ジャッキー・チェンがビジネス界の「疫病神」といわれてしまう理由

12/19(木) 8:00配信

ITmedia ビジネスオンライン

 

 またジャッキー・チェン(65)の周りがざわついている。

 以前、この連載でも、ジャッキーの「人間らしさ」が世界で批判の的になっており、中国政府寄りの発言をしていることに違和感を持たれているという記事を掲載したことがある(関連記事:僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由)。少し「お騒がせ」気味なスターというイメージもそこそこ定着しているようだ。

【ジャッキーをPRに起用した香港航空のポスター】

 そんなジャッキーが再び、映画やエンターテインメントとは関係ないニュースで取り上げられている。ご存じの通り、ジャッキーは香港出身で、ハリウッドで大成功を収めたアクションスターだ。その言動は常に注目されており、アジア圏を中心にすぐにニュースとして取り上げられる。

 筆者はジャッキーの映画を見て育ち、自分の中では唯一無二のヒーローだったと言っていい。録画した映画を何度も何度も繰り返し見て、映画によってはせりふも覚えてしまうほどだった。

 正義感があり、強くてカッコよく、コミカルで面白い――。そんなジャッキーのイメージは、彼が齢を重ねるにつれ薄れていき、子どもたちが熱中したジャッキーの姿はもう過去のものになったと言える。さらに、“人間らしい”、または、政治的な発言が聞こえるようになると、たびたび物議を醸すようにもなった。

 とはいえ、筆者はジャッキーから目が離せない。近年は、残念ながらアジア圏でジャッキーの言動に対する反応はネガティブなものばかりに感じる。そして最近、ジャッキーの言動を巡って批判が噴出している。それは相変わらずなのだが、ジャッキーが絡んだビジネスにおいて「疫病神」であるかのようにたたかれたりもしているのだ。一体ジャッキーはどこに向かってしまうのだろうか。

「中国は世界中で尊敬されている」香港デモへの発言で炎上

 ここのところ、どんな批判が出ているのか。ジャッキーの故郷である香港では、2019年3月から反政府の大規模デモが続いている。少し整理すると、きっかけは香港政府が「逃亡犯条例」の改正案を立法会(議会)に提出したことだった。

 香港で捕まった人が中国本土に送られるというのは、香港が1997年に返還されてから認められていた「高度な自治」に反するとして抗議が起きたのである。結局、香港政府はこの改正案を撤回したが、それでも火のついた反政府デモ隊は、さらなる要求をしながらデモを続けている。

 香港で起きている大規模デモには、いろいろな著名人がコメントをして物議を醸している。そこにジャッキーも「参戦」してしまっている。中国の国営系テレビ局CGTNのインタビューに応じたジャッキーは、案の定、デモ隊の火に油を注ぐようなコメントをした。

 「最近、香港での出来事は人々を悲しませ、落胆させている……僕はいろんな国を訪問するけど、私たちの国は近年、急速に発展しており、どこに行っても中国人であることを誇りに感じている。5つ星の赤い旗(五星紅旗)は世界中で尊敬されている」

 さらに「香港は僕の生まれた場所で故郷、中国は私の国だ。僕は僕の国と故郷を愛している……心から香港に平和がすぐに訪れてほしい」とも述べている。

 この発言に対し、香港からはTwitterなどで辛辣(しんらつ)なコメントが噴出した。「香港はあなたのことが大っ嫌いだ」「私たちが香港出身だというとジャッキー・チェンについて聞かれるが、それはもうやめてくれ」

 中国の世界的な台頭に疑いはない。力をつけて大国の地位を固めつつある。しかし一方で、国内の人権問題が欧米諸国から非難されている。また米国を中心とする欧米諸国は中国について、自分たちの価値観をつぶしかねないと脅威に感じている側面もある。

 そう考えると、中国が世界中で尊敬されているというのはちょっと言い過ぎな気もするが、中国国営系のテレビならば、そう答えるしかないのかもしれない。いずれにせよ、インターネットで言動をチェックできる時代になっているので、著名人らもこうしたコメントをする際には非常に苦しい選択を強いられる。特に映画業界に身を置いていれば、中国市場を無視できないのは当然だろう。

 ちなみに、ジャッキーはこのインタビューの少し前、台湾を訪問した際に「香港のデモをどう思うか」と聞かれて「何も知らない」と言葉を濁したと批判的に報じられている。また、台湾の有名歌手、周杰倫(ジェイ・チョウ)はジャッキーと一緒の写真をSNSでアップして、ネット上でたたかれるはめになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャッキー起用で業績悪化?「ブランド殺し」の都市伝説

 ジャッキーはさらに、別のニュースに絡んでもネガティブな扱いを受けている。

 最近、香港航空が大変な経営悪化に陥っているというニュースが報じられている。2018年末から経営状態が悪化し、現在は存続の危機にある。そして11月28日には、全従業員3500人分の11月の給料が払えないとして、給料支払いを少し先延ばしにすることが判明した。収益が激減しているのだ。

 苦境の理由は「不安な社会情勢と観光客の減少が続いたことに深刻な影響を受けた」と、同社は主張しているらしい。また米中の貿易交渉もまた、香港の経済に影響を与えているという。そんなことから、いくつも航路を中止にしている。

 そしてこのニュースを受けて、香港の一部で「香港航空の経営悪化の責任がジャッキーにある」という話が噴出しているのである。

 どういうことかというと、ジャッキーは17年から香港航空の「ブランド大使」をやっており、プロモーションなどに起用されている。同社が初の北米向けサービスとなるカナダ・バンクーバー便を開始した際には、最初のフライトに搭乗してカナダでプロモーションを行った。

 PRのための「大使」としてジャッキーがプロモーションに関与したブランドについては「ことごとくビジネスが悪化する」という都市伝説が囁かれており、ネットを中心に話題になっている。

 香港航空の公式Facebookページには「最悪の広報担当者(ジャッキー)を雇った」というコメントや、「ジャッキーは『ブランド殺し』として知られている」といったコメントなどが書き込まれた。

 その上で、ジャッキーに「殺された」とされるブランド名が書き込まれる事態に。フィットネスジムやシャンプーブランド、冷凍食品メーカー、家電メーカーなどがジャッキー起用後に業績を悪化させている。それは事実であるが、何もジャッキーのせいでビジネスがダメになったのではなく、結局は自分たちの問題で自滅しているだけだとメディアは報じている。

 

 

 

 

それでも“中国寄り”の発言をやめない

 だが、反ジャッキー派は、要するにジャッキーが「疫病神」だと言いたいだけなのである。批判したいだけにすぎない言いがかりに近いが、こんなたたかれ方をするというのは、それほどアンチがいるということの証左だろう。

 当然、ジャッキー自身も自分の発言が物議を醸し、批判的な反応が出ていることも承知しているはずだ。それでも発言を止めることはない。公の場に出れば質問されてしまうからそれはしょうがないのかもしれないが、どうしても中国寄りの発言を抑えられないらしい。

 もちろん香港を一方的にたたくようなことはしていないが、反中国の雰囲気が高まっている中で中国を褒めたたえるのはいかがなものか、という意見が出るのも理解できる。

 そんなことはジャッキーには釈迦に説法だろうが、それでも中国寄りの発言をする背景には、中国が映画産業において世界でもトップクラスの市場規模だという事情もあるのかもしれない。はたまた、何か私たちには計り知れない「理由」があるのかもしれない。弱みでも握られているのではないか、と。

 とにかく、これからジャッキーがどんな言動をするのかについて、引き続き目が離せない。

(山田敏弘)

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