から中国へ移すこと、つまり家電部門の「中国本社」移転計画まで俎上に載せられているというのだから驚きだ。

 他ならぬ津賀一宏・パナソニック社長が、「家電部門の本社を日本から中国へ移転する計画なのか」というダイヤモンド編集部の問いに対して、「もちろん、そういうことも視野に入れている。ヘッドクオーター(本社)の中国への移管は一つの考え方です」と認めている。

 家電部門の解体と本社移転。あまり穏やかな話とは言えないが、一体どういうことなのか。

 

 

 

どうも津賀社長ら上層部は、歴史的に発言力の強い家電部門の「事業部の縦割り志向」や「人事の硬直性」が、家電の低迷の元凶になっていると不信感を持っているようなのだ。確かに、2020年3月期の家電部門の営業利益率(見通し)は2.8%と低い(家電危機については、特集「パナソニック老衰危機」の♯04〈1月7日配信〉を参照)。

 かつてのパナソニックの家電部門は強かった。デジタル家電の総本山、AVCネットワークス(AVC)社は、事業こそジリ貧に陥ったが、今も各カンパニー幹部に出身者を送り込む人材の宝庫である。テレビなどデジタル家電の失速後も、安定収益を稼ぎ続けた白物家電部門の社内での発言権は強い。数年前までAP社幹部の陣容が固定化し、経営上層部や本社が介入しづらい雰囲気すらある。

 だからこそ、競合メーカー撤退後の残存者利益にあぐらをかいた。とうの昔に、ライバルは国内メーカーから中国メーカーへ変わっていたのに、開発・生産拠点の統廃合に踏み込んだ構造改革への着手に遅れてしまったのだ。

 そこで、津賀一宏・パナソニック社長は乾坤一擲の勝負に出る。部門解体と本社移転という“ショック療法”を使うことで、現場の抵抗を断ち切り、本来の家電王国の底力を取り戻そうとしているのだ。

 その具体策こそ、部門間の壁を取り払い、家電事業を中心に展開するAP社と、電材事業を中心に展開するライフソリューションズ(LS)社を融合させた「中国発の新しいビジネスモデル」を早急に作り上げることだ。

● 「縦割り志向」丸出し 役員合宿での仰天エピソード

 部門の縦割り志向の強さを象徴する話がある。18年のパナソニック創業100周年を前に、主要な戦略課題について議論しようと週末に役員合宿が決行された時のことだ。

 成長の柱として「住空間の新たなソリューション」を提案するため、AP社とエコソリューションズ(ES。現LS)社の融合が「テーマ」だったにもかかわらず、なぜか最終のプレゼンテーションはAP社とLS社が別々に行っていた。

 そもそも、「エリート然とした旧松下電器産業(現パナソニック)と、超体育会系の旧パナ電工とでは全く気質が合わない。両社の合併前は『電工の敵は電産、電産の敵は電工』といわれるほど仲が悪かった」(パナソニック取引先幹部)。パナソニックを源流とする家電事業と、パナ電工を源流とする照明・配線器具といった電材事業とでは販売ルートが異なることから、反目するばかりで、互いに協業することもこれまではなかった。

 しかし、津賀社長も本社の戦略部隊も、この「水と油の関係」にはさすがに呆れ返り、「やはりAP社の伏魔殿ぶりは治らない。日本ではなく、まずはしがらみのない中国で、AP社とLS社の融合を目ざすことを決意した」と、パナソニック幹部はCNA社設立の内幕を打ち明ける。

 流通が未成熟であり、パナソニックとしての流通ルートも確立してない中国ならば、AP社にとってもLS社にとっても、販売チャネル開拓はゼロからのスタート。しがらみがない分、協業関係が築きやすいというわけだ。

 津賀社長の頭の中には、「中国シフトの続編」もありそうだ。中国で構築した「AP社+LS社モデル」を、日本を含めたアジアやインドへ横展開するというものだ。昨年末に、津賀社長は「『可能性』で終わらせない」というタイトルの社員向けブログでインド市場について言及し、電材を突破口に攻勢をかける覚悟を綴っている。

 

 

 

 

 

 

 

