語り手ベルの古い書物庫

語り手ベルの古い書物庫

オリジナル小説を置こうかと思っています。
拙い文ですがどうか温かく見守ってください。

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先程の街、ラゴニドルカジア、本当に雄々しい名前を頂く街を出て、東へ向かっていた。
その街で出会った少女と共に。
ほぼ無理矢理付いてくるような形で一緒に街を出た少女、トゥーリはどう考えても旅をするような服装では無かった。
別に露出が激しい訳でもないが、ヒラヒラと揺れる外套、と呼んでいいのかワンピースと呼ぶべきなのか分からない滑らかな生地で出来ている服は、どうにも動くには邪魔になりそうで、魔物に襲われたらどうするのだろうと暫く考えながら先を歩く。
ヒラヒラとしたワンピース?の中には裾が長かったのだろう、膝上で括られたスカートが覗いており、歩きやすくはあるのだろうと推察した。
そして、トゥーリが歩くたびに響く、しゃんしゃんという音。
金属同士が擦れあって、美しい音を奏でている。
その音の元は、彼女の衣服やヘアバンドに付いている黄金色の薄くて丸い金属だった。
何やら紋様が施してあり、彼女がどこぞの民族であるような雰囲気を醸し出しているそれは、彼女が歩くたびにその身を互いに擦れあわせて心地のよい音を響かせる。

そして、旅人は彼女の右足全体を覆う包帯が気になっていた。
彼女はその足を庇うように歩くわけでもなく、別段何事もないかのように歩いている。
対照的に、左足は普通のサンダルを履いていた。
ふくらはぎを交差する形で結ばれているそのサンダルは踵が磨り減っており、履き慣れているサンダルであることが分かる。

最後に、彼女の背に括られているロッド。
先端に羽根飾りが二枚付いていて、旅人の目を奪った一番の物だ。
注目するべきは、その二枚の羽根飾りである。
普通の羽根であれば、特に目を引くこともなかったが、何分、大きい。
少女の体の半分ほどから三分の一ほどまである。
極めつけは、白さが尋常ではない。正に純白で、まるで天使の羽根のよう。
そんなに白い羽根を持つ鳥が存在するのならば、会ってみたいとも旅人は思った。

「さっきから私のことを探るような視線で見ているようなのですが、何か聞きたい事でもあるのです?」

旅人の視線に耐え兼ねた少女は痺れを切らして話しかけてきた。
薄々もうそろそろ限界だろうと踏んでいた旅人は至極簡単に少女に質問を投げ掛ける。

「その足の包帯とロッドの羽根飾り、どうしたんだ?」

「足は蹴りを出すときのための包帯なのです。一応対物理加護が掛かっているのですよ。あと、これはロッドではないのです。棍なのです。」

「····棍か、逞しいな···。」

予想外の返答に、旅人は驚いていた。
まさかこんなに華奢な少女が足や棍を振り回して戦うとは思っても見なかったからだ。
しかし、今までの言動の中には強気なものもあり、旅人は何となくそんな印象を内に秘めていたため、絶句するほどでは無かった。
先程の精霊の回復魔法といい、衣装、戦い方といい、この少女は中々に予想外なことをしてくれるもので、旅人はこの先の旅が楽しくもなりそうだと予感を覚えた。

街から出ればそこは緑の平原で、遠くまでが見渡せた。
途中に森や丘、行商の馬車が見える。旅人たちの向かう方向には丘があり、森や山でなくて良かったと旅人は安堵のため息をついた。
一緒に付いてきている少女は獣道には耐えられそうもなく、もし森や山であれば迂回をするつもりだったためだ。視界を遮るもののない丘ならば魔物からの不意討ちを避けられる。
そして丘の上に着けば辺りを見渡せる上におそらく次の街までの距離も分かるだろうと旅人は少し歩を速めた。それと合わせて少女の歩も自然と速まる。

「旅人さん。」

「ん?」

「自分の足で街を渡り歩くってどういうものなのですか?」

「····そうだな····。」

中々に答えの難しい質問が投げ掛けられたと旅人は思案した。
辛いときもあれば楽しい時も、悲しいときだってある。
今、自分の考えている答えを言えば随分と長い説明になるだろうと、旅人はなるべく簡潔に伝えるために言葉を纏めた。
自分が思っているのとは違う意味で捉えられても、それは仕方がない。
同じような考えや思いを共有するにはトゥーリと旅人ではまだまだ意思疏通が足りないためだ。

「····世界が広く感じることも、狭く感じることもある。そして、時に残酷で、時に奇跡を起こすこともある。」

「矛盾している上によく分からないのです。」

「····これでも結構簡潔にしたつもりなんだが。まあ、それは自分で決める、いや、自然とその内に分かるようになるだろう。」

「結局明確な答えはないのですね。」

「明確な物事など、この世界にはないと思うが?」

「····どういうことなのです?」

苦虫を噛み潰したようなハッキリしない表情から途端に怪訝とした表情になった少女。
別にそんなに難しい事を言ったつもりは全く無かった旅人は内心少しばかり驚いていた。
そこまでこの話題を気にするとは思ってもみなかったからだ。
少女には、途端に表情を変えるぐらいこの話題に興味を持つ理由があったのだろうか。
しかし旅人はそんな理由を考えてもどうしようも無いことが分かっていたので言及はせずにそのままの答えを出した。

「奇跡が起こるだろう?それが根拠だ。」

「全くもって意味が分からないのです。」

「···例えば、誰も通らないような森で魔物に囲まれて絶望的な状況がある。その時、奇跡的に行商が行きがかったりすれば、助かるかも知れないだろう?それが根拠だ。」

「”かもしれない”、じゃないですか。」

「そう。”かもしれない”だ。不明瞭だろう?」

「····。」

少女は納得が行かないような顔つきでそれっきりこの手の質問を止めた。
旅人はそれを苦笑いで流す。
まだ若い少女にはよく分からない答えであり例えだろうと旅人は納得のいかない少女に付け足しを言った。

「ただ、真実と明確、まあ確信とも言うが、その両者には違いがある。それについて考えれば自ずと答えの意味が分かるだろう。」

この付け足しを受けて、少女は一つ、重大な質問を旅人へすることとなる。
付け足しには関係の無いことがであるが、旅人にとっては重大な質問を。