この星のアイドル文化は大人の事情を超越して進化し興味深い
「僕はアイドルという存在が若い人たちだけに許される信奉対象と思ってきましたが、まさかこの歳になってそういうのにハマッて胸が疼くことになるとは…」そう言って心苦しい様子を見せるのは、もう四十を越える家庭持ちの紳士だった。彼はAKBやら乃木坂と称するアイドルグループが、そのメンバーを主立った出演者として構成される番組の中で全身に粉を浴びせられたり、生クリームを顔に噴射されて体当たりでより良い演出に挑んでいるのを見てすっかり魅入られてしまったと私に語った。「それは若い頃に抱いた恋心のようなフワフワ浮ついたものではなくて、彼女たちがアイドルとして地位を固め、ゆくゆくは女優や歌手、バラエティタレントとして羽ばたこうする健気さを応援したい親心に近い感情だと思います」彼はそう言って、年齢不相応の自分がアイドルを好む気持ちを釈明した。自分はそれまでAKBや乃木坂というようなアイドルグループには何の関心もなく、むしろこの国の文化を低劣化させるものとして冷ややかな眼差しを向けるような人間だったと言う。であるのに、なぜ興味が誘われることになったかと言うと、グループ名のあとにBINGOとつく番組の中で必死になってキャラを立て存在感を示そうと努める彼女たちの真摯さに心を打たれたからだと彼は説明した。彼がその説明に加えたことは、AKBにしても乃木坂にしても、元を正せばそのメンバーたちを世に羽ばたかせようと努めるプロデューサーの商業戦略が長けているから彼女たちが光り輝くのだろうという大人の事情も自分はわきまえているとのこと。巨大なアイドルグループの後ろでアイドルたちを見つめる大ボスの本当の思惑は計りきれないけれど、アイドルが育ち、彼女たちの唄う歌の印税が自分の元に集まって来るシステム自体が魅力的で美しいと彼は言う。従来の、芸能プロダクションが作り上げるアイドルとは異なり、どこにでもいるような女の子たちが真のアイドルをめざして自らの魅力に精一杯磨きをかけながら、知恵と努力でその頂点への階段を一歩一歩かけ上がっていく。上がるばかりならおもしろみもないが、ともすれば真っ逆さまに階段を転落しかねないリスクを承知しながら、彼女たちが成長していく姿が微笑ましく楽しいと彼は語る。「大ボスはメンバーの恋愛について、アイドルとして歩もうとするなら恋愛などしている暇はないと言って暗に彼女たちの恋愛を牽制しています。それはそれで1つの規制の在り方だと思いますが、僕としてはアイドルがファンすべての恋人であることを考えれば、やはりアイドルとして名を売っている間は恋愛はなしだと思います」ファンがアイドルとして自分を応援してくれている以上、ファンの崇拝を裏切るようなふるまいは自己規制されるべきというのが彼の考えであるらしい。「心ならず感情が恋愛に向かったとしても、人知れず密かに紡ぐような清らかなものであってほしいですね。そこが守れないと、ファンの思いを根底から裏切りアイドル文化そのものを崩壊させることになりかねません」と言うので、「アイドルのファンというは、CDを何枚くらい購入して保有していれば許される呼称なのですか?」と私は尋ねてみた。「えっ…僕は1枚も持っていませんけど、自分はファンのつもりでいます。YouTubeやFC2の動画を見て声援を送るだけですけど…それだとダメですかね」と今度は私が尋ねられる立場になった。でも、それに答えられる引き出しは私にはまったくなかった。ただ、金銭的に貢献しないファンがいてもいいと思うし、そういうファンばかりだとアイドルを支える側がひもじい思いをするのではないかと心配も生じる。この星ではアイドルと呼ばれる立場の人間を規制するルールもさることながら、アイドルファンを自称する人を規制するルールも本当はどうあるべきか興味深い。だが確かなことは、アイドル文化というものがもっぱら大人の利益追求によって生み出される低劣な次元のものから、その道を究めようとするまだ年若い女の子たち自身の汗と涙によって育まれる高尚な次元へと転位しつつあるということではないだろうか。ちなみに私は、宇宙生物種の中に近い生き物がいる『うなぎイヌ』と称されるメンバーと、これもまた1つの文明を築く生命体として同じような風貌も持つ『ブラックまりもっこり』と称する女の子を押しメンとしてそちらにプロフを紹介する。そう母星に送信した。