「We are so sorry for the inconvenience」日本のホテルで見つけた妙な英語

8/2(金) 18:40配信

ニューズウィーク日本版

「We are so sorry for the inconvenience」日本のホテルで見つけた妙な英語

DragonImages-iStock.

<訪日外国人との接点が多いホテルで、残念ながら英語の間違いが多く見られる。どこが不自然なのか、どう変更すれば誤解がないのか、ネイティブチェックします>

日本を訪問する外国人や、日本に住む外国人が増えている中、その対応として看板からメニューまで、さまざまなものに英語が取り入れられています。それは外国人である私にとってとても有難いことですが、残念ながら時々とても変な英語で書かれているものがあります。

グーグル翻訳などの機械翻訳に日本語を入力して出てきた英語をそのまま利用しているように見える一節もあり、その中で、日本人が犯しがちな英語の間違いを見つけることもあります。

私が日本で行動しなから気づいた「妙な英語」を写真に撮って、ツイッターで紹介するとフォロワーの皆様からよい反応を頂いたため、この連載では詳しい解説を加え、より多くの方々に英語に関する新たな気づきを提供していきたいと思っています。

日常にある身近なものを取り上げるので、英語への理解向上にきっと役立つはず。皆様にとって参考になれば嬉しく思います。

<please refrain from(遠慮してください)は古臭い言い方>

ホテルは訪日外国人との接触の原点だと言えます。そのため、ホテルが宿泊客に情報を伝える際、アナウンスなどはすべて日本語と英語を始めとする外国語で行われる必要があります。

なかには、外国人が知らないかもしれない日本の習慣の説明が求められる時もあるでしょう。そして残念ながら、そういう場合に英語の間違いが見られることが少なくありません。

●部屋着での朝食会場はご利用できません。あらかじめご了承くださいませ。Please refrain from having the morning service with gown. Thank you for your cooperation.

これは私が北九州のビジネスホテルに泊まったとき、エレベーターで見つけた「妙な英語」の一例です。ここには複数の問題がありますので、それを1つずつ分析していきましょう。

まず、please refrain fromは正しい英語であり、「遠慮してください」の意味を正確に伝えるものではあるのですが、ややフォーマルで古臭い言い方なので、すぐにはピンと来ないネイティブがいるかもしれません。また、英語を母国語にしない人が知らない表現である可能性もあります。

文章としては適切かもしれませんが、このような場合、より直接的なplease do notのほうが分かりやすいと思います。

さらに、日本語の中に使われているカタカナ英語をそのまま英語にしてしまう、というよくある間違いもこの張り紙では見られます。

日本のホテルや飲食店では朝の時間帯に朝食のセットメニューやバイキングをよく提供していて、それを「モーニングサービス」などと呼ぶようですが、それをそのままmorning serviceとしても、外国人には通じません。和製英語であり、英語にはない言い方だからです。教会のmorning services(朝の礼拝)と捉えることもできるので、混乱を招く危険性もあります。

また、gownは確かに辞書に「ガウン、室内着」などの意味で載っていますが、これは古い言い方で、今は一般的にそのような使われ方をしません。現在最も頻繁に見られるgownの意味は「床までの長さの婦人用ドレス」で、例えばbridal gown(花嫁のドレス)や evening gown(女性正礼装ドレス)などを指します。

ホテルの部屋にある室内着は通常、(このホテルにあったように)パンツがない長いタイプなので、robeと呼ばれます。

そこで、

Please do not wear your robe to breakfast.

 

としたほうが望ましいでしょう。

どこであれば室内着を着て行っていいのかを判断するのは難しく、外国人が混乱するのは驚くべきことではないでしょう。なぜなら温泉旅館では、浴衣姿で一日過ごしたり食事へ行ったりする人が多いからです。

実は、この張り紙のあったホテルにも大浴場があり、温泉旅館と同じように室内着を公のスペースに着て行ってもいいと誤解する外国人もいたかもしれません

 

 

 

<幼稚園児が言いそうな言葉>

●お持ち帰りはご遠慮下さい It is not yours,Thank you

大浴場のある別のホテル(東京)の部屋の中に、この謎の英語が書かれているバッグがありました。まず、そもそもの問題として、外国人の多くはこのバッグが何なのかが分からないだろうと思います。日本では多くのホテルにこのようなバッグが置いてあり、大浴場までタオルやシャンプーを持って行くためのものです。

このホテルは外国人宿泊者が多かったので、このバッグが何のためのものなのかを説明するカードを付けたら親切ではないでしょうか。例えば「Please use this bag to take your things to the bathing area.(大浴場まで持ち物を運ぶためにこのバッグを使って下さい)」。

そのようなカードを用意し、This bag is hotel property, please don't take it home with you.(このバッグはホテルの持ち物なので、持って帰らないでください)、あるいは

 

If you like this bag, you can buy one in

 

 the hotel gift shop.

