「敗者の美学」WBC決勝 韓国代表ストッパー林のイチローに対する投球について
WBC決勝の日韓戦に決着をつけたのは、延長10回2死二、三塁でマリナーズ・イチロー外野手(35)がヤクルト・林昌勇投手(32)から放った中前打だった。敬遠もやむなしの場面だけに、韓国では「サインの伝達ミスか」「林のサイン無視か」と物議を醸している。
こんなニュースが夕刊フジに載っていた。
私の考えでは、後者が真実なように思う。
素人でも
「イチロー、敬遠されるんじゃないか・・・」
と容易に考えられるあの場面で、
百戦錬磨のストッパー林がサインをわかっていなかった、わかっていれば敬遠していた、なんてことがあるだろうか。
林は現在ヤクルト所属のストッパー。右横手からの最速157キロの速球を武器に韓国リーグで抑えで活躍し、12年間で104勝66敗168セーブ。
堂々たる成績の、間違いなく韓国ナンバーワンストッパー。日本でいう藤川、一昔前の佐々木といったところだろう。
それだけの実績の持ち主が、WBC決勝延長戦というあの局面で敬遠という選択肢を持ち得ただろうか。
しかも相手は宿敵日本、世界一のヒットメーカー、イチロー。
ピッチャーとして、これ以上ピッチャーであることを喜びと感じる瞬間があるだろうか。
プライドか、チームの意向か。
これに正解は無いだろう。
ただ私個人としては、林の真っ向勝負に、真の意味での敗者の美学をみたように思う。
逆を考えてみてほしい。
もし藤川が、まったく同じような場面でサインを無視して真っ向勝負して打たれたら・・・
私なら藤川を一流のピッチャーとして認めているように思う。
もちろん勝負事なので勝ち負けは最優先事項である。
サインを無視するなんて、普通に考えればチームスポーツでは犯罪もの、言語道断である。
ただ良く考えてみてほしい。
「スポーツの何が人を引き付け、スタジアムに足を運ばせ、テレビの前にくぎ付けにさせるのか」
それは選手のひたむきさ、ぎりぎりの局面でのスーパープレー、真っ向勝負。
選手がゲームで放つ情熱が生み出す感動、これこそがスポーツの価値である。
現在韓国では林が戦犯として叩かれているようだが、もしあの局面で、
林がイチローを三振させてその後韓国が優勝していれば・・・
林は間違いなく
「サインを無視してまでイチローに勝ち、韓国を優勝に導いた英雄」
だったはず。
所詮世論は結果論。
そう考えると、今物議を醸している、サインをわかっていたかどうかなんて本当はどうでもよくて、
大事なのは林が真剣に勝ちにいったのかどうか。
相当の覚悟、揺るぎない自信が無いと、サインを無視してまで全韓国国民が見守る前で堂々とイチローに挑めなかったであろう。
イチローが打ったのはもちろん感動させられたが、林のプロとしての生き様にも美学を見た、素晴らしい勝負であった。