ブラックジャックとは違う


若い外科医、りっぱな診療所を開いて、いまは最初の患者を待つば

かりとなった。卓上には新しい電話機―ただし取り付けたばかりで

まだ通じない。突如ノックの音。いよいよ最初の患者である。医者

は忙しく見せるのが最上のコツ。そこでわざと15分ばかり待たせ

、やっと招き入れたが、ココで少々度肝を抜いておこうと考えた外

科医先生、おもむろに受話器をはずし、通ぜぬ電話をかけ始めた。

「もしもし・・はい、承知いたしました。B公爵さまですね。・・・

手術料?いや、盲腸炎だと5万フラン以下ではねえ。・・・先週も

H公爵夫人から8万フランいただきましたよ。」悠然と受話器を

掛け、あっけに取られた患者に向かい、「お待たせしました。

さて、ご病気は?」「電話機の工事に参りました・・・。」