「金沢まいもん」なぜ旨い? “日本一すし意識の高い”金沢の回転寿司が大躍進した理由〈AERA〉

7/25(木) 11:30配信
AERA dot.
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 平日の20時過ぎ、スーツ姿の女性客が一人、混みあったカウンターに入ってきた。視線の先にはメニューを書いた短冊が並ぶ。

「のどぐろ、ください」

 迷わず注文したのは、この店の看板メニューのひとつである北陸産の高級魚だ。続けざまに、おなじく北陸産の赤西貝やがすえびをオーダーする。

 その隣では、男女二人連れが談笑しながら色とりどりの皿を高く積み上げていた。

 奥の女性客二人連れは、お造りや白えびのから揚げをつまみに晩酌を楽しんだあと、「加賀百万石握り」をオーダー。盛られるのは、のどぐろやばい貝、甘えびなど、北陸産の握りだ。白えびの軍艦の上に金箔を認めると、小さな歓声をあげた。

 東京・上野にある回転寿司、金沢まいもん寿司。見知った回転寿司店とは違う雰囲気に驚きつつ、おすすめを尋ねると、ホールスタッフが丁寧に教えてくれた。先達にならい、まずは北陸産のあおりいかをオーダー。レーンの向こうで、白い割烹着の職人が握ってくれる。ネタは引き締まってうまみが強く、シャリはほろりと口の中で崩れるようで、思わず頬が緩む。

 ──このレベルのすしを東京の回転寿司で食べられるのか!

 エヌピーディー・ジャパン(CREST)によると、回転寿司の市場規模は2014年に5760億円、15年に6316億円と前年比9.7%もの伸びを見せ、以後も16年には6415億円、17年に6553億円、18年には6756億円と、微増を続けている。同社のフードサービスシニアアナリストの東さやかさんによると、「19年は、約2.5~3.8%程度の伸びと見込んでいる」。すしの市場規模1兆5113億円(17年日本フードサービス協会調べ)のうち、およそ43%を回転寿司が占める。スシロー、くら寿司など、大手チェーンは店舗数を増やし、回転寿司店に海外観光客が行列をつくる光景はもはや珍しくなくなった




ただし、うまいものを食べたいときに自分が回転寿司に行くかというと、話は別だ。個人的に回転寿司に行くのは、無性にすしを食べたくなった昼飯どきなど、常に妥協の香りが付きまとう。巷で噂を聞くにも、ポテトフライやうどんなどサイドメニューが人気だったり、手軽で廉価なファミリー層の選択肢だと思っていた。

 だが、回転寿司評論家の米川伸生さん(52)によると、こうした感覚こそ「もはや古い」のだという。回転寿司のレベルが極端に上がっているからだ。

 背景には、冒頭のまいもん寿司のような地方発の回転寿司チェーンの躍進がある。漁港近くの回転寿司チェーンの魅力を、米川さんはこう語る。

「漁港は魚がうまい。そんな土地はもちろん、回転寿司もうまい。北陸や北海道に旅行に行ったら、ご当地回転寿司に行くというのは、昨今の観光でも自然な流れです」

 地元の回転寿司には、大きな強みがある。

「のどぐろもがすえびも、本当にいい地魚は、豊洲のセリには並びません。時間とコストをかけて全国に流通させなくても、地元にニーズがあるからです。漁獲量に限りがあったり、足がはやかったりするのならなおさら。地元の回転寿司店は、地元の漁師たちと信頼関係を築き、地魚の独自の仕入れルートを持っています」(米川さん)

 セリを介さず直接仕入れて出荷すれば、コストと時間の節減になる。安定した価格と量の取引は漁師にとってもありがたい。

 いま人気を博しているのは、産直ルートを開拓し、自慢のネタを出している地方発の回転寿司なのだという。

「以前なら旅先でしか食べられなかったネタを、鮮度を保ったまま東京で食べられる。地方発の回転寿司は、郷土料理店や街の大衆寿司屋に取って代わろうとしています」(同)

 冒頭の金沢まいもん寿司は、金沢市に本店を構える。北陸のすし文化は独特だ。鮮度が高いネタが安価で食べられるから、サラリーマンはランチにラーメンを食べる感覚で回転寿司に入ることも多い。総務省統計局の調査によると、年間あたりすしにかける金額は、全国平均1世帯あたり1万4874円に対し、金沢市は2万2545円で全国トップ。いわば日本一すし意識の高い都市だ。(ライター・瀬波充)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190724-00000015-sasahi-life&p=2
※AERA 2019年7月29日号より抜粋





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金沢まいもん寿司
三軒茶屋