究極のデジタル機から、アナログ再生への回答 - エソテリックの旗艦トラポ&DAC「Grandioso P1X/D1X」を聴く

 

 

 

鈴木 裕

 

 

 

https://www.phileweb.com/review/article/201907/05/3478.html

 

 

 

 

昨年開催された「東京インターナショナルオーディオショウ」にて展示された、まったく新しいトランスポートメカニズム『VRDS-ATLAS』とディスクリートDAC『Master Sound Discrete DAC』が大きな話題となったことは記憶に新しい。その新しいフィーチャーを搭載したフラッグシップ・デジタルセパレートプレーヤー「Grandioso P1X/D1X」がついに発売となった。デジタルの最先端モデルが意識したのは、最高のアナログ再生。鈴木 裕氏がそのこだわりと音質を知り、Grandioso P1X/D1Xのアナログ再生への回答を探り出す。


エソテリック SACD/CDトランスポート「Grandioso P1X」¥3,500,000(税抜)


画期的な新技術の投入によりアナログ的な自然さを目指す

エソテリックの最上位シリーズ“Grandioso”の新製品「P1X」「D1X」を聴いて、いよいよデジタルプレーヤーがアナログ的な自然さを発揮しだしたと思った。初代が登場したのが2013年。もちろんフラッグシップとして最高峰を目指した製品だ。

6年目にして登場した第2世代のキャッチコピーは“ONE FLAGSHIP、TWO REVOLUTIONS”。ひとつのフラッグシップにふたつの革新。しかしその根底には「音楽とは、演奏家がパッセージに込めた情熱であり、瞬間的・爆発的なエネルギーである」というフィロソフィーがあってこその音だ。これだけ新しい技術が投入されているのに、音はむしろナチュラルに、そしてオーディオを意識させないものになった。

新しいドライブメカを開発し、別筐体の電源部も大幅に刷新

まずSACD/CDトランスポートGrandioso P1X。16年間、基本的な設計を変えてこなかったメカドライブのVRDS NEO。この後継メカがついに搭載された。VRDS ATLASだ。アトラスはギリシア神話の神であり、回転する天空の中心。力や永遠を象徴する。ここから命名されたVRDS ATLASの特徴は4つある。

 
P1Xに搭載される新開発『VRDS-ATLAS』。ターンテーブルはジュラルミン素材を採用。スピンドル軸受けには、新設計のスチールボールによる点接触のスラスト軸受けを採用し、摩擦や回転ノイズを極限まで抑える設計としている


まず、NEOでも高剛性で重量級だったが、さらに剛性を上げ、重くなった。素材としては以前から使われている鋼(スチール)を中心に構成し、VRDSのターンテーブルはジュラルミン素材を踏襲。密閉せず、オープン構造な点も継承している。

メカ単体の重量としてはNEOと比較して+27%の6.6kg。ベース部も含めると、13.5kg。低重心でワイドな構造も、ディスクの下側にモーターを配置(NEOでは上にある)も、振動コントロールのための設計思想。またディスクトレイのレールは、NEOでは下側にあったものをATLASではトレイの左右に移設。特殊な振動吸収素材により再生中の振動を封じ込めている。その他、細部に渡って静かで、より精密な機構を実現している。

電源別体の2シャーシ構成を取るが、4個搭載するトロイダルトランスの位置から内部の構造まで電源部の内容も大幅に刷新したトランスポートだ。


P1Xの電源ユニットには、合計で4つの独立したトロイダル電源トランスを搭載。各回路(サーボ回路、ドライブメカ駆動回路、デジタル出力回路、クロック回路)へクリーンでパワフルな電源を供給する


ディスクリートDACを搭載。フルモデルチェンジを実現した

D/AコンバーターのGrandioso D1X。DACデバイス、いわゆるチップ(石)を使わず、エソテリック初のオールディスクリート構成のDA変換部を持つ点が最大の特徴だ。初代「D1」では36bitで処理してきたが、D1Xでは64bitの高解像処理。また、MQAのデコードなど、最新のテクノロジーにも対応する予定だ。


D1Xに搭載される新開発『Master Sound Discrete DAC』。 全ての処理を自社製FPGAアルゴリズムで行い、汎用DAC ICを使わないディスクリート回路設計により、細部に至るまで独自の思想が貫徹されている


具体的には抵抗、ロジック回路、パワーサプライといったものを各エレメントごとに1回路ずつ用意。これを1エレメントとして、そのバランス回路で、合計16エレメントをひとつの基板上にふたつの円形として配列。基板を見ただけで只ならぬ気配を発している。

その他、電源部については電源のフィードバックをできるだけ少なくしてより開放感のある音にするなど、内部はフルモデルチェンジと言っていい進化を遂げている。
 


D1Xの内部。左が上面で右が底面。アナログ回路は、デジタル回路からの電気的なアイソレーションを徹底。さらに、デジタル回路用、及びアナログ回路用に電源回路も独立させている。チャンネルあたり2つの強力な大型トロイダル電源トランスで各回路ブロックへクリーンな電源を供給している


