都立「日比谷高校」を合格辞退した生徒は、どこに行ったのか?

12/10(火) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 

 そろそろ早めの合格を得るため、併願優遇のある私立校に足を運び始める中学3年生も多い東京の高校受験だが、冬休み前のこの時期は、学校の先生と進路について相談する最終段階でもある。親の時代とはだいぶ様相が異なる都立高の「下克上」について見ていこう。併せて、毎年のように動く私立併願校の新潮流も押さえておきたい。(ダイヤモンド・セレクト編集部)

【旧第1学区の「偏差値一覧」はこちら】

● よみがえる都立高の象徴的存在「日比谷

 学校間の序列というものはあまり大きくは変わらないものだが、こと東京にある高校に関しては、この半世紀を見ても、大きな変動に見舞われている。かつては都立高の併願校(滑り止め)だった学校が中高一貫校化して難関大学の合格実績上位に名を連ねるなど、「下剋上」は現実のものになっている。

 都立高入試の制度変更が学校間の序列変動に拍車をかけてきた面もある。1952~66年に行われていた「学区合同選抜制度」の時代は都立高全盛期だった。それが67~82年の学校群制度の導入で傾き、82~93年のグループ合同選抜制度の時期に暗黒時代を迎えた。後者は団塊ジュニアの高校受験期であり、都立の自滅で私立が大きく伸びた時期でもある。

 94年から単独選抜制度が導入され、学区外の受験も可能となったが、それでも長らく、都立高の地位は低下したままだった。2001年から始まった都立高校改革で進学指導が明確にうたわれるようになり、ようやく都立高は人気も実力も復活してきた。

 都立高受験を見つめて30数年。自らも学校群での受験を経験している進学研究会教育研究所の並木隆司所長は、「リーマンショック(2008年秋)のあと、都立高人気は高まり、高校授業料無償化のあとは私立校人気が高まっています。とはいえ、いずれも30数人いるクラスの中で1人の生徒が都立もしくは私立の高校に多めに進んだ程度のことです。それが全体で見ると大きな動きになる」と説明する。

 いまはどの都立も受けられるが、親の世代は原則として自分の住んでいる学区内しか受験できなかったことを考え、旧学区ごとに都立の現状を眺めてみたい。

 まず取り上げるのは、千代田区、港区、品川区、大田区が対象の旧第1学区である。この学区を代表する存在は、学校の向かいに議員会館が並ぶ千代田区永田町にあり、前身が1878年設立の旧制東京府第1中「日比谷」であることに異論はないだろう。

 かつては東京大に3ケタの合格者を出し、全国の頂点に君臨するような公立進学校だったが、16年間にわたり猛威を振るった学校群制度の下で、校風のだいぶ異なる三田(旧制6高女)、九段(旧制第1東京市立中)と同じ11群になり、偏差値は急降下する。その後もグループ合同選抜制度の下、1993年までは原則として学区内での受験しかできず、この頃には東大合格者1~2人という暗黒の時代も経験した。

 都立高校改革で西や戸山、国立など都立トップ校と共に進学指導「重点校」に指定されたことで復活の糸口をつかんだ。二番手校、三番手校も「特別推進校」や「推進校」に指定され、大学進学実績の向上に注力していった。その一方で、中等教育学校への衣替えや附属中学の付設などにより、都立の中高一貫校は10校にまで増えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

● 旧第1学区を代表する「日比谷」の現在

 日比谷に関しては、国は3期連続でスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定し年750万円を交付、「理数探究」を先行実施するなどカリキュラムでも先端を走っているし、都はグローバル10に指定することでケンブリッジ英検を1・2年生全員が無料で受験できるといった支援もしている。

 臨海教室で行われてきた白ふんどしを身に着けての遠泳は一時期参加者が激減したが、80人ほどまでに回復している。9月の星陵祭(文化祭)で全クラスによる演劇発表を区切りとして受験勉強に突入するといった伝統も健在だ。

 東大合格者数は全国公立校のトップに復活してた。

 数学・英語・古典といった教科は予習を前提に授業が行われているし、土曜に1・2年生対象に行われている土曜講習には生徒の9割以上が参加している。夏期講習もあるし、進路指導では、個別に添削指導も行っているというから、実にきめ細やかである。その結果が、生徒の75%が難関国立大を志望するという意欲に結び付いているのだろう。

 ところで、2019年度入試ではその日比谷が第2次募集するという珍事があった。募集人員は5人で、最終応募人員は170人。実際に受けたのは163人で、合格者は8人だった。誰が合格を辞退したのか、と塾業界などは盛り上がった。今回は、東京学芸大学附属が追加合格を出した結果という結論に落ち着いたのだが。

 他にも例年、塾が合格実績確保のため、難関私立一貫校へのリベンジ受験(中学入試はかなわなかった)に合格した生徒に受けさせたりすることもある。学校としても、こうした私立御三家や国立附属校に流れる生徒を鑑みて、例年10数人分は大目に合格を出しているが、今回は少し当てが外れたようである。

 現在の日比谷高の校長は、ライバルである「西」の副校長も務めた経験がある。「西高のことは私に聞いてください」と冗談めかして語っていたが、およそ対象的な校風の両校の、良い部分を取り入れて「国際性」にも強みを発揮しだすと、日比谷は最強の都立高としての地歩をさらに固めそうな気もしてくる。

