NCヘッドホン、実はデノンが本命かも? 「AH-GC30」を海外出張で使い、その音に驚いた
編集部:風間雄介
https://www.phileweb.com/review/article/201907/11/3513.html
ノイキャンをONにすると、あの「ゴオーッ」という地鳴りのような騒音がピタッと止まり、心地よい静寂が訪れる。劣悪で不快極まりない空間が、一瞬でオアシスに変わる。まさに旅の必需品だ。
ノイキャンヘッドホンにはいくつか人気モデルがあるが、今回はそのうちの一つ、デノンがこの春発売した新モデル「AH-GC30」を、出張時の機内やホテルなどで実際に使ってみた。その感想を書き連ねていこう。
■デノン「AH-GC30」を実際に機内で試してみた
さて、今回、旅の相棒にデノンのAH-GC30を選んだ理由は2つある。
1つは、“いかにもノイズキャンセリング”という雰囲気がしないルックスを好ましく感じたからだ。他社のノイズキャンセリングヘッドホンは、ガジェットライクな見た目のものが多い。それはそれでカッコいいが、「いかにもハイテク製品を身にまとっています」という感じがちょっと…と敬遠してしまう方もいるだろう。
その点AH-GC30は、ぱっと見、ノイキャンヘッドホンには見えない。ヘッドバンド部とイヤーカップをつなぐパーツは柔らかな曲線を描く金属を採用。さらにイヤーカップ部はマットブラックで(ホワイトモデルはマットホワイト)、しかも指紋が付きにくい仕上げになっているのが心憎い。
ふつうのヘッドホン、いや、それ以上に優美な外観で、大人が身につけるアイテムにふさわしい落ち着きがある。そのほかのデザインも総じてシンプルで、ムダな主張がなく、すっきりとしたデザインだ。スーツスタイルでも、あるいはラフな格好でも、どちらにもすんなり馴染む懐の深さがある。
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「AH-GC30」¥OPEN(予想実売価格36,750円前後)カラーはブラックとホワイトの2色展開となる
そして2つめの理由は、当サイトで活躍中のライター、山本敦氏が「デノンの新モデル、ノイキャン性能がものすごく進化している」とレビューで書いていたからだ。山本さんがそこまで言うのなら、どれほどの実力なのか、実際に航空機内で確かめたいと考えた。
今回、新品のAH-GC30をゲットできた。せっかくなので、まずは開封の儀から行った。デノンのヘッドホンはパッケージもなかなかおしゃれで、開封しているだけでわくわくする。持ち運びに便利なキャリングケースや、アナログ有線ケーブルや充電&デジタル接続に使えるUSBケーブルも付属している。
■音楽はクリアなままに、ノイキャンは効果大
海外出張当日。実際に飛行機の機内でAH-GC30を使ってみると、ノイズキャンセリングの効果は予想以上だった。
同社初のデジタル・ノイズキャンセリング機能を採用したこと、そしてハウジングの内側、外側にそれぞれ集音マイクを備えるフィードバック&フィードフォワード方式を採用したのは伊達ではない。強豪ひしめくマーケットを見渡しても、間違いなくトップクラスのノイズキャンセリング性能を備えている。また、これは後述するが、ノイズが綺麗に取り除かれる一方、再生音がモコモコせず、クリアなままであることにも大きな価値がある。
さて、AH-GC30は、3種類のノイズキャンセリングモードを備えている。「エアプレーン(飛行機)」「シティ」「オフィス」モードだ。このモードは、右側ハウジングの下にあるボタンを押すことで、瞬時に切り替えられる。
飛行機内ではもちろん「エアプレーン」モードを使ったが、モードをすぐに切り替えられるのは大変便利。ホテルで仕事をする際、「オフィス」モードに変えてみたら、ノイキャン効果が良い感じに和らいだ。なお、ノイキャンモード切り替えボタンを長押しすると、ノイキャンをOFFにすることもできる
装着感もよい。長時間装着することが多いノイキャンヘッドホンにとって、装着した際の快適性はものすごく重要な要素だ。いくらノイズ抑制効果が高くても、いくら音がよくても、ヘッドホンを着けたときの感覚が不快だったらほとんど意味はない。
その点AH-GC30はたいへん優秀で、今回のフライト4時間のあいだずっと装着し続けても、ノーストレス、ノーダメージ。まだまだ着けていられそうな感覚があった。10時間を超えるロングフライトでも問題なく使えるだろう。イヤーパッドの大きさ、柔らかさ、皮膚に当たった際の感触も絶妙な仕上がり。私は頭が大きめなので、他社のノイキャンヘッドホンだと耳の周りが痛くなることがあるが、そういうトラブルは一切無かった。
