彼にとっては意外だったのだろう。
東洋の黄色い猿がNon!と言ったのだから。
彼はカッターナイフを、鼻先に近づけた。
が、私は首を縦に降らなかった。
あちらの言い分は分かる。
本社のデザイン担当からOKをもらっていて、すでにパイロット生産3Mも完了している。
だいたい、辞書通りではないか? お前がおかしいとなった。
が、私には初回からこれでは笑いものになる、販売者も受け入れまい。との自信があった。
center とcentre。
米国ならcenterで全く問題なかったけどね。
販売先はロンドンだったんですわ。
本社がどう処理したのかは知らない。
英国支店からの連絡で、当然アウトとなり、刷り直しが決定した。
あの時の工場長は私の親父くらいの方で、現地では一番世話になった方だが、彼には悪いことをしたと思っている。
二者に挟まれて、一番大変だったろう。
立場上は私を守らなくてはいけない。
しかし、相手の言い分ももっともだ。
彼とは何度か言い合いをしていたが、その時の彼は寡黙であった。
辛かっただろうなと思う。