ナイキジョーダンのブログ -17ページ目

ナイキジョーダンのブログ

ブログの説明を入力します。

 その日の談話も遂(つい)にこれぎりで発展せずにしまった。私はむしろ先生の態度に畏縮(いしゅく)して、先へ進む気が起らなかったのである。

  • 当時の紙面を見る
  • 特集「夏目漱石」

 二人は市の外(はず)れから電車に乗ったが、車内では殆(ほと)んど口を聞かなかった。電車を降りると間もなく別れなければならなかった。別れる時の先生は、また変っていた。常よりは晴やかな調子で、「これから六月までは一番気楽な時ですね。ことによると生涯で一番気楽かも知れない。精出して遊び玉え」といった。私は笑って帽子を脱(と)った。その時私は先生の顔を見て、先生は果して心の何処(どこ)で、一般の人間を憎んでいるのだろうかと疑(うたぐ)った。その眼、その口、何処にも厭世的(えんせいてき)の影は射(さ)していなかった。