 

(このバッグを気に入っていただいたのであれば、ホテルの売店でご購入することができます)と書いておくことによって、「これはタダでもらえない」ということを婉曲的に伝えられます。

しかし、このホテルはそうした方法を採らず、なんとバッグ自体にこの注意書きを書いてしまっていました。

なお、この英語表現はとてもストレートで、幼稚園児が自分のおもちゃを取られた時に言いそうな言葉であり、まったく洗練されていない印象を与えます。コンマの後のスペースはなく、またその後に大文字が来ているので、句読法も適切ではありません。

言いたいことが伝わるかどうかにおいても疑問で、宿泊者に対してちょっと失礼ではないかと思います。とはいえ、こんな変なことが書かれているバッグを、逆に面白いものとして土産物でもらいたい人までもいるかもしれませんが。

どうしてもバッグ自体に何かを書きたいのであれば、単にHotel Property(ホテルの持ち物)と記載したほうがいいでしょう。

<無料で利用できるスマホに外国人は当惑してしまう>

●お出かけの際、ご自由にお持ち下さい Please bring this phone out of the room.

最近、多くの日本のホテルに、無料で利用できるスマホが置いてあります。それは確かに宿泊者にとって親切ですが、私は外国ではこのようなものを見たことがないので、おそらく多くの外国人は驚いたり当惑したりするでしょう。

その説明資料の左上にはComplementary(補足)とあり、This is a smartphone which you can use for free during your stay.と書かれてあります。これは分かりやすく、とても良いと思います。

しかし、大きな字で書かれているPlease bring this phone out of the room.の一文は混乱を招きます。直訳すると「この電話を部屋の外まで持って行ってください」という意味で、なぜ持って行く必要があるのか、部屋に置いたままでは駄目なのか、などの疑問が湧いてしまいます。

For use during your stay - inside the hotel or out.(ホテルの中でも外でも、宿泊期間中のご利用のため)のような表現に変えれば、より分かりやすいのではないかと思います。ホテルの外だけではなく、ホテルの中でも利用できるということを伝えたほうがいいでしょう。

下にあるPlease take it out when you go outも同様に修正したほうがいい箇所です。なお、その続きのaccess to free internetもぎくしゃくしている英語なので、直すべきでしょう。

Unlimited internet, local and & international calls. Feel free to bring it with you around town. 

 

(インターネット、国内・国際電話が使い放題。お出かけの際にどうぞお気軽にお持ちください)。when you go out はホテルをチェックアウトする時だと混乱されるかもしれないので、それよりもaround town(街を回っている間)のほうが誤解を招く危険性が低くなると思います。

さらに混乱を避けるには、どこかに 

 

Please leave it in your room when you 

check out.

 

(チェックアウトの際、部屋に置いたままにしてください)のようなことを付け加えるといいかもしれません。

 

 

 

 

<日本語自体が論理的かどうか>

●この高さまでお湯を入れて下さい Please put the hot water up to this height

私が東京のホテルの部屋のお風呂で見かけた英語です。この英語は日本語の直訳として文法的には正しい表現です。しかし、よく考えると、言いたかったことは「この高さ以上にお湯を入れないでください」だと思われます。この表記だと、カップラーメンのようにここまでお湯を入れなければならないという感じになってしまいます。

Do not fill above this line.

 

(この線以上に〔お湯を〕入れないでください)としたほうが望ましいでしょう。

翻訳をする時に、まず元の日本語自体が論理的かどうかをよく考える必要がある、ということの良い例だと思います。

<「お手数をおかけします」は英語にしなくていい>

●お手数をおかけしますが、上記の通りお願い致します。 We are so sorry for the inconvenience. Thank you very much for your cooperation.

これは九州で泊まったホテルの部屋の中にあったもの。夜の間、フロントデスクの内線番号が変わるというお知らせです(小さなホテルでしたので、夜はワンマン体制だったようです)。

日本語では、「お手数をおかけします」といった表現を使うことは礼儀の1つです。しかし、英語に直すと、それが過剰になる可能性があります。この英語を見る人は、違った内線番号を使うことがどんなinconvenience(手数)なのか、想像できないかもしれません。また、so sorryはとても強い言い方で、そんなに謝る必要があることなのかとも思われてしまいます。

そのため、ここで推薦したいのは、We are so sorry for the inconvenience.を完全にカットすることです。

 

Thank you very much for your cooperation.

 

だけでも丁寧さを示すには十分なはずです。

細かいところでは、TO THE GUESTより、

 

TO OUR GUESTS

 

のほうがいいでしょう。

最後に、何時から何時までどの内線を利用できるかを表している英語にはタイプミスがあるようです。ここでは内線11番は「朝10時から朝11時」だけの利用になってしまっています。校正を忘れないようにしましょう!

◇ ◇ ◇

観光ブームの最前線に立つホテルで働く皆様、日頃より外国人旅行客への対応、本当にありがとうございます。この記事での指摘が少しでも皆様のお役に立てれば嬉しいです。

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