
「おい、そこのアキンドシュウ」
うむ?
振り向いてくれんぞなもし。
聞こえなかったかな?
「おい!そこのワカシュウ!」
儂は大声を出した。
やっぱり聞こえなかったんだな。今度は吹っ飛んできたわい。
「はい。おじいちゃん、何か?」
「あのな。儂はアブリはいらんのじゃが、これは生でも買えるのか?」
「はっ?」
「ほれ、あそこにアブリって書いてあるじゃろ。儂は炙り大根はいらん。大根おろしを作りたいんで、生のまま買いたいんじゃが」

「えっ?アブリ?……あっ、アプリ。ぷっ……。ゴホッゴホッ…クックックッ……ゲホッゲホッ」
「若いの大丈夫か?風は万病のもと。金は万乏のもと。花柳は満鋲のもと。気をつけなされ」
「はっ?」
「それとな、儂は10銭とか1銭の持ち合わせがござらん。買えるかの?」
「えっ?」
「ほれ、あれは7円56銭という意味じゃろ?」
「はあ?……あっ、だ、大丈夫です」
「さよか。ほな1本もろていこ」
しかし、変な世の中になったものだ。
炙り大根なら分かるが、南蛮白菜までアブルのか。
儂が若い頃は、アブリ南蛮白菜など聞いたことがなかったわい。