ナチュラルでしっとりした音。膨大な音楽情報が伝わってくる

テストはエソテリックの試聴室で行った。Grandiosoの「C1」「M1」、そして後半はクロックジェネレーターの「G1」も使用。タンノイの「Canter bury/GR」を鳴らしていった。先代のP1/D1と、P1X/D1Xを比較する聴き方だ。


D1Xのクロック基板。P1X/D1Xともに搭載する『Grandioso Custom VCXO II』は、大型の水晶片を内蔵し、位相雑音が極めて少なく、最高峰モデルに相応しい優れた中心精度(±0.5ppm)を誇る


まず普通のCDから聴いていった。先代の余裕や力強さ、ハイレゾリューションで膨大な情報量を聴かせてくれる感じも素晴らしかったが、P1X/D1Xでの音に、ついにデジタルプレーヤーが新たなる地平に到達したのを感じた。

基本的な音としては先代の延長上にはあるが、音調としてはよりナチュラルでしっとりしたものに。と同時にトランジェントが素晴らしいし、情報量という意味ではさらに増えている。

このニュアンスを伝えるのが難しいところだが、ディスクから細大漏らさす情報を読み取った上で、全ての音に対して公平に変換している印象なのだ。どこかの帯域を強調したりせず、公平でムラなく誠実に音にしようという意志を感じる。聴き手としてはこちらから音を聴きに行かずとも、全てが向こうから聴こえてきてしまうような、膨大な情報量が音楽のニュアンスとして伝わってくるような感覚がある。

特にSACDの音の良さに驚き。ホールの空気感が横溢してくる

一方でそうしたD/A変換部の深化とともに、アナログのバッファーアンプ部。これによる空気に音像を刻みつけ、空気感を漂わす、その力も上がっているようにも感じた。

もちろん先代と同じ音量で比較したが、耳にも脳にも肌にも音楽が浸透してくる力が上がっている。上がっているのにそれがあまりにナチュラルなので、身をゆだねてオーディオの存在を感じず音楽を楽しむことに没頭してしまう。

そして驚いたのはSACDの音の良さだ。CDとSACDの差がこれほどまでに大きかったとは。一言で言うと、演奏が始まる前のガヤでコンサートホールの空気感がすでに横溢し、音楽が始まるとオーケストラの各パートや合唱隊、そしてソリストの実在感の高さに圧倒された。

また、MQA-CDはボブ・ジェームス・トリオ『エスプレッソ』を聴いたが、デコードしても88.2kHz/24bitというそんなに数字の大きくないハイレゾなのに、通常のCD層の音と比較してその差の大きさには認識を改めざるを得なかった。


Grandioso D1Xの背面端子部。デジタル入力は、ES-LINK× 2、XLR×1、RCA×2、光デジタル×1、USB(USB2.0 準拠×1 (B端子)を装備する


Grandioso P1Xの背面端子部。デジタル出力はES-LINK×1、XLR×2(Dual AES出力時は、2つの端子を使用するので1系統になる)、RCA×1を装備。別筐体の電源部との接続には、左右別に2本の専用DCケーブルを使用する

 



値段といい、4筐体といい、自身のオーディオルームに収められる方は幸せだ。アナログとかデジタルといったことに関係なく、全てのオーディオファイル、音楽好きの方に体験してもらいたい音とお伝えしたい。


エソテリック D/Aコンバーター「Grandioso D1X」¥3,500,000(ペア・税抜)


(鈴木裕)


<Specification>
【Grandioso P1X】
●再生可能ディスク:SACD、CD、CD-R、CD-RW●デジタル出力:ES-LINK×1、XLR ×2(Dual AES出力時は、2つの端子を使用するので1系統になる)、RCA×1●クロックシンク入力:BNC×1●入力インピーダンス:50Ω●入力可能周波数:10MHz(±10ppm)●入力レベル:サイン波 0.5~1.0Vrms●消費電力:18W●サイズ(突起部含む): 本体部445W×162H×449Dmm、電源部445W×132H×452Dmm●質量:本体部29kg、電源部24kg
【Grandioso D1X】
<アナログ出力>●端子:XLR/ESL-A Lch,Rch 各1(モノラル)、RCA Lch,Rch 各1(モノラル)●出力インピーダンス:XLR 100Ω、RCA 47Ω●最大出力レベル(1kHz、PCMフルスケール信号入力、10kΩ負荷時): XLR 5.0Vrms、RCA 2.5Vrms●周波数特性(192kHz PCM信号入力時):5Hz~75kHz(-3dB)●S/N:113dB●歪率(1kHz、D/Aコンバーター動作モードM3設定時):0.0007%
<デジタル入力>●端子:ES-LINK×2、XLR×1、RCA×2、光デジタル×1、USB(USB2.0準拠)×1(B端子)●クロック入力:BNC Lch、Rch 各×1●消費電力:20W●サイズ(突起部含む):445W×132H×448Dmm●質量:Lch 23.1kg、Rch 23.0kg


https://www.phileweb.com/review/article/201907/05/3478_2.html