多くの方はご存知の通り、私は淀大根ほどになると遠慮したい質だが、基本的には葡萄付き桃が好きである。
もちろん、高級一枚貝の上に隠れた真珠あたりはもっと好きなのではあるが、そうなるのはずっと後になってからである。
高校の化学の先生が立派な方で、ベンズアルデヒドの入った三角フラスコを回覧し官能試験準備をしてくれたりした。
大人になったら分かる匂いだ。それまで体を鍛えておけ。
確か、そんな人生訓を与えてくれた大先生だった。
現国の先生は、見張りをたてさせ校長が心労を得ないよう配慮をしながら『青葉繁れる』を熱読してくれた、やはり熱い先生だったが、化学の先生は静かに、しかしどぎついことをサラリ教えてくれた。
しかし、長い間、あのベンズアルデヒドの匂いには、会えなかった。
シンガポールのセミプロを知るまでは。
その方からは、本当に甘い、熔けるようなチュンチュンも教わった。
18の青い珊瑚礁にも似た方で、ついつい葡萄を噛んでしまった。
学生時代は紳士だったが、社会人になりやっと鎖を解かれ、紳士から珍士へと生まれ変わった頃の話である。
噂に聞く蛸だか蚯蚓だかにも、初めて見つけた時は感激して夜も眠れなかったが、ベンズアルデヒドにはさらなる感動があった。
なお、この時代以降を知る読者の中には勘違いなさっている方もいそうだか、私は単に物理的満足を得るためにあの時代を過ごしていたわけではない。
新たな発見に常にうち震えていたのだ。
感動を得る喜びを、喜んでいたのである。
あの頃は、1日1日が必死だった。