「25年ぶりにまた、ヨリを戻したのか。祥子聞いたか、こいつ離婚したばかりで彼女募集中らしいぞ」


「バカ野郎、いい加減なこと言いやがって。俺は一人になって自由を満喫してるんだから」


「本当は寂しいくせに。祥子こいつのことよろしくな」


 健一は言いたい放題言って、他のグループへ入っていった。今日どうしても帰るという祥子を空港まで送るため、途中で同窓会を抜け出した。浜松町からモノレールに乗って暗い外の風景を二人黙って見ていると25年前同じように二人並んで座って黙ったまま、外の景色を見ていたことを思いした。祥子も25年前と同じように黙って外を見ている。


 このまま何も言わず別れてしまっていいのか、幸一は心の中で葛藤していた。でも、何を言えばいいのか、何を言いたいのか幸一自身わからなかった。

 空港に着くと祥子はチェックインを済ませた。


「見送ってくれてありがとう。幸一に会えて嬉しかった」


 幸一が何も言えず黙っていると祥子は、くるりと向きを変え、手荷物検査場に向った。このまま声を掛けなければ、祥子とはもう二度と会えない気がして気がついたら叫んでいた。


「祥子!一緒に暮らそう。俺と結婚してくれ」


 周りに居た人達が皆、幸一の声に驚いて幸一を振り向いた。その中に祥子の顔もあった。祥子は何が起きたのかわからない、自分に対して吐かれた言葉だということがすぐに理解できないような顔で幸一を不思議そうな顔で眺めている。


「祥子、俺にはお前しかいない。随分回り道したけど、もうこれ以上回り道したくない。結婚しよう」


「・・・・・」


 祥子は無言のまま幸一を見つめていたが、見開かれた目から涙がこぼれ落ち、駆け出した。幸一の胸へ飛び込んだ祥子を幸一は強く抱きしめ、祥子は幸一の胸にしがみついた。


「もうどこへも行かないと約束して。もう二度と悲しませないで」


「どこへも行かない。これからは二人いつもでも一緒さ」


 周囲に居た人達から拍手が起きた。近くに居たおじさんが拍手をすると拍手の輪が広がり、何十人もの人達から温かい拍手が自然に沸き起こった。幸一のシングルアゲインは束の間の出来事で終わり、25年前に成就できなかった運命の出会いが再び実現した。幸一は運命というものがこの世に存在するんだということを初めて知った。

 幸一は25年ぶりに祥子と話をし、25年の歳月の長さを思い知らされた。25年会わずにずっとふくらませ続けた祥子のイメージと現実に会った祥子とでは全く違っていた。25年前の祥子はどちらかと言えばか弱くて幸一が支えないと危なっかしい感じがしたが、今目の前に居る祥子は一人で世の中を渡り歩いていく力強さが感じられる。


 昔の祥子も好きだが、今の成長し成熟した祥子にも昔異常の魅力を感じた。スーツの上からでもハリのある体のラインがわかり、50歳を目の前にした女性には見えない。30代と言っても誰もが信じるだろう。


「奥さんは元気?」


「・・・別れた」


「そうなんだ。いつ?」


「去年の夏」


「お子さんは?」


「居ない」


「こういう時はなんて言えばいいんだろうね」


「おめでとうじゃないの」


「・・・・・・」


「正直、離婚してほっとしている。祥子の旦那さんは?」


「私はシングル、ずっと」


「・・・、そうか」


 幸一はてっきり祥子は結婚していると勝手に思い込んでいた。驚いて喉がキュッとしぼんで上手く声が出なかった。一瞬俺のせいかと、少し誇らしげな気持ちになった。


「父が病気で倒れ、家族を養っていかなくはならなくて、人を好きになる時間もなかった。気がついたときには40歳を過ぎて、もう今更結婚なんてと思うようになっていた」


「祥子になら、縁談はいくらでも来るだろ」


「確かに田舎だからね。余計なお世話をするのが好きな人が沢山いたわ。でもさすがに40歳を超えると、縁談の話を持ってくる人は居なくなった。田舎だと40歳を過ぎて独身でいると、変人のように扱われるの」


「大変なんだ」


 自分で言いながら何が大変なのかよくわからなかった。しばらくお互いの近況報告をし合っていると健一が間に割り込んできた。

 同窓会は学生時代に皆がよく行った新宿西口で行われ、ほぼ全員の10名以上が集まった。25年ぶりにあった仲間は皆、25年の時間がいかに長いかを示すかのように、頭が薄くなったり、白くなったり、お腹が出っ張ったり、すっかり誰だかわからなくなってしまった奴もいる。そんな中で祥子は、白いスーツに身を包み皆の中でも一段と輝いて見えた。


 25年の歳月は祥子も例外なく年を重ねているが、上品さや年相応の落ち着きと色気が合わさり、学生時代よりもいい女になっている。そう思ったのは幸一だけでなく他の連中も同じで、祥子を見て皆感嘆の声をあげた。


 幸一は祥子と目が合うと、目を伏せ挨拶をした。25年前の初デートの時のように胸がときめき、言葉をかけようと思っても言葉が出てこない。25年の会わなかった空白の期間が、幸一にとっては、大きな祥子との溝になっていた。一時は結婚も真剣に考えた二人だったが、距離が二人を切り離し、いつの間にか過去の思い出の人に追いやっていていたのだ。


 幸一は祥子と少し離れた席で健一の隣に座り、健一と近況報告をしあい、他の仲間からの酌を受けながら、祥子をちら見しては仲間と昔話に花を咲かせた。最初は皆久しぶりで固くなっていたが、酒が進むにつれ昔に戻り座も乱れ始め、あちこちで輪ができ気がつくと幸一は一人ポツンと座って手持ち無沙汰に一人ビールを飲んでいた。


「久しぶり」


 祥子がビールを持って隣の席に座り、幸一のグラスにビールを注いだ。


「ありがとう。何を飲んでる」


「私はこれ。冷酒」


「そうか。冷酒なんて飲むようになったんだ」


 学生時代の祥子はチューハイやサワーしか飲まなかったはずだ。


「私だって年を取れば変わるわよ。いつまでもサワー飲んでるわけにいかないでしょ」


「それもそうだな。元気にしてたか」


「おかげさまで。なんとか生活してるのが精一杯だけど」


「仕事は何してるの」


「広告代理店。と言っても田舎のことだから、大手の広告代理店とは雲泥の差だけどね」


「へえー、でも夢は叶えたわけだ」


「叶えたと言えるのかしら。思ってたのと現実のギャップはすごくあるけど。あなたは何してるの」


「今流行りのIT関係の営業」


ITか、大変そうね」


「まあ、何をやったって大変なのは同じさ」