BlogMagazine-SoL -『ソル』-ママ&ワイフを楽しむおんなたち-jamaica


旅の候補地は、なぜかイタリアとジャマイカだった。
イタリアはマダムになってからでも似合うけど、ジャマイカは若いときに行った方が絶対楽しいよね!と、10年前、私は友人とジャマイカに行った。若さゆえの選択である。


最初の滞在地は、ビーチリゾートであるモンテゴ・ベイ。
朝はテラスでパンケーキを食べ、昼はクルージングやヌーディストビーチで過ごし、毎夜ビーチで行われる「サウンドシステム」というクラブで踊り明かす。そんなのんびりとした時間を過ごした。


次の滞在予定地はジャマイカの首都キングストン。途中、映画『カクテル』のロケ地にもなったオーチョリオスで滝登りをしてから、キングストンに行きたい。
しかし、下調べをしていなかった私達は、行き方がわからなかった。
滞在中にホテルで親しく挨拶を交わしていたボーイにその旨を訊ねると「明日休みだから、バスと同じ料金を支払ってくれるなら、俺の車で乗せていってやるよ」
「いいよいいよ!じゃ、よろしく~」
いま考えると、よく承諾したな、と思う。若さゆえの選択である。


翌日、約束通り、ボーイは来た。
ただ、約束、というか、私の予想と違った点がふたつあった。
ひとつは、迎えの車がOLの乗りそうなハッチバックのコンパクトカーであったこと。もうひとつは、迎えに来たのがボーイだけではなく、見知らぬ黒人男性がさらに2人乗っていたこと。


「俺の弟と従兄弟だ。キングストンからの帰り道、一人じゃ寂しいから呼んだんだ」


私達は滝登りを終えて、濡れた水着の上にワンピースを羽織っただけの姿だったので、シートを濡らすことを躊躇したが、気にすることはない、とボーイは大らかだった。狭い車内の運転席にボーイ、助手席に従兄弟、後部座席に私と友人、ボーイの弟が、膝をくっつけるようにギュウギュウに座る。
私達の姿は明らかに無防備だった。警戒心がぎゅっと拳を固める。


英語のおぼつかない私達と彼らの間は、自然と沈黙が多かった。

静かな車内にカーステレオからレゲエが聞こえる。
沈黙に耐えかねて、私が言った。
「この曲、いいね。私、好きだな」
「いいだろう!これはジャマイカでも有名なアーティストなんだ!俺達も大好きさ!!よし、いいアイディアがある」


やがて車は太い道路を離れ、山間部を走り、砂埃の舞う集落に着いた。道端にファッションではないドレッドヘアーのラスタマンがたむろし、どうやったらあんな風に黄ばむんだろうという白いランニング姿の子どもが走り回る村だ。
明らかに目的地ではない。戸惑う私達を乗せた車は、一軒の家の前で停まった。


「さっきのテープをダビングするから、ちょっと待ってて!」


そう言い残してボーイは走り去った。ダビング用のテープを買いに行ってくれたのだ。聞くと、ここはボーイの親戚宅。息を切らせて戻ってきたボーイがダビングを行ってくれている間、私達は親戚にコーラをご馳走になり、庭のブランコに乗ったりニワトリと遊んだ。


その後、警戒心のなくなった私の口は滑らかになった。
「私の父はNINJAでKUROOBIだ」
「Really!?」「It's cool!!」
実際は、ハゲのメガネのキダタロー似で、黒帯どころか、私のキック一発で病院送りにされている。


そんなどうでもいい会話をしながら無事キングストンに着くと、代理店の手配ミスでホテルが予約されていなかった。フロントの早口な英語に困惑顔の私達の代わりに、ボーイが交渉してくれ、宿を確保することができた。
彼らは、どこまでも実に善人だった。


何もかもが若さゆえの選択だったジャマイカ。
結果オーライの楽しい旅だったが、あれから下調べを入念に行うようになったのは言うまでもない。



written by cheeco