草津の抵抗で中国移転が頓挫 今度こそ主要拠点の統廃合は必至

 家電部門の本社移転を念頭に置いた、本気の中国シフトは、開発・生産拠点の統廃合をもたらすことになるだろう。すでに「中国現地には白物家電だけで1500人の技術者がいる」(津賀社長)としており、開発部門だけでもかなりの中国シフトが進んでいるという。

 滋賀県・草津など主要な生産拠点の統廃合は必至だ。事実として、過去に中国への移管が検討されたのだが、草津の猛反対にあい頓挫した経緯がある。しかし外部環境を見ればやはり国内拠点閉鎖は覚悟しなければならない。

 家電を取り巻く環境は一変した。16年にはシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となり、東芝も白物家電子会社を中国の美的集団に売却。どちらもアジア企業の傘下で日系ブランドを活用しながらグローバル競争をいかに勝ち抜くかを模索している。

 繰り返しになるが、パナソニックの敵は国内メーカーではなく、中国メーカーだ。高単価製品が強かっただけに、パナソニックにはコスト競争力に対する耐性が乏しい。中国起点でビジネスを考え、中国企業をライバルに持つならば、中国の家電メーカーが使う「標準部品」を調達できるかどうかが生命線になる。

 しかも、白物家電の部品の主要サプライチェーンは中国へ移りつつあり、中国の部品メーカーは「日本向けの独自部品の生産は小ロットで効率が悪いため、受注を渋る」(パナソニック役員)という現実がある。今後、中国の部品メーカーの勢力が一層増すことになれば、日本の家電部品市場が衰退し、部品の調達が難しくなる未来は想像に難くない。高品質の標準部品を供給できる中国メーカーの開拓等はもはや必要不可欠となる。

 贔屓目に見ても、パナソニックの部品調達を含めた生産体制の構築は、中国メーカーに比べて周回遅れだろう。それでも、「足下で儲かっていることと、今のビジネスの延長線上でずっと競争に勝てるかってことは話が全く別。競争環境が変わったなら土俵を変えるのは当然」(パナソニック役員)と意志は固い。

● 20年前と比べて 時価総額半減のピンチ

 これほどまでに、津賀社長がトップダウンで改革の大ナタを振るわねばならないほどに、パナソニックが置かれている状況は厳しい。

 19年3月期に4000億円超あった営業利益が、20年3月期(見通し)には3000億円に激減。営業利益率も3.9%に落ち込む。

  「まさか、こんなはずではなかった」というのがパナソニック上層部の偽らざる気持ちかもしれない。成長へのアクセルを踏もうと1兆円の戦略投資枠を設け、20年3月期までの4年間で約4000億円を、米テスラ向けリチウムイオン電池などの自動車事業に集中的に投じてきた。だが、この博打に負けたことで、成長ドライバーを失った。

 それだけではない。津賀社長が「知らないうちに、モグラ(不採算事業のこと)が出てきた」と表現するように、カンパニーや事業部に任せきりだった“放任損益管理”の付けが回ってきている。

 19年11月22日に発表した新中期戦略(3カ年)の詳細で、パナソニックは成長戦略の説明が不足しているとアナリストから批判された。

 厳しい評価は、短期的な業績低迷だけに依るものだけではあるまい。事業領域を担当する五つのカンパニー全てにおいて、将来の成長戦略を描き切れないという異常事態、人事の硬直性、事業部の縦割りーー。名門電機パナソニックを襲う「老化現象」は深刻だと言わざるを得ない。

 株式市場は正直だ。松下幸之助という経営の神様を創業者に持ち、創業100年を超えるパナソニックだが、19年12月24日時点の時価総額ランキングでは国内54位にまで順位を落としている。同6位だった2000年12月22日時点と比較すると、時価総額は半減しており、凋落ぶりは明らかだ。

 パナソニックは、起死回生の「中国発新モデル」を成就させて、再び市場の期待を取り戻せるのか。社長就任8年目の津賀社長の、最後にして最大の戦いが始まった。

 特集「パナソニック老衰危機」#2では、津賀社長への突撃インタビューをお届けする。新中期戦略にこめた思いや、成長戦略の軌道修正策について聞いた。



https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200106-00224708-diamond-bus_all&p=3





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