「綸はブログやるの?」
久々に再会した友に訊かれた。
「うん。最近始めたのー」
そう言って友の家のPCで披露してみる。 実際初めて一ヶ月ばかりの初々しいそのブログには、彼女の趣味やら常日頃思う事やらそう言った事が、割とまめに綴られていた。
「じゃあ、ソーシャル・ネットワークって知ってる?」
これは。知らない。
抑も綸のネット生活自体、さほど歴史の古いものではない。ネット用語はほとんど知らないし、彼女が普段PCを使ってする事と言えばメールチェックとブログの更新と史料の打ち込み位のものだった。
綸は大学院生だ。日本史を専攻する真面目な、である。特に流行に乗るでもなく、お笑いを、バラエティを、歌番組を熱心に見るでもなく、適度にニュースとドラマを眺めながら適度に勉強し、アルバイトをし、適量の友達を持って暮らしている。これだけの情報で大概想像がつくような見た目をもしている。
見た目というのは重要で、見た目と表面的な行動が人格毎規定して一定の評価を形作るものだから、結局当人はそういう一定の評価に基づいた行動を強いられる羽目になる。自分で作った「自分」を自分で演じる事になるのだ。
綸も例外なくその一人で、流行だのファッションだの恋愛だの数ヶ月で風化するものをあくせく追い掛ける同年代達を冷めた目で見ながらそうはなるまいと思って行動していたつもりが、いつの間にか「真面目で丁寧でよく努力する子」にされ、またそう見えるように自ら動くようになった。 学部の頃から教授の下で働くようになった綸は、適度な評価を得て(得るように努力して)そのままエスカレーター的に院まで進んだ。進学は、実際彼女の兼ねてからの希望でもあった。
そんなことで彼女のPC生活は、大都、論文に使う史料を自分のPCに打ち込むものであった。
ソーシャル・ネットワークなる新出単語は、特に綸の気を引くものではなかった。友からの紹介を得て入り、自分の日記だの何だのを書きながら、現世での友を見つけたり新たに同類項の仲間を見つけたりする。場所や年代を超えた繋がりを築くのが目的のようだ。
成行きで招待され、結局入る事になった。
仕方がないから挨拶だけ日記に書いてみる。
大して楽しくはない。
楽しくはなかったが、兎も角も綸のSN生活は始まったわけだ。