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ヘッドバンド、イヤーパッドの質感や感触も良く、長時間装着していても疲れなかった
■すっきりとクリアなサウンド。このジャンルではダントツの音楽性を備える
ここからは、肝心の音質について触れていく。
一言で言い表すと、ノイキャンヘッドホンとは思えないほど、すっきりとクリアな音だ。
まずはiPhone Xと接続して試聴。つまりAACを聴いていることになる。クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」では、フレディ・マーキュリーのシャウトが、天をつんざくように伸び切る。そして濁りのないピアノや、ブライアン・メイのギターが、それを鮮やかに引き立たせる。オペラ調の間奏の複雑なコーラスワークまで見事に描き分ける能力には思わず舌を巻いた。フラットバランスを基本にしつつ、やや聴き飽きた感のある曲さえ楽しく聴ける見事な音楽性が光る。
あいみょん「マリーゴールド」では、ボーカルに被せられたフィルターの質感まで、丁寧に浮き彫りにする。解像感が高く、細かなサウンドワークもしっかり表現する基本性能の高さを実感した。
女性ボーカルはもう一曲、少し懐かしい楽曲、柴田淳「青春の影」でもチェック。あいみょんとは違ってエフェクトは最小限で、生っぽいボーカルが特徴的な楽曲だが、上唇と下唇が触れあう擦過音までが、耳の奥、そして脳までダイレクトに届いてくる。
続いてaptX HD接続も試した。DSD音源のマイケル・ジャクソン「Billie Jean」を聴くと、リズムを刻むシンバルの音がクリア。中盤以降、多数の楽器が複雑に絡み合うパートも、一音一音を明瞭に描き出す。この解像感は特筆すべきレベルだ。
あまりにすっきりと透明感のあるサウンドなので、つい水に例えたくなった。やや硬質なミネラルウォーターを想起してもらえたら、私が聞いた音の印象に近いかもしれない。といって、当たりがキツいわけではなく、耳に優しい中高域の丸みも両立している。低域はしっかり出ているが、無理に深くまで沈ませるわけではなく、あくまで音楽全体のバランスを重視したサウンドだ
率直に言って、売れ筋モデルを含め、しっかりとした音楽性を備えたノイキャンヘッドホンはほとんどない。あくまでノイズを消すツールであることが最重視され、音楽はある程度ちゃんと聴けたらOK。そんな状況の中、本機は高いノイキャン性能を備えながら、しっかり音楽を楽しめるレベルに達している。これは希有なことだ。私は本機の開発背景を知らないが、このチューニングに到達するまで、果てしない試行錯誤があったに違いない。そう思わせるに十分な、見事なバランス感覚だ。
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小さく折りたたむことも可能。専用ケースもかさばらず、持ち運びが苦にならない
そしてさらに素晴らしいのは、ノイキャンをオンにしてもオフにしても、音質がほとんど変わらないことだ。音質を犠牲にするか、それともノイキャンを犠牲にするか、というトレードオフを検討する必要がない。ゆえにストレスが少ない。
素直に書いてきたつもりだが、褒めすぎという方もいるかもしれない。あえて、少し気になったところも指摘しておこう。AH-GC30は解像感や基本性能が高いがゆえに、悪い録音、圧縮音源のノイズなどまで、そのまま表現してしまう。悪い音の音源を作り替え、なんとなく良いように聴かせる機能は備えていない。反面、良い録音の音源は非常に伸びやかに聴かせてくれる。どちらがよいかは人それぞれだろうが、少なくとも私は、この「何も足さない、何も引かない」音づくりに好感を抱いた。
■ふだん使いしたくなる、ディティールまでこだわった意匠
ここで、細かなところにも目を向けてみたい。ノイキャンヘッドホンは持ち運ぶことも多いため、ケースにもこだわりたいもの。この、地味ながらも重要なポイントを、本機はきっちり押さえているのが嬉しい。表面は型押しの細やかなシボ加工で質感が高く、そこに凹ませたデボス加工でDENONロゴがあしらわれている。心憎い演出だ。
さらにケースの内側、そして外側に大型のポケットがあり、ケーブル類やアダプターなどをまとめて収納できるのも気が利いている。商品の最終的な満足度を決めるのは、こういった細部の積み重ねだ。「神は細部に宿る」などというと大げさだが、ディテールをおろそかにしない姿勢に敬意を表したい。
実際に海外出張の往復、ホテルの中、そして街頭でAH-GC30を使ってみた。最初はルックスに目が行き、そしてノイキャン性能の高さに驚き、さらに音質の良さにも舌を巻くことになった。もちろん装着性の高さもトップクラスだ。「音が良いだけでなく、総合力が高いノイズキャンセリングヘッドホン」を探しているのなら、検討候補に加えるべき逸品だ