「1億画素のスマホカメラ」に意味はあるか Xiaomi「Mi Note 10」の実力をチェック
12/26(木) 10:30配信
2019年のスマホの進化というと、まず挙がるのは「折りたたみスマホ」だろう。中国Royoleの「FlexPai」、韓国Samsung Electronicsの「Galaxy Fold」、中国Huaweiの「Huawei Mate X」などが発売された一年だった。
【1億画素モードと2700万画素モードの等倍比較】
スマートフォンの主な部品やOSが成熟し、差別化が難しくなる中で、折りたたみスマホのような新しいフォームファクタを試行錯誤するのは当然の流れといえるが、そんな中でも革新があったパーツがカメラだ。
韓国Samsung Electronicsが8月に発表したイメージセンサー「Samsung ISOCELL Bright HMX」(以下、Bright HMX)は、スマートフォン向けにもかかわらず1億800万画素という膨大な画素を搭載した。センサーサイズは1/1.33インチで、高級コンデジに搭載されるような1インチセンサーに迫る大きさであることを考えると、スマホ向けとしては巨大なセンサーだと分かる(かつてのNokia製Windows Phone「Lumia 1020」でも1/1.7インチ4100万画素だった)。
筆者が意外と思ったのは、ここに来て一部のスマホメーカーで高画素競争が再燃しつつあることだ。というのも、Apple「iPhone 11 Pro」やGoogle「Pixel 4」といった代表的な最新機種のカメラは1200万~1600万画素程度に抑えられており、そもそもセンサーサイズも大きくない。Samsung「Galaxy S10」のカメラも同様のレンジだ。
むしろ現在のアプローチは、複数のカメラモジュールを搭載して複数の画角を撮影することや、カメラの視差による被写界深度測定を生かしたボケ表現を作ることが主流だといえる。
しかし複眼カメラであっても高画素化を追う流れはあるようで、19年にはBright HMXの他にも、「Huawei P30/P30 Pro」に搭載された1/1.7インチ4000万画素センサーや、「Oppo Reno 10x Zoom」に搭載された1/2インチ4800万画素センサーなどが現れた。前者はHuaweiとソニーの共同開発で、後者は純粋なソニー製イメージセンサー「IMX586」だ。
Huawei P30もOppo Reno 10x Zoomも、メインの広角カメラに大型・高画素なセンサーを搭載して画質を上げようという考えのようだ。
そんな中、Bright HMXをSamsungと共同開発した中国Xiaomiは、Bright HMXをメインカメラセンサーに採用し、5眼の背面カメラを搭載した「Mi Note 10」を投入した。流れとしてはHuawei P30やOppo Reno 10x Zoomなどの系譜に連なるといえるだろう。
1億画素というと、本格的な一眼カメラでも富士フイルムの「GFX100」など、ごく一部の中判以上のセンサーにしか搭載されていない。
スマートフォン向けの小さなセンサーに、1億もの画素数を搭載する意味はあるのか。Mi Note 10の実機で撮影し、その実力を確かめた。なお、今回は通販サイトのGearbestから機材の提供を受けている。海外版で技適を取得していない個体のため、「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」に従い総務省に届け出を行った
Bright HMXとMi Note 10のスペック
まずはハードウェアスペックをさらっていこう。
Bright HMXは前述の通り、1/1.33インチに1億800万画素を搭載するイメージセンサーだ。画素ピッチは0.8マイクロメートルで、4画素を束ねて1つの画素として扱う「Tetracell」技術を採用し、低照度下でも光を取り入れながら2700万画素の画像を生成できる。「Smart ISO」という、環境光に合わせて最適なISO感度を選ぶ機構も搭載しているらしいが、通常のISOオートと何が違うのかはよく分からない。
一つ指摘しておきたいのは、「画素ピッチ0.8マイクロメートル」と「Tetracell」技術は、Oppo Reno 10x Zoomなどに搭載されているソニーのイメージセンサー「IMX586」とほぼ同じということだ。
IMX586も画素ピッチは0.8マイクロメートルで、4画素を1つに束ねられる「Quad Bayer」というカラーフィルター配列を採用している。IMX586の技術発表は18年7月に行われているので、少なくともこれら2つの技術についてはソニーが1年ほど先行していることになる。
Bright HMXを採用するメインカメラのレンズはF1.69(EXIF上はF1.65と表示されるが)で、焦点距離は35mm判換算で約25mm。像面位相差AFと光学式手ブレ補正に対応する。
この他、光学5倍画角で500万画素(※)の望遠カメラ(F2、光学式手ブレ補正あり)と、光学2倍画角で1200万画素のポートレートカメラ(F2)、35mm判換算約14mmで2000万画素の超広角カメラ(F2.2)、200万画素のマクロ専用カメラ(F2.4)と、メインと合わせて5つの背面カメラを備える。
※公式サイトでは光学5倍カメラは500万画素と説明しているが、実際の撮影データは3264×2448=799万0272ピクセルで食い違いがある
Mi Note 10本体のスペックはミドルレンジの構成だ。SoCは米Qualcommの「Snapdragon 730G」(2.21GHz×6コア+1.8GHz×2コア)で、メモリは6GB。内部ストレージは128GBでmicroSDには対応していない。
カメラユニットはセンサーの大型化の影響か、それなりに飛び出ていて、付属の純正ソフトカバーを装着しても出っ張りを吸収しきれない
実写テスト