 次ページは、都立高志望者はまず受けている模試「進研Vもぎ」のデータより、旧第1学区の進学校について、10年前と比較した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 二番手校「小山台」「三田」の踏ん張りと三番手校の上がり目

 今回は合格可能性60%のラインを示す総合得点により、650点以上の学校を掲載した。おおむね男子得点と偏差値の順で並べている。入試前年の9月時点での模試データに基づく。このデータのタイトルに「都立高校総合得点合格めやす表」とあるように、あくまでも受験生が自分の志望校を選ぶ際の参考になるようなものとご理解いただきたい。総じていえることは、男子よりも女子の総合得点が10点、20点と高いことだろう。

 10年前と現在では入試の仕組みが少し変わっている。例えば、換算内申は満点が51点から65点になっているし、マークシート方式が2016年から全校で導入されたことにより、全体的に学力検査が得点しやすくなっている。また、現在は7:3に揃えられた学力検査と調査書の内申点の割合が、10年前には6:4の学校も中堅・上位校では見られた。

 そのため、総合得点も難関校で10~20点、上位校で30点程度は10年間で上積みされている。

 唯一、10年間比較が可能なものは偏差値となる。旧第1学区で、ここに掲載されている5校はいずれも難化していることが分かる。

 では各校の状況を見ていこう。まず、日比谷男子の総合得点900点は都立高の最高点で、偏差値70もダントツである。

 進学指導特別推進校に指定されている小山台(旧制8中)には文武両道を楽しく実践している雰囲気が満ちている。東急目黒線「武蔵小山」駅を出てすぐという、駅に一番近い都立高でもある。こちらは男女共に偏差値は62だが、女子の方が多めの内申点を必要とする状況だ。穏やかな難度の上昇によって一番校である日比谷との差を埋めるのは容易ではない。

 学校群制度のときに日比谷と同じ11群だった三田は、当時の偏差値とされる63よりも少し下げていたが、この10年間で大きく戻し、小山台と共に二番手校の位置を維持している。都の進学指導推進校でもあり、国立難関校への合格実績の積み増しが課題となっている。

 港区の都立進学校はこれまで三田くらいだったが、旧東京都職員白金住宅地跡地に新国際高校(仮称)の新設が決まっている。30年前に開校した国際(目黒区)、立川国際中等教育学校(立川市)の人気ぶりを見ると、同レベルの進学校になることが予想される。

 九段は中高一貫校に衣替えしたあと、2006年から千代田区の所管となった。千代田区内には私立の有名中学校がたくさんあるが、区立中は麹町と神田一橋の2校しかない。第3の区立中として、区民の倍率優遇もあるユニークな道を進んでいる。

 13群の3校は、品川区にある大崎が総合得点550[換算内申38-偏差値42]に沈み込み、作家・沢木耕太郎氏の母校である大田区の南は閉校になる(跡地には都立大田桜台高がある)など、ぱっとしない中、大田区の人気校である雪谷はなんとか踏みとどまっている。

 小山台と同じ14群だった田園調布も偏差値は上昇傾向であるが、塾の先生などは偏差値55を進学校の目安にしているため、一段の踏ん張りが必要な状況ではある。

 

 

 

 

 

 

 

● ランク別の旧第1学区併願校

 ここからは私立を中心とした併願校について、2019年度入試の実績データを基に見ていこう。併願優遇の基準が毎年各校で変化することもあって、どこを選ぶかは都立高志望の受験者にとっては悩ましい問題である。

 都立最難関校の場合、併願校として早稲田と慶應義塾の付属校が多く出てくる。

 日比谷もその例外ではなく、通えるかどうかは別にして早稲田大学本庄高等学院(埼玉・本庄市)の他、早稲田実業(東京・国分寺市)、男子校では早稲田大学高等学院(練馬区)、女子は慶應義塾女子(港区)と国立のお茶の水女子大学附属(文京区)が上位に挙げられている。他にも、男子には私立の開成(荒川区)と国立の筑波大学附属駒場(筑駒/目黒区)という男子校がある。

 問題は女子で、併願トップの豊島岡女子学園(豊島区)が2020年と2021年は85人ずつ高校からの募集を継続するものの、それ以降は中学入試だけに募集を絞る。倍率がえらく高い慶應義塾女子やお茶の水女子にも日比谷の受験生は半分くらい合格しているようなのだが、それ以外は共学校の市川(千葉・市川市)くらいしか上位にはない。

 共学校志望となると、同じ国立の筑波大学附属(筑附/文京区)か私立の渋谷教育学園幕張(渋幕/千葉市美浜区)もあるが、いずれも超難関校で併願校という感じではなさそうだ。

 小山台と三田の併願校は似ている。朋優学院(品川区)は高等女学校が前身で、2001年から共学化している。近所にある青稜(品川区)とよく似たタイプで、合格を得るにはうってつけの学校として、城南地区の生徒の定番併願校となっている。

 JR中央線「水道橋」駅すぐの東洋(千代田区)の前身は商業系の男子校だったが、いまでは在校生の6割を女子が占めている。13階に屋上運動場があり、都内の高校として最高層のビル校舎となっている点がユニークだ。

 雪谷と田園調布の大田区コンビには、工業系から普通科になり、共学化した同じ区内の大森学園や隣の目黒区の目黒学院の人気が高い。両校とも元が男子校だけあって、在校生には男子が女子の2倍以上いる。

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191210-00222980-diamond-soci&p=4

 

ダイヤモンド・セレクト編集部/森上教育研究所