タヌキ人生、はじまる
とにかく人間社会で上手くやれない。真面目だし、課題もこなす。努力もする。けれども人間と上手くやれないから、学校も行かないし仕事も続かない。自分は堪え性がないのだと、自分に、人生にガッカリしていた。それでも生きていかないきゃいけないから、仕方なく仕事をする。でもやっぱり人間は嫌い。五感が鋭いせいもあって人間のニオイ、音からいやだった。人間は嘘をつくし、乱暴だし、すぐに心を覗こうとする。そんなときに出会った人間がいて、ハシビロコウとカピバラを足して割ったような人だった。彼はいつも静かで、不動で、堅実なのに長閑だった。人とのつながりを大事にしながらも、仕事もできた。私は大変彼を尊敬していたが、それでも他の人間は嫌いであった。ある日私は仕事で消耗していた。人間嫌いだが仕事は一生懸命やるので職場でも重宝されていた(つまり、うまく使われていた)私は手を抜く事ができず、また、それゆえに手を抜く人間からはやっかまれていった。ニオイや音、更に周りの人間の負の感情に汚染され毎日消耗していった。心身ともに弱っていったので、電車にも乗れなくなってしまった。家のホットカーペットと一体化するように寝ていた私に仕事から帰ってきた彼はくそ真面目にこう言った。「なぜ人間社会になじもうとする?都市開発で住むところがなくなったタヌキが人間に化けて生活しているのだから、なじめなくて当然だ」そうだった。私は今までなんだか自分のことをちょっとインテリぐらいに思っていてまわりと衝突するのはまわりがバカだからだと思っていた節があった。しかしそうではなく、もし私がそもそも人間ではないのなら?それからも私の生活は変わらない。食べるために働くし電車にも乗る。人間とも関わるし、犬にも相変わらず吠えられる。でも『違って当然』『馴染めなくて当然』という心持ちが私をいくぶん楽にした。無理して社会的地位を築くのもやめた。今日起きて、働いて、食べて、祈って、寝る。(タヌキの分際でクリスチャンである)それが私の毎日である。最近は、ぎすぎすした汚い人間ばかりの事務所もやめた。今は胸を張って言うが無職だ。どこでも職にありつける資格も持っているのでのんびり探し、なんならアルイバイトでもいいかと思っている。正規社員でないと安定しないとか、格好悪いとか思っていたがそんなだから長続きせずに面白くない思いをしていたのだ。格好悪くても良い。なぜなら私はタヌキだからなのだ。そんなんで今日も起きて、多少寝床をきれいにしたら散歩し食べ物を見つけてきて食べる。そういうふうに生きる、タヌキ人生が始まった。