では実際の写真を見てみよう。以下、1億画素モードと通常の2700万画素(Tetracellをデフォルトでオンにして画素数を減らしていると思われる)モードの作例をいくつか順番に並べていく。
まず写真全体を見ると、1億画素モードの方が彩度が強調される傾向にあることが分かる。1億画素モードでも2700万画素モードでも使用しているセンサーは変わらないので、撮影後の処理で何か差別化をしているのかもしれない。
気になる「解像の度合い」はどうか。微妙な違いではあるが、1億画素モードの方が細かく写っているように見える部分はある。例えば木々の間から差し込む光は1億画素モードの方が細かく写しているし、近くの紅葉の葉脈も1億画素モードの方がはっきりしている(厳密に同じカットではないため、他の影響も排除しきれないが)。
ただ、れんがの壁の作例は2700万画素モードの方が明らかにはっきりと写っている。どちらの写真も中央をタップしてフォーカスを合わせてから撮影しているが、もしかしたら1億画素モードの際にうまくフォーカスが合わなかったのかもしれない。
紅葉の撮影時にフォーカスが後ろに抜けてしまい、手前になかなか戻ってこないこともあった。AFは像面位相差の他にレーザーAFとコントラストAFの方式を採用しているというが、被写体へのフォーカス合わせには少々課題があるように感じた。
シーンを変えて、夜間の撮影を見てみる。まだ撮影回数がそれほど多くないので断定はできないのだが、夜間撮影は意外というか、奇妙なことが起きた。
撮影前にはこういう想定をしていた。Bright HMXの画素ピッチは0.8マイクロメートルでとても細かく、1画素当たりは多くの光を取り入れられないので、夜間に1億画素モードを使ってもあまり良い結果が出ないはず。4画素を束ねた2700万画素モードを使うのが定石だろう、と。
そう予想した上で、撮ってみた結果が以下だ。
拡大してみるとすぐ分かるが、2700万画素の方が明らかにノイジーだ。ノイズのせいで、ファイルサイズも1億画素モードが13MB、2700万画素モードが20MBと逆転してしまっている。
2700万画素モードの写真は、AIが夜景と判断して夜景モードを発動させているはずなのだが、ユーザーが夜景モード撮影で求める結果は、1億画素モードの写真の方ではないだろうか。
ただ、では1億画素の夜景写真の方が情報量が多いかといわれるとこれも微妙で、2700万画素のノイジーな写真を平滑化などでうまく処理をすれば1億画素の写真に近づきそうな感じもする。
少なくとも、Mi Note 10の現在の処理系では夜景写真が得意という評価は下せない。
ちなみに、比較用に持ってきたPixel 4 XLでも同じカットを撮影した。
天の川を撮影できるような「コンピューテーショナルフォトグラフィー」(計算的写真術)のコンセプトで絵作りをしているだけあり、手前のビルを明るく写しつつ、奥の明るい道も白飛びを抑えた写真を撮影できた。Pixel 4 XLのメインカメラのセンサーサイズは1/2.5インチで、面積比でBright HMXの約4分の1にもかかわらずこれほどきれいな絵を出せるのは、さすがGoogleのAI処理といったところか。
その他、Mi Note 10を使ってみて分かったことをいくつか列挙する。まず、1億画素モードでの撮影時は保存に時間がかかり、完了するまで次の撮影ができない。保存には4~5秒程度かかるので、さっと出して何枚か撮るようなシーンには向いていない。
これは1億画素モードに限らないが、写真の全体を明るく写そうとする傾向がある。その結果コントラストがあまりはっきりしない写真が出来てしまうことがあるので、シーンによっては露出を少しアンダーに振ると雰囲気のある写真にまとまる。
写真のファイルサイズは、被写体にもよるが基本的には20M~30MB程度になる。2700万画素モードの1.5~1.8倍程度の大きさだ
まとめ:スマホに1億画素を載せる意味と、見えた課題
本記事の問いは「スマホに1億画素を載せる意味はあるのか」だった。1億画素モードで実際に細かい部分が撮れている作例を確認できたので、この問いに対する答えはYESだ。
しかし、実用性に関しては課題が浮かび上がる。保存に時間がかかることや、フォーカスがやや不安定なことは撮影上のデメリットであり、撮影後も写真のファイルサイズが1枚30MBと考えると100枚で3GB、1000枚で30GBとストレージを圧迫してくる。Mi Note 10はmicroSDでストレージを拡張できないので、撮影枚数によっては「Amazon Photos」など無圧縮で保存できるクラウドストレージに逃がす必要が出てくるかもしれない。
個人的な考えを述べると、1億画素という数字は衝撃的ではあるものの、1辺0.8マイクロメートルの画素はそれこそ1億画素の中判センサーの1画素に比べれば相当にS/N比が悪いはずで、等倍で鑑賞するものではないと思う。しかしそれなりに情報量のありそうな写りはしているので、例えば縦横それぞれ3分の1にリサンプリングして1200万画素の絵を作った方が、ファイルサイズ的にも扱いやすく、画質の良い写真が作れるのではないだろうか。
スマホ写真の高画質化という観点では、イメージセンサーの大型化は間違いなく良い影響をもたらすので歓迎したい。ただ、1億画素の写真をそのまま扱おうとすると上述したような課題も出てくるため、今後何らかの工夫は欲しいところだ。
Bright HMXはSamsungとXiaomiの共同開発品なので、おそらくSamsungもこれを搭載したスマートフォンを投入してくるだろう。それがGalaxyの次期フラグシップとなれば、ミドルレンジのMi Note 10とも計算リソース的に状況が異なるため、また違う絵作りになる可能性もある。
2020年のスマホのカメラは高画素競争が加速するのか、あるいはGoogleが示した計算的写真術のアプローチが増えるのか、もしくはこれらが統合されるのか──。スマホカメラの進化もまだまだ目が離せない。
ITmedia NEWS
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