つまり自分には、
人間の営みというものが未いまだに何もわかっていない、
という事になりそうです。
自分の幸福の観念と、
世のすべての人たちの幸福の観念とが、
まるで食いちがっているような不安、
自分はその不安のために夜々、転輾し、呻吟し、
発狂しかけた事さえあります。
自分は、いったい幸福なのでしょうか。
自分は小さい時から、実にしばしば、
仕合せ者だと人に言われて来ましたが、
自分ではいつも地獄の思いで、かえって、
自分を仕合せ者だと言ったひとたちのほうが、
比較にも何もならぬくらい
ずっとずっと安楽なように自分には見えるのです。
自分には、禍いのかたまりが十個あって、
その中の一個でも、隣人が脊負ったら、
その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、
思った事さえありました。
つまり、わからないのです。
隣人の苦しみの性質、程度が、
まるで見当つかないのです。
プラクテカルな苦しみ、
ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、
しかし、それこそ最も強い痛苦で、
自分の例の十個の禍いなど、
吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、
それは、わからない、
しかし、それにしては、
よく自殺もせず、発狂もせず、政党を論じ、
絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、
苦しくないんじゃないか?
エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、
いちども自分を疑った事が無いんじゃないか?
それなら、楽だ、
しかし、人間というものは、
皆そんなもので、またそれで満点なのではないかしら、
わからない、……夜はぐっすり眠り、朝は爽快なのかしら、
どんな夢を見ているのだろう、
道を歩きながら何を考えているのだろう、金?
まさか、それだけでも無いだろう、
人間は、めしを食うために生きているのだ、
という説は聞いた事があるような気がするけれども、
金のために生きている、という言葉は、耳にした事が無い、
いや、しかし、ことに依ると、……いや、それもわからない、
……考えれば考えるほど、
自分には、わからなくなり、
自分ひとり全く変っているような、
不安と恐怖に襲われるばかりなのです。
自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。
何を、どう言ったらいいのか、わからないのです。
そこで考え出したのは、道化でした。
それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。
自分は、人間を極度に恐れていながら、
それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。
そうして自分は、この道化の一線でわずかに
人間につながる事が出来たのでした。
おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、
内心は必死の、
それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、
油汗流してのサーヴィスでした。
人間の営みというものが未いまだに何もわかっていない、
という事になりそうです。
自分の幸福の観念と、
世のすべての人たちの幸福の観念とが、
まるで食いちがっているような不安、
自分はその不安のために夜々、転輾し、呻吟し、
発狂しかけた事さえあります。
自分は、いったい幸福なのでしょうか。
自分は小さい時から、実にしばしば、
仕合せ者だと人に言われて来ましたが、
自分ではいつも地獄の思いで、かえって、
自分を仕合せ者だと言ったひとたちのほうが、
比較にも何もならぬくらい
ずっとずっと安楽なように自分には見えるのです。
自分には、禍いのかたまりが十個あって、
その中の一個でも、隣人が脊負ったら、
その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、
思った事さえありました。
つまり、わからないのです。
隣人の苦しみの性質、程度が、
まるで見当つかないのです。
プラクテカルな苦しみ、
ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、
しかし、それこそ最も強い痛苦で、
自分の例の十個の禍いなど、
吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、
それは、わからない、
しかし、それにしては、
よく自殺もせず、発狂もせず、政党を論じ、
絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、
苦しくないんじゃないか?
エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、
いちども自分を疑った事が無いんじゃないか?
それなら、楽だ、
しかし、人間というものは、
皆そんなもので、またそれで満点なのではないかしら、
わからない、……夜はぐっすり眠り、朝は爽快なのかしら、
どんな夢を見ているのだろう、
道を歩きながら何を考えているのだろう、金?
まさか、それだけでも無いだろう、
人間は、めしを食うために生きているのだ、
という説は聞いた事があるような気がするけれども、
金のために生きている、という言葉は、耳にした事が無い、
いや、しかし、ことに依ると、……いや、それもわからない、
……考えれば考えるほど、
自分には、わからなくなり、
自分ひとり全く変っているような、
不安と恐怖に襲われるばかりなのです。
自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。
何を、どう言ったらいいのか、わからないのです。
そこで考え出したのは、道化でした。
それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。
自分は、人間を極度に恐れていながら、
それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。
そうして自分は、この道化の一線でわずかに
人間につながる事が出来たのでした。
おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、
内心は必死の、
それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、
油汗流してのサーヴィスでした。
